「針子風情」と追放された令嬢は、王室御用達の繕い屋になりました——傾いた実家は、繕いません
「針子風情」
そう吐き捨てたお父様の襟は、左右で三針もずれていた。言わないで出ていくくらいの孝行はしてあげよう。私だって鬼ではない。襟を引っつかんで、その場で縫い直さない程度の分別はある。
机には、セリーヌの舞踏会用のドレスが広げられていた。腰の脇を扇の骨で引っかけたとかで、昨夜までは指が二本入るほど裂けていたものだ。今は共布の糸を拾って織り戻し、表から見ても裏から見ても、どこを直したか私にしかわからない。
「本当に見事ね。これなら今夜も誰にも気づかれないわ」
招かれていた大貴婦人は、ドレスの腰を撫でながら褒めた。そこでセリーヌが、うっかり私の名を口にしたのがいけなかったらしい。
伯爵家の令嬢が針を持つ。しかも素人の手慰みではなく、貴婦人に腕を尋ねられるほど上手い。お父様にとっては、娘の才能より、家に職人が紛れ込んでいることのほうが重大事件だった。
「お前が余計な真似をするから、セリーヌまで針仕事をさせられていると思われるのだ」
「裂けたまま着せるよりは、よろしいかと」
「口答えをするな。お前は長女としての立場を忘れている」
長女の立場は、妹の破れたドレスを夜通し直すときには便利に持ち出され、褒められた途端に忘れろと言われるらしい。ずいぶん伸び縮みする布だ。残念ながら、そんな粗悪品は私の店では扱わない。
「針子風情が、ベルナール家の名を傷つけるな。今すぐ出ていけ」
お父様は私の指ではなく、ドレスを指さした。称賛された跡を布ごと隠したいのだろう。
セリーヌは直った腰のあたりを撫で、それから私を見た。
「お姉様、本当に行ってしまうの?」
「そうみたいね」
「まあ……」
困ったように伏せた目は、すぐにドレスへ戻った。今夜の舞踏会には間に合う。それがわかれば十分なのだ。
私は自室から母の裁縫箱だけを持ってきた。角の丸くなった木箱には、針、糸巻き、小さな鋏、使い込まれた指貫。服は着ている一着で足りる。どうせ稼げば買える。稼げなければ、服より先に夕食が消える。順番だけは間違えまい。
「では、ごきげんよう。お父様」
「二度と家の名を使うな」
「承知しました」
扉を閉める前に、また襟が目に入った。
三針。やはり三針ずれている。ああもう、直したい。だが、その衝動ごと外へ持ち出すことにした。
私の指は、私のものだ。
王都で借りられたのは、窓が一つ、作業机が二つ置けば満員になる小さな店だった。入口の上に自分の名を書いた板を掛け、母の裁縫箱をいちばん明るい場所へ置く。伯爵家の名は使うなと言われたので、ミレイユ、とだけ書いた。命令には忠実である。私、孝行者。
最初の客は、裾を踏んで転びかけたご婦人だった。次は肘を擦った紳士、その次は袖口を猫に引っかかれた女の子。みんな店へ入るときは服を抱えて申し訳なさそうにし、出るときには繕い箇所を探して首を傾げた。
「ほつれは、小さいうちに」
袖口を受け取るとき、私はそう言った。小さな傷なら、周りの糸まで引かれない。布に無理をさせずに戻せる。
人も家も同じ、などと気取ったことは言わない。私は布の話をしているのだ。布は代金を払うし、嘘をつかない。たいへん好ましい。
ニナが転がり込んできたのは、店を開けて二か月目の朝だった。文字どおり敷居につまずいて転がり、起き上がるより先に、私の皿から揚げ菓子を一つ見た。
「食べていい?」
「駄目」
「働く」
「先にそこを繕って」
私は彼女の膝を指さした。擦り切れたスカートから、元気な膝が覗いている。
「これ?」
「膝ではなく布。膝は自然に治るけれど、布は放っておいても戻らない」
ニナは母の裁縫箱から針を一本借り、驚くほど迷いなく糸を通した。針目は大きい。間隔も揃っていない。最後の玉留めなど、豆が実ったのかと思った。
