前世の彼女と今世の私の婚約者。
えー、全文彼女視点から書いてますので読みにくかったらゴメンナサイ!
あとこれから前書き、後書きは書きません!
何かあれば全部活動報告のほうに書きますので悪しからず!
では、どぞ!
突然ですが、私には前世の記憶があります。
でも記憶があると言っても、彼女の人生を丸々全て覚えているというわけでもないのですが。
私が覚えている記憶とは、彼女が強く思ったことを中心に私の意識内に浮上してきます。例えば、すごく嬉しかったことや激しく腹が立ったことなどですね。普通の生活行動、食事や入浴など特に取り立てるものが無いのに関しては靄が掛かっているように曖昧で判然としません。
……あっそうそう、私の前世は今と同じく女性でした。断片的にある記憶の中の私は結構美人でしたよ? 今もですが。
その前世の彼女ですが、そうですね、今から大体ニ百年くらい前に生きていたみたいです。
何故分かるかと言いますと、それはズバリ服です! 女性の服というのは周期というものがありまして、昔に流行していたデザインが廻り廻ってまた流行仕出すのですよ。面白いですよねー。
まあそれでですね、話の流れから解ると思いますが、前世で着ていた服と今着ている服のデザインがほぼ一緒なんですよ! あらビックリ、肌に馴染みます。
記憶だけでなくちゃんといつも贔屓にしている仕立て屋にも訊いてみたりと調べましたから確実ですよ。老舗だったのでデザイン画が残ってました。
……なんてここまでグダグダと言いましたが、本当は生きていた頃の年号を覚えていました。スミマセン。
いや、服の話は本当ですよ? ただ年号だけじゃ不安というか妄想みたいな気分だったので調べていたのですよ。他にも家具の様式とか……。本当ですよ、信じてください!
私にだってグダグダ言いたい時くらいあるんです。心の中に溜まる鬱憤が晴らしたい時だってあるんです!
考えてみてくださいよ。前世の記憶がある、なんて人に言えば確実に白い目を向けられ、頭を疑われ、挙げ句に神殿へ強制連行決定じゃないですか。一般的な祈る方ではなく危険、注意と隔離される方の! 私は正常なんですからね!
――――はっ!
……いやいや、そんなことよりも私が言いたいことはですね、忘れたいことを忘れられないでいるっていうことですよ。
百歩譲って前世を覚えていることはまあ良しとしましょう。たまに便利なこともありますし。まあ早くから人格が形成され、子供らしい子供に成れなかったのは残念でなりませんが、そこは仕方ありません。
で。で、ですよ。私が忘れたいことって言うのはですね、婚約者のことです。
前世の彼女にはそれはそれは仲の良い婚約者がいて、もうすぐ結婚する予定でした。……けれどそいつがもう最悪です。忌ま忌ましいです。何故そんなに最悪かと言うと、彼女はその婚約者に――――捨てられたんです。
シャナの年二五三 三の月の七 カリン・エスタフォード
*
「はあ、今日も裏日記が大変なことになってしまいました……」
私室で机に向かい日課である日記を書き上げるとポソッと呟き溜息を吐きました。
文字を書けるようになったのは三歳からですので、この日記を書き始めてもう十三年になりますか……。感慨深いものです。今何冊目なんでしょうねえ。
さて前世のことは誰にも秘密なのですが、たまに人に言いたい衝動に駆られます。なので私はどうすれば良いか考えました。具体的に言うとニ歳辺りからですね。ずっと考えていたのでその頃私は大人しかったでしょう。率直に言えば可愛くなかったでしょうねえ……。思わず遠い目をしてしまいます。
まあ今更な話ですね。どうしようもないことですし。話を戻しましょう。
それで思い付きました。そうだ、紙に書こう!と。なんてことのない当然な結果ですが、当時ニ歳の私からしたら画期的なアイディアだったんですよ。前世の記憶はあっても当時の私は二歳には変わりなかったんです。そこは大目に見てください。
それから私は言葉と字が多少はっきりしていても大丈夫だと思う三歳になるまで待ってから誕生日に買ってもらいました。両親はこの子は天才だあ!なんて言って大騒ぎでしたが。そうでもないですよね?
