第十二話 事は奴らの思うまま
夢を見た。
姫璃や海斗、家族の皆が奴らになって、私を襲ってくる夢を。
だから目が覚めて、皆の寝息が聞こえてきたとき、本当にホッとした。
塗れた額を拭おうと腕を上げると、スマホを握ったままだった事に気がついた。
「防水じゃないのに…」
床に置き、手をワイシャツになすりつける。
シャツがじんわりと滲んだ。
寝ぼけ眼で時計をみると、針がまだ五時を指している。
起きるのにはまだ早い。
二度寝しようと、寝返りし、身をよじる。
すると控えめな音で、聞き慣れた着信音が職員室に響き渡った。
慌てて首を持ち上げると、画面がパッと明るくなり、見覚えのある名前が映った。
「まさかっ!?」
スマホに飛びつき、震える指で画面をスライドする。
数秒後、ガチャッと電話が繋がったことを知らせる音声が鳴り、一瞬躊躇した後、カパカパに渇いた口でお決まりの台詞を呟く。
「…もしもし」
耳に入ってきた声は、生意気なあいつの懐かしい声だった。
「もしもし…ねぇちゃん?」
微かで小さな声だけど、確かに声の主は言った。
ねぇちゃん?
あいつの声で、確かに私のことを呼んだ。
「…陽介?陽介なの?」
「…ねぇちゃん!?ねぇちゃん!!大丈夫だった!?噛まれてない?」
「陽介ぇ…良かった…私は大丈夫だから!そんな事より陽介!!あんたこそ噛まれてないでしょうね!?」
即座に元気良く返事が返ってきた。
体中から力が抜け、危うくスマホをおとすところだった。
良かった、生きていて。
しかも噛まれていない。
神様を本気で信じたことはないが、この時ばかりは本気で神様に感謝した。
しかし喜びもつかの間、私は昨日からずっと思っていたことを口にした。
「それはそうと陽介、あんた今どこにいるのよ。校内探し回ったけど、誰一人居ないじゃない」
「皆区役所にいる。先生や友達も!」
「…区役所!?」
区役所と言ったら、ここから一㎞程離れている。
どうやってあの大人数を、あの短時間で…
「体育館に行ってみて…そこに地下通路への階段があるから」
私の考えを読みとったように、陽介は説明する。
「地下通路…そんなものどこにも…」
そう、私はこの高校で一年間過ごしてきた。
だけどそんなようなもの、見たこと無い。
「舞台の下の椅子を仕舞っておくスペースがあるだろう?そこの奥に…っ!!」
突然息を飲むような声が聞こえた。
「ど、どうしたの?」
深く深呼吸したらしく、息を吸う音が聞こえる。
「大丈夫…シャックリが出そうになって」
シャックリ?
少し疑問の残る説明だが、変に散策はせず、陽介の説明にまた神経を集中させた。
「………とまぁ、こんな感じ。出口はエントランスの横の、倉庫みたいなところだ。」
一通り説明をしてもらい、全てをできるだけ頭に叩き込んだ。
とにかく道は一本道だから、迷うことはないだろう。
後は寝ている三人が起きるのを、待つだけだ。
そろそろ電話を切ろうとすると、陽介が意味ありげに女の子を知らないかと聞いてきた。
「女の子?それだけじゃ分からないよ。特徴とか…名前とか」
「特徴…紫色の髪の毛、かな?」
「紫色の髪の毛…そんな珍しい髪の毛の子いるの?……!」
ハッとし、後ろを見る。
そこには姫璃と海斗と、紫色の髪の毛を持つ紫苑。
そう、紫色の髪の毛を持つ紫苑。
「…ゎ」
「なに、ねぇちゃん聞こえない!」
「いるわぁ…今後ろで寝てる」
一瞬の沈黙の後、陽介がそうかと呟いた。
「まぁ、とりあえず待ってる。早く来いよ、パンツ!!」
こいつまだこの事覚えてやがる。
「誰がパンツだって!?ちょっと、陽介!?もしもし!!」
画面を見ると、とっくに通話が切れていた。
~区役所内のとある一室~
「…言うとおりにした。これでいいんだな」
俺達は今、暗い部屋に閉じ込められている。
簡単に言えば、監禁というやつか。
俺以外にも何人かいるが、誰がいるかは分からない。
そして俺は今、監禁の首謀者に命令をされていた。
交換条件付きで。
「そうだ陽介君、これで良い。後はあいつ等がのこのこやって来るのを待つだけだ。」
「違う!そんな事じゃない!!」
そう、聞きたい答えはそれじゃない。
「紫色の女を捕まえれば…ねぇちゃんには手を出さない、俺達を解放する。そうだよな?」
男はねちっこい声で、耳元で呟いた。
「そうだ。あいつを捕まえろ」