「ひどい」
「働けない?」
「働いて。見ているうちに直したくなった」
私はニナの縫い目をほどいた。揚げ菓子は半分に割った。弟子入りの契約としては、かなり甘い。菓子だけに。
それから店番は二人になった。私が客の裾を見れば、ニナが先に品書きを出す。ニナが縫えば、私が黙って糸を抜く。
「またほどいた」
「曲がっていた」
「一目だけ」
「一目を許すと二目になる。二目を許すと、やがてお父様の襟になる」
「誰?」
「とても恐ろしい失敗例よ」
縫い直した布をニナが頬へ当てる。
「すべすべ」
「頬ずりは検品に入りません。皮脂がつくでしょう」
「師匠もやる?」
「やりません」
やらない。揚げ菓子になら、少しだけ頬ずりしたい朝もあるけれど、それは職人の検品とは別の、崇高な祈りである。
ジュヌヴィエーヴ侯爵夫人が店へ飛び込んできた日は、扉の鈴が壁まで跳ねた。
「ミレイユ、助けてちょうだい、今夜なの、今夜の舞踏会なのよ! 馬車を降りるとき金具に引っかけて、少しだと思ったのに侍女が動かすなと言うから動かなかったら余計に裂けて、でもこのドレスは海の向こうから取り寄せた一点物で——」
「奥様。息をなさってください」
「しているわ!」
「では、ドレスを机へ。鼻をすすっている場合ではありません。染みまで増えたら、揚げ菓子一個では割に合いません」
「二個差し上げるわ!」
「ニナ、扉を閉めて。最高のお客様よ」
夫人が抱えていたのは、薄青い舶来のドレスだった。脇から腰へ、布目を斜めに横切って裂けている。力任せに縫えば引きつれ、飾りで隠せば片側だけ重くなる。見ればわかる。布が怒っている。そりゃそうだ、海まで越えてきて馬車の金具に食われたのだ。私なら噛みつく。
「今夜、着られる?」
「着られるようにします」
「本当に?」
「奥様があと十回お尋ねになる前に、手を動かしても?」
夫人は両手で口を塞いだ。よろしい。静かな客は直しやすい。
私は裏側の縫い代から共布の糸を抜いた。裂け目の周囲を整え、縦糸を拾い、横糸を渡す。一本入れては布目を撫で、また一本。傷を塞ぐのではない。そこにあった織り目を、同じ場所へ帰してやるのだ。
ニナが糸を切り、私が拾う。日が傾き、薄青い布の上を窓枠の影が渡った。夫人は三度立ち上がり、三度ニナに座らされ、四度目には揚げ菓子の袋を握りしめて祈るような顔をした。私の分を潰さないでほしい。
「できました」
私がドレスを持ち上げると、夫人は口元の布を外した。恐る恐る表を見て、裏返す。窓辺へ運び、もう一度裏返す。裂けていた腰を両手で広げ、店の灯りへ近づけた。
「どこが破れていたの?」
顔を上げた夫人の鼻は赤いままだったが、口元はすっかり侯爵夫人に戻っていた。
「奥様が金具に引っかけたあたりです」
「それは覚えているわ。そうではなくて、どこ?」
「見つからないなら、私の勝ちです」
「まあ」
夫人は背筋を伸ばした。つい先ほどまで「助けて」と連呼していた方とは思えない威厳で、ドレスをニナへ預ける。
「明日から、わたくしの知る方には全員ここを教えます」
「できれば、服を裂いていない方も混ぜてください」
「善処するわ」
翌朝、約束どおり揚げ菓子が二個届いた。その午後には裾を踏んだ貴婦人が一人、翌日には袖を焦がした貴婦人が一人、その次の日にはジュヌヴィエーヴ侯爵夫人ご本人が、今度は椅子の飾りに引っかけた袖を抱えて戻ってきた。
「奥様」
「何も言わないで」
「まだ何も」
「顔が言っているわ」
言った。私の顔は正直で、腕も正直だ。ついでに料金表も正直なので、二度目からはきちんと常連料金をいただいた。
