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"あやつり人形"

掲載日:2026/09/02

甲冑に包まれた騎士が両腕を掴み、僕を立ち上がらせる

間髪を置く事なく、自分の身の丈程もある剣の腹で顔を打たれて僕は咳込んだ

鼻腔に溜まった血が溢れ返り、口内にまで拡がった結果の窒息だった


部屋の外の廊下からも、一方的な掃討戦の打撃音や悲鳴、命乞いや嘲笑の有様が聞こえてくる

戦況は誰の眼にも明らかだった


言葉で美しく飾る事は簡単だが、落城と云うものは本来こういうものだ

まして人間が僕達吸血鬼に対して行う事だとすれば、其処まで不思議な出来事では無い


僕は戦に出る歳では無かった為、死ぬ事なく落城を迎えた


終わらない苛みの中で『せめて誇り高く死ねれば』とも思ったが、城内に(おびただ)しく重なる吸血鬼たちの正視に耐えない死骸を視るに、勇敢な死すらが僕には名誉と思え無かった



そうして居る内にも二回、三回と、腕を掴まれて庇う事も許されない頬や鼻を、冷たく分厚い金属の暴力が打ち据える


奥歯が割れて、口の中に石ころみたいな感触が散らばった

強い不快感を感じて吐き出す

折れた奥歯が数本、血でくるまれて床に転がった


頭部を打たれ過ぎて思考力が落ちて居たからか、僕は其れを暫く恍惚と眺めた

状況を観察して居た騎士が近寄ってきて、鋼の籠手で覆われた指で僕の足元に在る、血で出来た水溜りの中の歯を屈んで一つ一つ精査した


彼はやがて無感動に立ち上がると、兜の頭をゆっくりと左右に振る

「牙が折れて居ないぞ、下手くそめ」

剣で僕を打ち据えて居た騎士を侮蔑すると、甲冑の拳をがしゃり、と握る


僕が「やめて」と懇願するより早く

彼は左手で僕の髪を握り締めると、利き手と思しき右手で数回、僕の顔を打撃した


両手を石の様に固く掴んで居た拘束が、外される

ごほごほと咳き込みながら、僕は(うつぶ)せに倒れると、顔を指で覆いながら躰を丸めて小刻みに痙攣した

痛みはもう其処までは感じ無い

しかし、顔中が炎で炙られた様に熱かった


臓腑の中に病じみた嫌悪感が拡がると、たまらず、僕は泣きながら吐瀉物を吐き出した

横腹を蹴られ、転がされる

悪態を吐きながらさっきの騎士が、吐瀉物を精査した様だった


『よし』『両方、牙が折れたようだ』

金属の足音が殺到する


怖い

怖い怖い怖い怖い怖い怖い


全身のあちこちを踏み付けられながら、意識は其処で途絶えていった





眼覚めると、昏く窓の無い部屋だった

衣服は総て破り捨てられて居て、傍らには刃こぼれした剣が一つ

空腹だった


鉄格子の開閉音がして、視ると

部屋の唯一の出入り口らしき牢扉から、僕とそう変わらない背丈の若年騎士らしき少年が、怯えながら(つるぎ)を両手で握り締めつつ入って来る

『負けても噛まれる心配が無い』『思いっきりやってみろ』と、扉の外の暗がりから大人の声がした


少年が剣を構え、一歩ずつ距離を詰めて来る

僕は其れを手で制する様に、手のひらを彼に向けて「やめて」「………お願いだから、もうやめて」と訴えた



少年が狼狽えながら、扉の外に視線を向ける


『出来ないなら、次はお前が訓練の的になる』

大人の人間の声に、少年は泣きそうになりながら僕の方へ向き直る

握った刃が、取り落としそうな程に酷く震えて居た


危機を感じ、咄嗟に落ちて居た剣を拾う

剣戟の閃く音と共に、握ったかに思えた武器は直ぐ様に部屋の隅へと弾き飛ばされた


無意識に、切り払われ弾き飛ばされた剣に視線を向ける

その隙に少年の靴底が、僕の皮膚をしたたかに遠くまで蹴り飛ばした

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