第十七話 気のせい
重い扉をゆっくり開けて、そろっと中の様子を窺う。
非常灯の緑がぼんやりと浮かんでいるだけで、その他は何も見えない。
何も聞こえない。
静かすぎるこの異様な空気に、少し体が震えた。
凝視してた目を数回瞬かせ、濡れた手をスカートになすりつけ、手汗で滑りそうだった武器を再度持ち直した。
海斗が壁に手を這わせ、スイッチを探す。
しばらく手を這わせて目をつむっていたが、ハッと顔を上げた。
手に当たるものがあったらしい。
ジェスチャーで、三人に離れるように指示してきた。
私達は静かに頷きゆっくり下がる。
海斗はしばらく深呼吸していたが、意を決したように暗闇を見据え、左手を動かした。
カチッ
乾いた音と共に、暗闇が白に染まった。
部屋の中を目を凝らしてジッと見ていたが、何も居ないという事が分かると、海斗は肩を落とした。
「…よし、良いぞおまえ等」
その途端ソワソワしていた紫苑が飛び上がった。
「わーい!!紫苑、一番!!」
「あっ、ちょっと紫苑!!」
ドドドドド、と轟音を響かせながら扉に向かう紫苑を姫璃が慌てて追いかける。
「紫苑!?おまっ、ちっとまっどわっ!!」
制止を促す海斗の声も虚しく、紫苑に弾き飛ばされて終わった。
「わー広おおおおおおおおい!!」
決して広くはないであろうと思われる部屋で紫苑のかん高い声が反響した。
この様子を見る限り、やはり、中には本当に、奴らは居ないらしい。
私は握っていた手を緩め、海斗に近づく。
「中には誰も居ないみたいだね。私達以外」
「そうだな」
目を反らしながら言い放つと、サラッと肯定された。
海斗は少しもこの少し異様な空気を感じないのか?それか私の勝手な思い違いなのか。
さっき嫌なことがあったから、少し神経が尖っているのかもしれない。
少し意味あり気に言ったのに、気にも留める素振りも見せず、流されて面食らった。
チラッと横を盗み見ると、当の本人は伸びをして肩を回している。
「俺達も行くぞ。あいつらだけだと心配だ」
海斗はブルッと震えるフリをし、ニカッと笑った。
「…そうだね。姫璃だけじゃ大変だろうし」
私もつられて口が緩み、扉の中を見つめた。
「翡翠!!山下!!ちょっとこっち来て!!」
部屋の中から少し切羽詰まった声が聞こえてくる。
海斗が怪訝な顔をし、体を起こす。
眉に皺が寄り、目には少し不安な表情が読み取れる。
「なんだ…俺達も早く行こう」
「うん」
海斗が心なしか早足で二人の元へ向かう。
私も行かなくてはと一歩踏み出すと、フッと視界が少し暗くなった。
(えっ)
動揺し、思わず立ち止まる。
湿度のある生暖かく、鉄臭い風がうなじを撫でた。
後ろから痛いくらいの視線を感じ、荒い静かな息遣いが聞こえてきた。
心臓がドッドッドッと波打ち、口から今にでも飛び出してきそうだ。
気持ち悪い。
ただの気のせいかも知れない。
少々無理があるが、こう考える事しか突破口が見つからなかった。
このまま三人の所に…
影がゆらりと揺れる。
(いや、駄目だ)
ここで何なのか確認しなくては、三人にも危険が及ぶかもしれない。
ラケットを手が白くなるまで握り、一呼吸置く。
思いっきり体を捻り、奴がいるかもしれない場所へとラケットを投げる。
何かに当たるのを期待し、首を回すが、返ってきたのはラケットが当たる音ではなく、台風のような暴風だった。




