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手の届くまでの距離

 2度目もまた、予期せぬタイミングでやってきた。


 いつも通り教室を出て、あの渡り廊下へ向かう途中だった。


 僕が通り過ぎるのとほぼ同時に、普段はほとんど開かないA組の扉がガラッと開いた。


 いつもなら渡り廊下に辿り着くころに心の準備が完了するはずだったが、あろうことに準備中に、彼女がその扉を開いてしまった。


 そして今度はバッチリと彼女と目が合った。


 そのつぶらな瞳に吸い込まれるかのように、僕は目を反らすのを忘れていた。


 たぶんたったの1、2秒だっただろうが、僕にとっては30秒にも1分にも感じられるほどの長さだった。


 先に目を反らしたのは彼女だった。

 「いこっ!」

 と、隣の友人に声をかけて、さっさとどこかに行ってしまった。


 初めて彼女の声を聞いたが、その透明な音さえも、僕の心にスッと潜り込んできた。


 そして、今ようやく、彼女がA組にいるという事実が判明した。


 僕は、正直言って、今まで自分の実力に満足していた。


 しかし、今初めて「はじめからもっと勉強しておけばよかった」と思った。


 A組の扉はほとんど開くことがない。


 彼らの声は、隣のクラスにいる僕たちの方にはまったく届かないし、完全に封鎖された空間であり、平凡クラスの人間はもちろん、僕たちでさえ踏み入れることができない領域になっていた。


 唯一僕たちが知っているのは、期末テスト後の朝礼で表彰される成績上位者の姿くらいだった。


 成績上位者のほとんどがA組だったし、ほとんどが常連だった。彼女がそこに上ることがなかったので、まさかそんなクラスにいるなんて思ってもみなかったのだ。


 それまで成績を気にしたことがなかったが、それから僕は成績を意識するようになった。


 彼女と同じクラスになって少しでも近付きたかったし、何よりも、彼女よりも勉強ができない自分が男としてなんとなく情けないと思うようになったから。


 ようするに、男としてのプライドだ。





 ちょうどもうすぐ期末テストが始まろうとしていた。


 僕はいつも以上に猛勉強をした。


 幸い、日ごろの予復習をしていたため、少し真剣になれば成績は上がるだろうと踏んでいた。


 そして、自信満々に挑んだテストは、なんと平均点が87点にも達していた。


 いつもは83点くらいなのだが、平均が4点も上がったことで順位が一気に40も上がって、なんと11位という結果だった。


 これにはあの厄介な担任も

 「ただほっつき歩いてただけじゃないんだな」

 と感心していた。


 その次の朝礼の日は、やたら暑かった。


 もう10月だぜ?勘弁してくれよ…そんな声があちこちから聞こえてくる。

 

 この日はちょうど成績発表の日でもあった。


 当然、成績上位10名が壇上に呼び出されるわけで、


 「あとちょっと頑張ってたら俺もあそこに上って、あの彼女にかっこいいとこみせられたのにな」


 なんて甘っちょろいことを考えていた。


 「…10位、…りん」


 最後の登壇者の後姿を見て僕は思わず「あ…!」と声を発してしまった。


 そう、10位だったのはあの例の彼女だったのだ。


 僕がその名前を聴き逃したことを後悔する間もなく、何故か大勢の視線が僕に集中していた。


 静かな体育館に、僕の声だけが響いたのか、一瞬だけ僕に視線が集まる。


 その瞬間、堪らなく恥ずかしくなり、俯いた。


 校長が成績優秀者には毎回賞状を渡すのがうちの高校独自のしきたりだった。


 せめて僕は、彼女が賞状を受け取る瞬間だけ見ようと思った。


 「相澤花梨。おめでとう!」


 校長の、年の割に威勢の良い声のお陰で、彼女の声を今ようやくハッキリと認識することができた。


 「アイザワ カリン……」彼女の後姿は、他の誰よりも凛としていて、誇らしげで綺麗だった。


 全校の生徒の注目を浴びて、彼女の後姿に惹かれる男子はきっと僕だけじゃなかっただろう。


 彼女は成績上位者の常連ではなかったが、この日を境に注目の的になるんじゃないだろうか…

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