第十六話 真実は遠く
「あっ、見て!あそこに扉があるよ!」
あれから数十分歩きさまよい、やっと目的の場所に着いた。
ご丁寧に扉の上には『区役所倉庫』と記されている。
嬉しさのあまり駆け出すと、海斗が慌てて腕を掴んできた。
「ちょっと待て!…なんかおかしくないか?」
眉を顰めてあたりを見渡す。
私もつられて見渡すが、別段おかしな所はないと思う。
「どうしたの急に。心配なんてらしくない」
あぁそうだなと言いつつもどこか上の空で、やはりらしくない。
いつもの脳天気が消えた海斗が不気味に見えた。
それに加え、たまにこいつの直感が大当たりするから、尚更たちが悪い。
海斗はしばらく扉を凝視していたが、何を思いついたのか視線を私に向けた。
「俺が先に行く。お前等は後から来い」
思い立ったが吉日とばかりに早速一人スタスタと歩き出した。
そんな空気に流され思わず頷きそうになったが、慌てて海斗を呼び止める。
「えっ?いや、ちょっと!」
「なんだよ?」
そんな不思議そうに見られても…。
あの、海斗クン。
君の中ではこの事は解決済みかもしれないけどね?
「……馬鹿な私でも理解できるよう、そこ詳しくkwsk」
「こらそこ。ネット用語を使うんじゃありません」
「わー!翡翠、それ、何語!?」
「はー…お前空気読めよ」
空気読めって言われてもねー。
空気は読むものじゃなくて、吸うものだと思うんだよね。
「おい、それ屁理屈!」
心の中で言ったことが、思いっきり口に出していたらしい。
「大丈夫。翡翠は私が一生養ってあげる。だから屁理屈言っても問題ない」
サラッとなんだか耳を疑いたくなるようなフォローが入る。
まあ、冗談だと思うけど。
…冗談だよね?
ちょっと一人で動揺してると、またしてもツッコミが入る。
「そこまで壮大な話じゃない!お前も翡翠を甘やかし過ぎだ!」
「甘やかしてなんてない。当たり前のことを言っただけ。それに話を逸らすんじゃないわよ」
若干腰が引いたところで私も追い打ちをかける。
「そうだよ、わかんないんだもん。早く教えてよ。何で皆で行かないで後から私達がついて行くの?皆で行けばいいじゃん」
海斗はオロオロと視線を泳がす。
早く教えてくれないかなと待っていると、隣から溜め息が聞こえてきた。
「こら翡翠、海斗をあまりいじめちゃだめよ」
そう言っている本人が一番おちょくっていた気がするが、あえてつ突っ込まない。
話が拗れるから。
「いじめてないよ!ただ何で海斗だけ先に行くのか知りたいだけ」
姫璃にたしなめられるが、教えてくれない海斗に腹が立ち頬を膨らませる。
紫苑が翡翠太ったなんて騒いでいるが、聞かなかったことにしておこう。
私はこんな事では怒らない。
そう、決して怒ってなどいない。
ただ紫苑を、ハリセンで思いっきりひっぱたきたくなっただけだ。
そんな私に気づかず、どんどん話を二人は進める。
「翡翠、山下だって一応男でしょう?プライドが一つ二つあってもおかしくないんじゃない?」
「で、でも…」
追求した方がいいのか、このまま海斗を行かせた方がいいのか迷っていると、海斗が苦笑しながら口を開いた。
「ふっ、そうだった。お前はそういうやつだったな」
「そういうやつって何さ!」
ひとしきり笑った後、海斗はふっ、とまじめな顔になった。
「いいか、俺がこれから話すのはあくまで推測だ、可能性だ、憶測だ。俺の考えに絶対不満があるはずだ。それでもいいか?」
真顔で言われ、思わずゴクリとのどを鳴らした。
海斗は自分に視線が集まったことを確認すると話し始めた。
「まずなぜ俺が先に行こうとしたかだよな?答えはこの話があまりに出来過ぎているからだ。」
あまりにも出来過ぎた話し。
それを聞いた姫璃が興味深げに顎に手を置き、話を促す。
「どういう事?」
海斗は口を開き、少し躊躇った後意を決したうにぼそりと呟いた。
まさかここで陽介の話がでてくるとは思わなかった。
一瞬驚いたが、その直後に理解できた。
ふつふつと私の中で何かが溢れてきた。
海斗は、私の弟を…。
「陽介を、疑っているのね」