まあとにかくそこから私は日記ならぬ裏日記に思いをぶつけることにしました。誰にも見せてはならない最悪な代物を抱え込むことにはなりますが、それでも気分はスッキリしますのでどうしても止められません。
いつもは朝に夢でこんなことをあった、思い出したなど取り留めのないことを書いているのですが……、今日の日記はこう、一段と憎しみが篭っていますねえ……。
まあそれもここ暫くの間は仕方ないことだとは思っています。だって――――。
コンコンッ
「はい、どうぞ」
そう私が答えますと「失礼いたします」という声と共に扉が開きました。あら、今日は最近新しく入ったメイドのミナですのね。
「カリンお嬢様、御朝食の用意が出来ました」
「分かりました。すぐに行きますわ」
そうニッコリと微笑みつつ答えると、ミナは少し顔を赤くしながら戻って行きました。ふふ、初々しい反応ですね。とても可愛いらしいです。
おっと、こんなことを思っている場合ではないですね。裏日記をいつものように隠して、……っと良し。それでは下に降りましょうか。
「おはようございます。お父様、お母様、お兄様も。今日は御一緒出来ますのね」
下に降りて大広間に入りますと、既に家族達が座っていました。
私が席に座ると、お父様とお母様が「おはよう」と返してくれます。
「おはようカリン。今日は騎士団へ少し遅く行っても良い日でね、皆と一緒に食べることにしたのさ」
「まあそうでしたの。遅くなってしまい申し訳ありません」
「いや大丈夫だよ。俺達も今来たばっかりさ。な、父さん」
「ああ。気にすることはない」
「では皆さん揃ったことですし早速戴きましょうか」
お母様は微笑みながらそう仰り、私達は頷くと神へ祈ってから食べ始めました。
大変美味しい朝食を食べ終わり皆で紅茶をのんびりと味わいつつ最近のことや今日の予定などを報告し合っていますと、お兄様がそれはもう憎々しい言葉を私に仰ってきました。
「なあカリン」
「何でしょうお兄様」
「アイツとの正式な婚「何でしょう、お兄様」なんだ……」
聞きたくない単語がありましたので思わずお兄様の言葉に被せてしまいました。私ったらはしたないですね。おかげで皆黙ってしましたわ。
室内には私の紅茶を飲む音だけが小さく響きます。ああ、本当に美味しい紅茶ですこと。
「……なあ、アイツの何処が気に入らないんだ?」
やはり沈黙を破ったのはお兄様でした。お父様とお母様はもうこの話題については傍観者になりつつありますから。
「お兄様。その質問に対する答えはもう何回も言っています。『私の魂が生理的に受け付けません』と。それよりも……」
チラッとお兄様を見遣ます。少し笑ってみましたが、目は絶対笑ってないでしょうねえ。お兄様の肩が少しビクッと反応されましたし。
「私の婚約云々よりまずはお兄様の結婚が先ではなくて? そう言えば最近クレアお義姉様との仲はどうですの?」
「…………」
「お兄様? どうかされまして?」
とカップをソーサーに戻し、表面上は急に黙ってしまったお兄様を心配する表情にします。
「……その如何にも心配してますって顔を作るのは止めなさい。どうせアイツから聴いているのだろう?」
どこぞのお嬢様方に人気なお兄様の甘いマスクがむっつりと不機嫌顔になりました。こんな顔になっても俗に言うイケメン顔はちっとも崩れませんわね。寧ろもっとお嬢様方を誘惑しそうですねえ。
さて私はお兄様のことを敬愛していますが、今この時はお兄様が嫌な思いをしていることに爽快感を覚えます。なので、もっと口撃しましょう。
「何のことでしょう? お兄様とお義姉様が今喧嘩をしていることなんて、私は知りませんわ。暫く顔を見せるなと言われたことも、そのために結婚の話が中々進まずにいることも、私はちーーっとも存じておりませんよ」
にっこりと無邪気そうな笑顔でお兄様に言ってあげます。あくまでも無邪気、そう、ですが。
「……なあ、父さん。女って、怖いな……」
そう言って、お兄様は肩を落とし額をテーブルに付けてしまわれました。うふふ。
お父様は紅茶を一口飲み、やたら感情の籠った声で仰られました。
「……だから、いつも言っているだろう。男は諦めが肝心な時もあると。カリンは母さんそっくりだからなあ……」
「あら、あなた。何か含みがあるような物言いでしたが私に問題でも?」
おっとっと、お母様のいつもの微笑みが氷点下にお父様のいつもの無表情は凍り付きつつあります。
「ふふふふふふ」
「ナ、ナタリア、ちょっとまっ……!!」
「うふふふふふふ」
