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私と友人達とのお茶会に今世の彼。1

 ……全く、本当に全くですわ……。ルイス様が私の縁談を邪魔しなければ、とっくに誰かと婚約くらいしていたはずですのに。……ああ、どうしてくれましょう……。

「カリン声に出てる、出てるよ!?」

「あら?」

 いけないいけない。いつの間にか心の声が外に漏れていましたか。

「うっかりさんね~」

「うっかりで片付けるの!?」

「うっかりですね」

「うっかりなんだ!?」

 ケリーが青いやら赤いやらな顔色で、まだまだ冴え渡るツッコミをしてきます。もー本当に良い意味で見かけ倒しなんですからっ。

 こほん、と咳をひとつ。二人のおかげで私も落ち着くことが出来ましたし、そろそろ話を変えましょう。ルイス様の話とか、ほんと、もーいいですから。

「さて、からか……冗談もこれくらいにして。“本題”は終わりですか?」

「そうよ……って、待て。今『からかう』って、『からかう』って言おうとしてなかった? それってもしかしなくとも、私に対しての言葉だよね!?」

「もーそんな細かいことはいいじゃないですか」

「なんで“仕方ないなあ”って目で見て来るの!? 細かくないし!」

「どうどう、よ~。ケリー、落ち着きなさいなって~」

「ちょっ、二人がっ…………はーーー、もう、いいデス……」

 それはもう深く長い溜息を吐き、ぐったりとしたていで座り直しました。あらあら。

「ふふふ~。それで~、カリンどうするの~?」

 にこにこと笑いながらケリーを見て、私に聴いてきました。

「どうするの、とは?」

「ん~、ルイス様のこととか~?」

 むむ。せっかくルイス様から話を変えようとしていましたのに。メイベルはズバッと聴いてきますねえ。

「そんなあからさまに嫌そうな顔をしなくても~。『どうしてくれよう』なんて言っていたから、ちょっと気になっただけよ~」

「……ルイス様を無視するとかはやめてよねー。ルイス様に睨まれちゃうから」

「例え私が無視してもルイス様が二人を睨むことはないですわよ。まあ無視なんてしませんが。……もうしてしまったこと、起きてしまったことはどうしようもありません。気付かなかった私がマヌケなんですから、怒ってもそれをぶつける様なことは致しませんわ」

 ぎったんぎったんにしたいくらい業腹ですがね! とは言いませんが。感情が今度こそ漏れないように目をそっと閉じます。

 二人は目をぱちぱちと瞬いていましたが目を閉じると、ふっと微かな音が聞こえました。

「それでこそカリンだわ」

「本当に並の男達よりもカッコいいわね~」

 くすくすと笑い声がした後、ガッコガッコと音が聞こえて目を開くとケリーが椅子を引き摺って私のすぐ横に来ていました。何ですか!?

「あなたまで横に何ですかケリー」

 と少し慌ててケリーの方へ右に向くと、左からどーんと何かがぶつかってきました。いや、まあ何かって言いますか、メイベルしかいませんが。……って苦しい! メイベル、苦しいですよ!

「な、何ですか、メイベル。と言うか、苦しいですっ。ケリーた」

 助けて、と続けようとしましたが、ケリーも私も抱きしめてきました。あなたもですか! 私が目を閉じている間に何の目配らせが!?

「ちょっ……」

「カリンふかふか~」

「え」

「肌もすべすべねー」

「へ」

 わちゃわちゃと揉みくちゃにされています。言葉通り! 何、何、何!?

「あ~も~この際カリンは誰にも渡さないというのはどう~?」

「いいわね。ルイス様にも渡したくないわ」

 これはまさかのハーレム!? 両手に花状態ですか! 急展開過ぎませんかね! 別の方向に! ……って、二人の手、手が!

「ケリー! メイベル! ちょっと……」


「それは困るなあ。マッキンリー子爵令嬢、ラングウッド子爵令嬢」


 女にしては低く、男にしては高く柔らかい響きの声が、揉みくちゃにされて大変な私の耳に届いてきました。

 はっ! こ、の、こ、え、は!

