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第十一話 中継

学校が地獄に変わって迎えた、初めての夜。

いつもなら学校に夜まで残るとなると、友人と怪談で盛り上がり、キャーキャー騒ぐが、今は別。

騒いでいたのは、仮にも普段。

今も騒げると言えば騒げるが、騒いだ途端に奴らが、私たちの存在に気づき、この身に食らいつこうと群がってくるだろう。

簡単に言い直すと、自殺行為。

奴らの生態は良く分かってはいない。

だけど、今日一日奴らと戦って分かったことが三つ。

「奴らは、目が悪いよね」

これは、私が確信をついたこと。

今は今日のことについて、四人で話し合っている。

「私達の事も、音で判断していたしね…相当聴覚が優れているはずよ」

記憶を辿りながら、姫理が呟く。

「後嗅覚が凄いよな…人間とは思えねぇくらいだ」

ひじを突きながら海斗が感心している。


ガタンッ


いきなり姫理が椅子から勢い良く立ち上がり、海斗を睨みつける。

この剣幕に海斗は口を引きつらせた。

「なんだよ…」

小さな拳をワナワナと震わせながら、姫理が声を荒上げる。

「奴らは人間じゃない。化け物よ!そんな間違い、もう二度としないでちょうだい!!」

海斗はしばらく考えた後、ようやく自分が不謹慎な事を言ったのではと顔を上げた。

「次言ったら…ただじゃおかないから」

地を這うような声で言われ、私達は身が縮こまる。

この中で、空気を読まない奴…いや、空気を読めない奴が一人。

「姫璃、どうしたの?お腹、空いたの?」

相変わらず片言で、姫璃に問い掛ける紫苑。

紫苑の様子を見た姫璃は、苦笑しながら椅子に腰掛ける。

「ごめん紫苑。大丈夫よ」

そう言うと、紫苑はぱあっと笑顔を見せた。

良かったと自身も席に戻る。

私と海斗はホッと息を吐いた。

紫苑様々だ。

なぜここまでビクビクしていたかと言うと、姫璃がここまで怒ることは、初めてだったからだ。

姫璃が怒った理由はただ一つ。

自分達がとどめを刺してきた奴らを、人間だと思いたくなかったからだろう。

仮にもここで、奴らは人間だと肯定したら、私達は人殺しだ。

いくら身を守るためとは言え、人を殺したことになってしまう。

だからなのだ。姫璃が怒ったのは。

自分達は人を殺していない。

奴らと自分達が同じであるはずがない。

その事で頭がいっぱいなのだ。

今日は色々ありすぎて、身も心もズタズタだ。

疲労も半端ない。

だからだろう。

後から後から考えが浮かんでは消え、浮かんではまた消えて。

その繰り返しなのだ。

「姫璃は…プライドが高いから」

無意識にポロッと口からでてしまった。

「え、なに?」

姫璃が眉を寄せ、怪訝な顔をする。

私は慌てて何でもないと首を振る。

しばらく散策するような目つきをしていたが、やがて興味が無くなったように、視線を逸らした。

「ねえ、そんな事よりTV見ない?」

唐突な提案に、海斗は裏返った声を上げる。

「はぁ!?お前馬鹿かっ!?なんでこんな時にTV…」

この質問に姫璃は呆れたと、可哀想な視線を海斗に送る。

「馬鹿はあんたでしょ?TVで情報収集よ!こんな短時間でこうなったんだもの。メディアが取り上げてるはずよ」

時間を惜しむように、姫璃は喋りながらリモコンをTVに向ける。

ピーと耳鳴りのような音がした後、TVが鮮やかな色に染まる。

音があまりにも大きかったため、慌てて音を0にし、字幕に切り替えた。

しばらく床に這いつくばり、足音が近づいてこないか耳を澄ます。

幸運なことに、足音らしき音は聞こえなかった。

安堵の溜息を吐きながら、スカートを叩く。

「これからは、もっと神経尖らせないと…」

何気なく言った言葉に、二人はうんと頷いた。


中継が繋がりました。大崎さん?


私がTVを見上げたとき、タイミング良く中継が繋がった。

姫璃は手にメモを持ち、紫苑と海斗は椅子に座る。

私も座ろうとしたが、次の光景に動きが止まった。


こちらは渋谷のスクランブル交差点です!

ご覧下さい、この惨状を!

あちこちで人が人を噛むという、不可解な伝染病が広まっています。

移ってしまうと、もう死は決定的なものとなってしまいます。

皆様、感染者には決して近づかないで下さい!

もし感染者が近づいてきたら、頭部を…頭部に強い衝撃を与えて下さい。

そうすれば、感染者は絶命するとのことです。


開いた口が閉じないとは、このことだ。

覚悟はしていたが、まさか大都会の渋谷が

こんなことになってるなんて。

カメラには死体やら、感染者、逃げまどう人々が鮮明に撮されていた。

姫璃の手からメモが滑り落ち、海斗は…何を考えているのだろう。

無表情だった。

紫苑は興味深げにTVを見つめている。

TVを見るのは初めてなのだろうか。

どちらにせよ、とにかく二人の様子は、意外と普通だった。


皆様、なるべく家から出ないようにして下さい!

自衛隊が直に助けに向かいます!

…外にいる方!避難所が各地域の市役所、区役所に設置されています!

早く、一刻も早く、最寄りの役所へお向かい下さい!


最寄りの役所…ここからそう、遠くはない。

明日の予定が早速決まった。

明日の予定を整理していると、いきなりTVの画面が赤くなり、中継が切れた。


大崎さん?大崎さん!?…失礼いたしました。

では、次のコーナーに参りましょう。


メインキャスターが、何事もなかったかのように、進め始めた。

ここでTVの電源を切る。

「やっぱり、ここだけの騒ぎじゃなかったね」

心のどこかで、この学校だけの事件であるようにと祈っていた。

だけど、やっぱりという気持ちの方が、大きかった。

だから、あまりショックは受けなかった。

「もう…寝ない?」

姫璃がさり気なく聞いてくる。

時計をみるとまだ八時だが、今日は何にせよ疲れた。

姫璃の案に反対する奴は、いなかった。


姫璃が拝借してきた毛布にくるまりながら、スマホの画面を点ける。

「着信0…かぁ…あ」

バイブがなりながら、電源が切れた。

まだ電気は通ってるはず。

目を頼りに、電源を探す。

しばらく手で探っていると、それらしき物が見つかった。

手持ちのコンセントを差し込み、電源ボタンを押す。

画面が明るくなった。

その事にちょっと安堵し、少しだけ泣きそうになった。

ほんのりと温かいスマホを抱きしめ、長い長い一日を終えた。

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