ガタガタンッ、ガシッ、ガツンっ、ズル、ズルズルズルズル……
あー、お父様がお母様に引き摺られて行ってしまいましたわ……。扉の向こうに消えるのが早くて、お父様に手を振って差し上げられませんでした。残念です。
それにしても流石お母様。たとえ女でもあの腕力と握力、それに瞬発力などなど、やっぱり代々続く騎士の家の娘なのですね。私は握力がないのでお母様が羨ましいです。
さて、紅茶も飲み終えてしまいましたし、もう部屋に戻りましょう。
「ご馳走様。お兄様、私はもう部屋に戻りますね。お兄様ももう行かれた方が良いと思いますよ」
私の言葉にお兄様は顔をやっと上げました。……ちょっと情けない顔ですね。さっきの遣り取りの間ずっとクレアお義姉様のこと考えていたのでしょう。お兄様をここまで萎れた顔にさせるのはクレアお義姉様以外じゃ有り得ませんもの。……ふふっ。もうお兄様ったら莫迦可愛いですわー。さっそくこのことをお義姉様に報告しましょう。
「それでは失礼致しますね」
善は急げ、早く部屋に戻らなくては、とお兄様に背を向けて歩き扉の取っ手に手を掛けたところで名前を呼ばれます。
「カリン」
お兄様の真剣なその声に、取っ手へ手を掛けたまま止ってしまいました。
「俺の目から見てもアイツは騎士団の中でも強いし、根性あるし、良い奴だ。それは幼馴染であるお前も知っているだろう」
「…………」
「お前は十六になったばかりだ。まだ数年は時間もある。悩んでも良いと思うさ。でも、何故そんなにアイツだけを頑なに拒むんだ? ちゃんと説明してくれなければアイツが諦められないだろう?」
思わず黙りこくってしまいます。取っ手を握っている手から汗が滲み出てきます。
どのくらい時間が経ったのか分かりません。私には長く感じましたが、多分それほど経ってはいないでしょう。
「……そんなこと……。ずっと、ずっと昔から、知っていますわ……」
ずっと思っていた、思い続けていたことを少しだけ呟きました。……蟠っていた思いの欠片を、外へと洩らしました。
「え?」
お兄様には小さ過ぎて聞こえなかったみたいですが、構わず目を静かに閉じて淡々と零します。
「……あの方を拒むのは、私が弱いからです。……弱い私には怖くて堪らないので、あの方を受け入れることが今でも出来ないのです」
――――怖い。すごく怖い。また、あの時のような思いは……。
「…………」
今度は聞こえたのでしょうか? お兄様は何も仰りません。
ガチャッ……
扉をゆっくり開きます。でもそのまま出て行かずにお兄様へと笑顔で振り返りました。
「私の敬愛する最近しょぼくれているお兄様に良いことを教えて差し上げますっ。あの日からクレアお義姉様はお兄様のことをそれはもうボロクソのように私へ毎日仰ってきますが、本当はお兄様のことをいつ逢いに来てくれるかとずっと待っていますよ? とてもとても寂しがっています。何があったか詳しくは知りませんが早く逢いに行って上げてくださいね?」
「……しょぼくれたは余計だよ。それに毎日ボロクソのようにって……。はあああ……。分かった、ありがとうカリン」
「ふふ」
少しだけお兄様の目に力が籠ったのを確認してから、やっとこの部屋を後にしました。
「はあー全く、笑いたくないなら笑うなよな……。……それにしても弱いから、か……。あの小さな身体で、カリンは何を抱えているんだろうな……」
私が去った後にお兄様がこんなことを呟いてるとは、流石の私にも分かりませんでした。
*
ぼふっ
私は部屋に入るなりベットへと思いっきりダイブをしました。何度か跳ね上がりやがて私の体が柔らかいベットに沈みます。
ちょっと今、自己嫌悪中です。部屋に戻ると冷静になりましたが、冷静になった途端に先程の行動が脳裏に甦ってきました。最悪です。お兄様に八つ当たりとか……。うーあーうー。
やはり朝のあの夢を引き摺っていたのですね……。裏日記に全部ぶちまけたと思ったのですが、私もまだまだです……。
今日も稽古とお茶会があり忙しいのですが、今は何だか混乱していて思考が纏めることができません。はあ。
……まだ時間はありますね。少し整理でもしましょうか、今までの事とこれからの事を。
*
そういえば三歳からこの日記を書いていますが、しっかりと自分の事を表記したことなかったですね。ということで情報整理の最初は、今世の私について書きましょうか。
私の名前はカリン・エスタフォード。代々続く騎士の家系であるエスタフォード伯爵家の娘。シャナの月の二三七、二の月の三十四に生まれ、現在十六歳。家族は父のダリル、母のナタリア、四つ上の兄のリオン。
