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第十六話 高額取引


「……おいおい、騒がしい店だな」


 店内に満ちる熱気と鼻血混じりの喧騒を、冷ややかに一喝したのは、暖簾をくぐって入ってきた男の静かな一言だった。


 漆黒の重鎧を纏った大剣士。その背後には、全身に魔導符を浮かべた冷酷そうな黒髪の魔導士と、鋭い眼光を光らせる双剣の女性が控えている。


 王都ギルドの頂点に君臨する最鋭パーティ、Sランク冒険者『黒銀の獅子』の面々だった。


「ひっ……! Sランクの『黒銀』だ……!」

「なんでこんな深層のオアシスに……!?」


 一般冒険者たちが一斉に道を空ける中、リーダーの大剣士ヴォルクがカウンターへと歩み寄る。


 だが、その眼光の先には、ハート型に胸元が開き、今にも太ももの付け根が見えそうな超極小メイド服を着たシャルロットが、プルプルとお盆を掲げて立っていた。


「……店主。噂のオアシスというのはここか? それと……この露出度の高い給仕は一体何の趣味だ」

「返済代わりのアルバイトだ。気にするな。それで、Sランク様がうちみたいな雑多な店に何の用だ?」


 店主がシチューの灰汁を掬いながら淡々と尋ねると、ヴォルクは重々しく懐から羊皮紙を取り出した。


「最深部の『ドラゴンロード』討伐に向かう。それに備え、ギルド市場には出回らない特級の消耗品と、ここにあると聞いた、『龍殺しの聖油』を買いに来た」


 Sランクらしい桁違いの要求だったが、店主はフッと口角を上げると、看板娘たちに指を鳴らした。


「シャルロット、棚の三段目にある赤の薬瓶を持ってこい。エミリアは裏の保管庫から『銀鋼の研ぎ石』と『聖油の樽』だ」

「わ、わたくしに命令しないでくださぃ……っ! きゃっ!?」


 焦って棚へ手を伸ばしたシャルロットだったが、短すぎるスカートのせいで、背伸びをするたびにお尻の下半分と白い太ももが目の前で露わになる。


 その艶めかしい姿に、Sランクのヴォルクすらも一瞬言葉を失い、慌てて視線を明後日の方向へと逸らした。


「こ、これですわねっ……! んやぁっ!?」


 手を滑らせたシャルロットが薬瓶を落としかけ、間一髪で店主が背後から抱きとめる。


 店主の大きな手がシャルロットの細いウエストと、過激なフリルの隙間から覗く柔らかな肌に密着した。


「だ、ダメ……っ! どこ触って……んぁっ!」

「手元に集中しろって言ったろ。ほら、ちゃんと渡せ」


 店主の無自覚なスキンシップで顔を真っ赤に染め上げたシャルロットは、半泣きになりながらヴォルクへ特級薬を差し出す。


 さらにエミリアや三姉妹も、過激な服の裾を気にしながら重い聖油や魔導雑貨を必死に運んできた。


「……ほう。この『龍殺しの聖油』、純度が王都の錬金術師ギルドの物とは比べ物にならん」

「そりゃそうだ、俺の手製だからな。そうだな……白金貨三枚だ」

「破格だな。……受け取れ」


 ズッシリと重い白金貨がカウンターに置かれる。


 一瞬で家が一軒建つレベルの大金に、お嬢様たちは「は、白金貨三枚……!?」と目を丸くして固まった。自分たちが背負った借金など、一瞬で吹き飛ぶほどの額だ。


「よし、取引成立だ。ヴォルク、ドラゴンを狩る前に腹ごしらえしていくか? 今日のシチューは美味いぞ」

「……ふん。ならば頂こう。その……給仕の服の破廉恥さには閉口するがな」


 強面で知られるSランク冒険者ですら、極小メイドたちの破壊力に毒気を抜かれ、素直にカウンターの席についた。


「レイラ、シャルロット、料理と酒を出せ。Sランク様のお買い上げだ」

「「はいはい/ですわ……っ!」」


 超高級雑貨の売上と、Sランク冒険者たちの来店。


 『万能よろず屋』の評判は、お嬢様たちの恥ずかしそうな悲鳴とともに、ダンジョン全体へとさらに大きく広がっていくのだった。

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