「あらルイス様、御機嫌よう」

「ふふ~。お久しぶりですわルイス様~」

 二人は私を抱きしめたまま私達に声を掛けてきた人物、ルイス様に挨拶をしました。ルイス様も「久しぶりだね」と返していました。私も一拍遅れて二人の腕を掻き分けてからルイス様の声がした前方へ目を向けます。

「ご、御機嫌ようルイス様……」

 少しくったりしていますが、なんとか私もルイス様に挨拶します。

 ルイス様は、光の反射で水色にも見える青い短髪をさらさらと風に靡かせ、綺麗な黒い瞳を丸くして私を見ていました。ああ、今日も中性的だけれど綺麗に整った顔ですのに、その目を丸くしている様は大型の犬のようですわ。思わず和んでしまいます。顔には出しませんが。

 ルイス様は丸くしていた目を柔らかく細め、くすっと笑いました。

「やあ、カリン。髪がくちゃくちゃでも変わらず可愛いね」

 可愛さで言ったらルイス様には勝てないと思いますよ? とは言いませんが。

「あー……ありがとうございます」

 御座なりに返事をしますが、ルイス様は気にした様子はありません。どうせ“照れてる”とか勘違いなさっているのではないでしょうか。不本意です。

「それでルイス様~、この女の園に何かご用でしょうか~」

 メイベルは相手が侯爵家の嫡子であるルイス様でも変わらず語尾を伸ばして訊きました。……でも『女の園』って。何故こんな状態の時にそんな言葉を選ぶんですか。妙に如何わしいですよ。

「そうですよ。いくらルイス様でも殿方ならここは遠慮してくださいな」

 ケリーもメイベルに続かないでください。

 私が微妙な表情へ歪めつつ話を挟もうとしましたが、それよりも早くニコッと笑ってルイス様が言葉を発しました。

「それは申し訳ないね。僕も遠慮しようとしたんだけど、不吉な会話が聞こえてね。思わず声を掛けちゃったよ。……でもわざとだよね?」

「何のことでしょう」

「何のことでしょうか~」

 にこっ。

 にこっ。

 え、何ですかこの状況。三人共笑っていますのに、全然空気が柔らかくないですよ。

 ……まあ、このやり取りが茶番だというのは分かりますけど。

 もう随分前になりますが、二人とルイス様は私を介して知り合いました。身分は違いますが今では気安い友人同士なんですよ。歳も近いですし。

 お互いに友人となれたのは私がいるからというのもありますが、おそらく一番の理由は“擦り寄って来ない”でしょう。

 ルイス様は親しい者達以外の人には厳しいです。本心を微塵も覚らせようとしません。それは家のことや職業、それに顔が良いですから、有象無象がいっぱい来るのですよ。仕方ないですよね。それで取り分け女性の纏わりが大変でして、擦り寄って来る者には必要以上に容赦がありませんでした。今では無意識に排するほどです。

 その点で言うと、ケリーとメイベルにはもう婚約者がいる上に話によるとルイス様は好みじゃないらしいです。それに家は子爵ですが会ったばかりならいざ知らず、とあることにより今では侯爵家に擦り寄る必要もなくなりました。

 なので大丈夫だろうと会わせたところ、三人は妙に馬が合ったようで今に至るという訳です。

 さてさて。

「はい、御三方。仲が良いのは十分分かりましたので、そろそろ止めましょうか」

 まだにこにこと牽制?をしていた三人に、パンパンと手を叩いて注目を集めます。

 するとピタッとよく分からない笑みを止め、苦笑といった顔になりました。こちらへ向きますと、

「いつ止めてくれるかなって思ってたよ」

 とルイス様。

「どの辺で止めようかなって思ってたのよ」

 とケリー。

「うふふ~」

 とメイベル。

 ――などとのたまわりました。

 …………これが巷で言います“予定調和”というやつですね? なるほど。覚えておきます。




 私にべったりだったケリーとメイベルは気が済んだようで離してくれました。席は近いままですが。

 三人は和気藹々と話しています。良かった、楽しそうです。ルイス様は立ったままですが。

 っと、そういえばですよ?

