第二話 遅刻
「お弁当持った?忘れ物ない?」
「うん、持ったよ!」
と、お弁当を掲げてみせる。
時計を見ると、もう8時3分になっている。
私の学校の最終登校時刻が30分までだから、そろそろ家を出ないと、本格的にヤバい。
「姉ちゃん、ヤバくない?」
陽介も時計を見ながら、そわそわしている。
「ねえ、教科書持った?それに筆箱も…」
指折り確認しているお母さんの前で、陽介が高速足踏みを始めた。
「ねーえーちゃーんー!!」
これでも陽介は、高一だ。
ちなみに私は、ぴっちぴちの高二。
いわゆるJK。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!姉ちゃん早く!」
陽介がしびれを切らし、高速足踏みのまま、その場で回り始めた。
さすがにそろそろ行かないと、遅刻してしまう。
「じゃあお母さん、忘れ物無いからもう行くね!」
「母ちゃん、行ってきます!」
私と陽介は、同時に家を飛び出し、学校に向けて走り出した。
私達二人はそこそこ足が速いので、あっという間に家が遠ざかっていく。
すると、後ろの方からお母さんの叫び声が響いてきた。
「いってらっしゃああああい!!まぁいエンジェエエエエエル!!」
道行く人は驚き、声の主を探している。
「いやあああっ!恥ずかしい!」
恥ずかしさのあまり、スカートを履いているのにもかかわらず、さらにスピードを上げ、走る。
後ろから陽介が、「姉ちゃん、パンツ丸見え!」
って言っていたような気がしたが…気のせいとゆう事に、しておこう。
~校門前~
やっと校門が見えてきたと思った矢先、あの鬼教師…
坂井が校門を、ニヤニヤしながら閉め始めている。
このクソ教師!!
内心毒づきながら、遅刻したくない一心で、足を前へ前へ動かし続ける。
もう少し…もう少し…
頑張った甲斐あり、なんとか滑り込みセーフで、遅刻はまのがれた。
周りを見ると、同じく滑り込みセーフができた人が、4~5人いる。
気温が高いせいもあり、皆汗を流し、その場でしゃがみ込んでいる。
私と陽介も例外じゃないけど。
私達がその場で伸びていると、鬼教師、坂井が大声で休憩の終わりを告げる。
「おーい、お前らー!あと3分で授業が始まるぞー。さっさと行けー!」
あと3分…もう少しゆっくりしたかった。
でも、授業遅刻になるのも勘弁なので、皆渋々立ち上がり、各学年の下駄箱に向かう。
私も立ち上がり、陽介にまた後でと片手をあげる。
陽介も立ち上がり、グーにした拳を私の手に当てる。
「姉ちゃん、一応女子なんだから…パンツ丸見えはよくねーぞ?」
…ちくしょう、ちゃっかり見てやがった。
羞恥で爆発しそうな顔を、片手で押さえ、気にしてないような風に聞く。
「あー…陽介クン、ちなみに柄は…」
ニヤリと笑い、パッと私から離れる。
もしや…
「見てねーよ?水玉パンツなんてっ!」
「バカーッ!!変態っ!」
この際罵倒しまくろう。
「つり目!ツンツン頭!バカーッ!!」
「どうとでも言えー!水玉パンツゥー!!」
お互い言い合っていると、授業開始のチャイムが響いてきた。
「ぅをう、やっべー!じゃあな、姉ちゃん!」
手を振りながら、遠ざかっていく弟に、脅し文句を叩きつける。
「覚えとけー!陽介ーっ!!」
こんな感じで、私と陽介の学校生活が始まる。
喧嘩してから、授業を受ける。
この生活がこのまま続くと、このやり取りを見ている、友人、教師、もちろん私達二人もそう思い、そう信じて疑わなかった。
だが、これから一時間後、私たちは、地獄に突き落とされる。
今思えば、あんなにムカつく弟との喧嘩も、幸せだったんだなと、強く思う。
そう、幸せだったと…