自分でも驚くほど冷たく、低い声だった。
そんな私に動揺したのか、海斗の言葉が詰まる。
「だっ、だから!可能性の話をしてるんだって!最初に言ったろ!?」
「わかってるよ…」
さっきまで真相を聞きたくて仕方がなかった。
が、今はもうそんな気分じゃない。
一刻も早く話しを終わらせたかった。
できるならもう聞きたくない。
海斗は話しを続けた方が良いか迷っていたが、俯き加減で話しを再開し始めた。
「まずは話しが出来過ぎているという所からだ。翡翠、陽介はお前になんて言って区役所まで来いって言った?」
「えっ?…皆、先生も皆区役所で避難しているから無事だって」
「そう、その時点でもうおかしいんだ」
「どういう事?」
姫璃が眉を顰める。
私はあまり乗り気ではなかったが、いつの間にか方耳を傾けていた。
あいにく私は推理小説好きだったのだ。
「あいつは皆区役所にいるって言ったんだよな。でもよく考えてみろ。陽介が全員無事だなんて知るはずがないんだ。あいつが言ったことは出任せだ。」
「何で出任せとか…そんな事言い切れるの?」
口出しする気はなかったが、実の弟を悪く言えば嘘吐き呼ばわりされているのを、黙っては聞いていられなかった。
「何でってお前も知ってるだろ」
…あぁ、なんか分かってきた気がする。
海斗が言いたいこと。
「俺達の目の前で、一体何人死んでるのを見た?」
「聞いただけの話しだとまるで、まだだれも死んじゃいませんよって感じじゃねーか 」
海斗が言いたいのはつまりはそう言うことか。
でもその答えには矛盾が多すぎる。
どこそかのゲームで言う『異議ありっ!!』ってやつだ。
早速言ってやろうと口を開くが言葉が出てこない。
そんな私を横目で見て、なおかつ海斗は話を続ける。
海斗は今何て思っているのだろう。
さっきから私に睨みつけられながら、それでも話しを続ける。
私、何か間違ってる?
弟を馬鹿にされて、腹の底から海斗をはり倒したいと思っている私は何か間違ってるのだろうか。
陽介は海斗の後輩だから、できればこんな話ししたくないだろう。
それに最初から海斗は、あくまで可能性の話しだと言っていた。
でも、それでも、理不尽だけど、それでも海斗を睨まずにはいられなかった。
「それと後二つ。二つ目はなぜ道順を明確に説明してくれなかったのか」
「でも陽介は一本道って…それに結果は一本道だったじゃない」
「実際どうだった?一つずつ、確実に思い出してみろ」
命令口調にムッとしたが、私は素直に通路に入ったときから今までの道順を頭の中で整理する。
特に道を曲がったり、階段を上がったりなんて無かったはずだ。
「別に何もなかったじゃん」
「本当にそうか?じゃあ奴らに追いかけ回されたときの事を思い出してみろ」
これ以上考えて何の意味が、とイラッとしたが、何かが引っかかり言われるがままになってしまった。
白い天井を見ながら思い出す。
確かあのとき左右から奴らが出てきて…後ろからも出てきた。
階段から逃げようとしたけど、上からも下からも虫みたいに沸いて出てきたんだっけ。
で、仕方がないからまっすぐ進んだんだけど、前方からも奴らは現れた。
そこで…
「あっ…」
そうだ、確か。
あの時はパニックになってて何とも思わなかったけど
そう言えば…
「私達、途中で…道曲がってる」
私が呆然としていると、海斗が頷く。
「そう、俺達は通路を曲がっているんだ。そのままあーだこーだしてたら元の道に戻ったとも考えられるけど、不自然だ」
「後もう一つ。これが最後の謎だ」
「まだ…あるの?」
紫苑が私の真似をしながらまだ?まだ?といいながら、私の頭に顔を乗せてきた。
まるで猫だなと思いながら、頭をぐりぐりなでる。
海斗は最後の疑問を私達にぶつけた。
「あいつは、奴らが出てくるなんて一言も言ってなかった。そうだよな翡翠」
これはついさっき私も考えてたことであって、どうも違うと言い張れなかった。
もう、何だろう。
私はどっちを信じればいいんだろう。
紫苑の髪を弄りながら、ふとそう思った。