「あの、ルイス様?」

 話の切りがよかったのか、すぐに応えてくれます。

「何? カリン」

「今更ですが、ルイス様は何故ここにいるのですか? 仕事は宜しいのですか?」

 勿論仕事とは騎士団の仕事のことです。ルイス様はお兄様の部下で、第一王子付きの近衛兵をしています。お兄様はそこの副隊長を務めていますよ。

 二人共近衛という大事な役職に対してとっても若いです。普通に大丈夫なの?ってレベルです。兄様なんて二十歳で副隊長ですからね。ですが、侮ってはいけません。我が家は代々続く騎士の家系ですよ? まあ近衛に抜擢されたのには家のなんちゃらというものが少し関係しているのかもしれませんが、ちゃんと実力ですから! 初めの頃の無謀にもお兄様に挑まれた方々は当然全員返り討ちです。ざまあみろってやつですね。そしてそれはルイス様も同じことで、小さい頃から我が家で遊んでいたルイス様はお兄様の下か同等の力を持っています。なので今ではすっかり認められ、職務に励んでいますよ。

 話が逸れましたが、そんな忙しいルイス様がまだ昼間と言ってもいい時間にここにいるのでしょう? 不思議です。

 ルイス様は私が余程不思議そうな顔をしていたのかクスッと笑います。全く失礼ですよ。

「本当に今更だね。でも大丈夫。何かリオンが急に休みをくれたんだよ」

 何故かね、と肩を竦めますルイス様。本当に困惑しているみたいです。

「はあ? 随分急じゃないですか?」

 それに対して私は思わず、まるで喧嘩を売るかのような声で言ってしまいました。不可抗力です。

 お兄様ったら何を考えているのかしら。急に予定を変えてはいけないでしょうに。もしかして朝のやり取りで頭が緩んだ挙げ句、ネジがどっか行ってしまったのですかね?

「カリンの考えていることが何となく分かる気がするわ」

「カリンの毒舌はリオン様に容赦ないものね~」

 ボソボソとそんな声が聞こえます。うるさいです。

「急は急だったけど、リオンのことだから大丈夫でしょ。隊長もいいって言ってくれたし」

「ならいいのですが……」

 とは言っても下手なことをお兄様がする訳がありませんのでお兄様やルイス様の心配はしていませんが。心配なのは他の部下の方々ですよ。……うん、今度差し入れでも持って行きましょう。

「では何故ここへ? 休みとは言っても大丈夫なのですか?」

 と首を傾げつつ訊きます。ルイス様は侯爵家の一人息子ですからね。忙しいはずです。では何故騎士になったかと言うとあの家の決まりだそうです。“爵位を継ぐまでは騎士団にいろ”だそうですよ? すごい決まりですよね。

「もともと無かった休みだから、今日ぐらいは大丈夫だよ。息抜きもしなきゃ。ということでカリンに逢いに来たんだよ。渡したい物もあってさ」

「渡したい物、ですか?」

 何でしょう。ここからではテーブルに阻まれてルイスの手が見えません。何か持っているのでしょうか?

「はいこれ。カリンが読みたいって言ってた本だよ」

 トンッとテーブルの上に紙袋が置かれました。

「えっ」

 嬉しさよりもちょっとした気まずさが出ます。確かに以前チョロッといくつか本を読みたいと話しましたが……。ど、どの本のことでしょう……?

「カリンにプレゼントですか~。さすが、チャンスを逃さないですね~」

「カリンの読みたい本って?」

「あ、待っ……!」

 すかさず両隣の人が紙袋へ手を伸ばし、制止の声が届く前に中身を取り出してしまいました。

「うわ、見てよこれ。分厚っ」

「なになに~、『この国における繁栄の歴史』。……え、歴史書~?」

 まず取り出したのは、そこそこ厚い臙脂えんじ色の歴史書でした。って、あー! ずっと探していた本ですよ、コレ!