さて、プロフィールはこんなものですか。それで一番重要な前世のことについて纏めましょう。
私には前世の記憶があり、今から約二百年ほど前に――――……これは今日の朝にも書いたことなので割愛します。手が疲れますので。えーと今朝に書いてない前世のことと言えば、婚約者のことについてですね……。
……簡潔に纏めるのは難しく乱雑な文になりそうですが、まあ取り敢えず書いていきましょう。
まず今の私の認識としては、前世とは言え彼女と私は別の人物ということです。魂は同じでも育った環境が違いますから、たとえ記憶があっても考え方や感じ方は少し違ってきます。んと、感覚的には双子の片割れの考えてることが分かるって感じじゃないでしょうか。多分。同じだけど、どこか他人。
しかし彼女が強く強く思ったことに関しては、他人事のように思うことが出来ません。
そしてその彼女が一番強く思ったことは、婚約者に裏切られて失望の内に一人で死んでいったこと、でした……。
だから私は……。あの時の、あの思いだけは無視することが出来ません。辛いです。今でも苦しいです。身を引き裂かれるようなあの悲しみは、どうしても忘れることが出来ません。
……さて、ここから今世で現在悩みの種となっている私の婚約のことですが、まずは私の幼馴染について書きましょう。
幼馴染は二人います。一人はお兄様と同い年で四つ上のクレア・アンダーソン伯爵令嬢はお兄様の婚約者です。とても明るく元気溌剌な方ですが、なかなか素直に思いをお兄様に言えないと悩んでいる、とても可愛らしい令嬢です。もう一人は、二つ上のルイス・フェルディナンド侯爵子息。この方が最近お兄様が婚約、婚約と言っている私の相手なのです、が。
……ルイス様は、前世で婚約者だった方の、生まれ変わりなのです……。本当に無理です……。
とても、とても良い方です。前世から全然変わっていませんでした。前世のことをあまり意識せず遊べた子供の頃が懐かしいです。でも、大きくなっていくにつれて意識され出す『結婚』には、正直、彼と素直に遊べなくなりました。
周りが彼と結婚して欲しいと望んでいるのは知っています。私も貴族ですので、ルイス様の家から正式に申し込まれれば拒みません。でも、両親同士が仲が良く皆良い人達で、無理強いはしたくないと、本人達の意思に任せると言ってくれているのです。
だから、私は時間の許す限り逃げ続けます。
迷惑を掛けているのは知っています。ルイス様と彼が私と同じように別の人間だと解ります。でも、脳裏に浮かぶあの悲痛は思いを無視することができなのです。
――――彼が、どうして彼女を裏切ったのか解るまでは。どうしても。
シャナの年二五三 三の月の七(その二) カリン・エスタフォード
*
はあーーーすっきりしました。頭の中も整理が出来ました。こんなに深く自分の内面も交えて書いたのは初めてですね。混乱も治まりました。私、こんなこと思っていたのですねえ。……それで、思ったのですが……。
私、超我が儘な女ですね……。ルイス様理不尽な目にあってます……。まあ、拒むのは止めませんが。
だってですよ? まあ朝ので解ると思いますが、今の私が前世の彼に抱く思いは前世からの大きな悲しみと沸々と湧き上がる怒りですからね! もうムカついてムカついてこの思いを解消するまでルイス様と婚約もできませんよ。私だってよくよく考えなくても理不尽なことされているのですから怒って当然でしょう? 前世の話ですが。
勿論お兄様に言ったことも日記に書いたことも本当です。彼にまた捨てられるのが怖くて逃げています。
……でも、それが『女』って生き物でしょう? 複雑なのです。
両親と向こうの小父様や小母様には本当に申し訳ないと思っていますが、ルイス様には今後も理不尽な思いを時間が許す限りぶつけさせて頂きます。ふふ。
……っと、もうこんな時間ですか。日記を書き始めますと時間を忘れてしまいますね。日記を仕舞って……、ふう。
さて。そろそろ先生がお見えになる頃だと思うのですが……。
コンコンッ
噂をすれば、というやつですね。
「はい」
「お嬢様、作法の教師様が客間にてお待ちでございます」
「分かりました」
椅子から立ち上がり、少し乱れていたスカートの裾を素早く直します。他にも乱れているところがないか確認しますが、……大丈夫そうですね。扉を開け放ち、知らせに来てくれたメイドににっこり微笑みます。
「では参りましょう」
今日も一日、張り切っていきましょうか!