「ル、ルイス様、コレ……!」

 はい、と渡された本をプルプルと震える手でじっと見詰めます。

「それ、ずっと探しているって言っていた本だよね? この前出掛けた時に見つけたからさ」

 ぎゅうううっと本を抱きしめてからルイス様に心からのお礼を言いました。

「はいっ! ありがとう、ございますっ……!」

「……っ! いや、えと、……喜んでくれて何よりだよ」

 少し言葉に詰まりつつもルイス様が言いました。若干赤いようですが……? まあそんなことこの本を前にしたら瑣末事ですね! やっと手に入れましたようっ。

「おーっと、ここでルイス様への好感度がアップした模様です。どう思いますかメイベルさん」

「そうですね~ケリーさん。なかなかに良い手だと思われますよ~。この探していた物を見つけてあげたっていうのがミソですね~。ややカリンの反応に気になるものはありますが~」

「うるさいよ、キミ達」

 何かぼそぼそ聞こえるような気がしますが、気のせいですね。はあーやっと、やっとこれで……。

「ねえ~~~~、カリン~~~」

 ふうー。

「ぴゃっ!」

 ガタガタッ、と左耳を抑えてメイベルから距離を取るように飛び上がります。

 左! 左耳に息がっ! うあー! 一気に鳥肌が立ちましたよ!

「何するんですかメイベル!」

 睨みつけますがメイベルは飄々としています。くわー!

「だってこうでもしないと返ってこないでしょ~?」

「それにしたって……!」

「はいはい、カリン抑えてねー。耳が弱いカリンにはキツイとは思うけど、顔真っ赤にして睨んでも迫力無いからー」

「弱くないです!」

 はいはい、と流されます。なんですか! って、ルイス様? ぼそっと「耳か……」なんて呟かないでいただけます?

 じーっと見つめていますと、私の視線に気が付いたルイス様が気まずげに目を泳がせしどろもどろにメイベルへ聴きます。

「えーっと、それで? メイベルはカリンに何かあるんじゃないのか?」

「そうそう~。カリンって勉強好きだったっけ~? 歴史書なのにすごい喜びようだな~って思って~」

 私はたっぷり間をおいてから溜め息を吐きました。メイベルはどんな時でもメイベルですよね、本当に。

 そういえばまだルイス様が立ったままでしたので、メイドに急いで用意をさせました。すみません。指示し忘れていました。ほとんど待つ間もなく持って来た椅子へルイス様が座ったのを見てから、私もゆっくりと席に座り直しました。

「……特に勉強好きと言う訳ではありませんが、この本は別ですよ。この著者が好きなだけです」

「へー、どんなところが好きなの?」

 とルイス様が訊いてきましたので、「そうですねえ」と手元の本を開きました。

「この本は題名の通り、この国にあったことを書いているのですが、その時の噂や口伝えによる話に基づいての著者の考えも織り交ぜて書いているのです」

「「「えっ」」」

「なので中々面白いこと歴史が分かりますよ。まあ『――噂によると当時の王様はロリコンだったらしい』とか変な情報も混ざってますが」

 あははー、と笑いますが微妙に空気が固いです。まあ無理もありませんが。

「……ねえ、カリン。その本って、大丈夫なの……?」

 ケリーがおそるおそる訊いてきます。ですが心配ご無用です。

「大丈夫ですよ。せいぜい『ロリコン』程度のものをバラされるくらいですから」

 私がこの国にマイナスになるような本をルイス様に話す訳がないじゃないですか。ちょっとしたギャグのような内容ですよ。

 と言うと、あからさまにほっとした顔を浮かべました。すみません、ちょっとしたお茶目ですよ。

「もー驚かないでよっ」

「反王家の本かと思っちゃったわ~」

「噂ってそう言う意味かあ。良かった、ロリコンくらいなら大丈夫…………大丈夫かな?」

「「ギリ」」

 ですよねー。




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