店の前には、繕いを待つ馬車が並ぶようになった。とはいえ店内は狭いままなので、威厳ある貴婦人も椅子を譲り合い、膝の上で自分の服を抱える。破れた袖、擦れた裾、焼けたリボン。体面というものは布一枚で作られているくせに、その布を直す人間をずいぶん下へ置きたがる。料金を払うなら、私は気にしない。払わない人より百倍立派だ。
稼いだ金で、まず作業台を広くした。次に灯りを増やし、糸を買い、ニナが文字と帳簿を習う費用を出した。私の服はそのあと。揚げ菓子は別会計。これは贅沢ではなく、指先の燃料なので最優先である。
「師匠、この擦れ、私がやっていい?」
「端の三寸だけ。中まで欲張らない」
「成功したら?」
「次は四寸」
「菓子は?」
「一口」
「けち」
「独立してから好きなだけ買いなさい」
ニナは舌を出し、針を持つと急に真面目になった。最初は豆だった玉留めが、小さな種になり、やがて指で探さなければわからなくなった。褒めると増長するので、私は一目ずつしか褒めない。師匠というのは忙しい。
ある日、ジュヌヴィエーヴ侯爵夫人が袖を差し出しながら、何でもないことのように言った。
「ベルナール家のご令嬢の縁談、なくなったそうね。投資にも失敗なさって、馬車を一台手放したとか」
「そうですか」
「驚かないの?」
「奥様が今月三度目のお直しにいらしたことのほうが驚きです」
「これは前の袖とは反対よ」
「左右なら二度まで許されると思わないでください」
実家の噂は、それきりだった。私は侯爵夫人の袖を受け取り、ニナの針目を検め、夕方の揚げ菓子を一個確保した。帰る場所は、仕事の山が待つこの店で十分だ。山なら崩す。布なら直す。実家の帳簿まで私の作業台へ載せる隙間はない。
王宮衣装係が現れたのは、式典の五日前だった。
彼は挨拶を短く済ませ、濃紺の礼服を机へ置いた。胸元の刺繍に沿って、細い傷が走っている。飾り糸を避けながら直さなければならない、指一本分にも満たない裂け目。小さい。だが、王族が人前で着る礼服の傷は、糸一本でも大きいらしい。
「三日で仕上がりますか」
「二日いただければ」
「失敗は許されません」
「承知しております」
実務的で結構。脅しも泣き落としもなく、期限と要求だけ。こういう客は好きだ。礼服を人質に取って王宮を要求する趣味も私にはないので、話が早い。
ただし、手は抜けない。刺繍の下をくぐる糸を傷つければ、表に歪みが出る。私は昼の客をニナに任せ、夜は礼服と向き合った。母の裁縫箱から細い針を選び、灯りを寄せる。
「師匠、食べる?」
ニナが揚げ菓子を口元へ差し出した。
「粉を落としたら王宮へあなたを差し出すわよ」
「口を開けて」
「今?」
「手を止めないで」
私は針を動かしたまま、揚げ菓子にかじりついた。王室御用の礼服の上で、弟子に餌付けされる師匠。品格は粉砂糖と一緒に床へ落ちたが、礼服には一粒も落としていない。そこが職人の矜持である。
二日後、王宮衣装係は仕上がった礼服を窓辺で調べた。胸元を指でなぞり、裏を返す。刺繍の端から端まで視線を走らせ、もう一度、最初へ戻った。
彼の指が止まった。
私は口を挟まなかった。
「傷は、どこにありましたか」
「右胸の刺繍の下です」
「ここですか」
「そこです」
衣装係は同じ場所を見た。やがて礼服を畳み、持参した箱へ戻す。それから、供の者が抱えていた別の礼服を受け取り、私の作業台へ置いた。
「次も、あなたの手に任せたい」
私ではなく、私の手へ。家名でも看板でもなく、この指へ。
「お預かりします」
声は職人らしく崩さなかった。内心では作業台の上に立って万歳していたけれど。見たか、お父様。三針ずれた襟で追い出した針子が、王宮の一針を預かったぞ!
ジュヌヴィエーヴ侯爵夫人が王宮衣装係へ店の名を伝えてくれたのだと知ったのは、そのあとだった。夫人は当然のように顎を上げた。
「わたくしのドレスで証明済みですもの」
「奥様の失敗が、初めて世の役に立ちましたね」
「それ、褒めている?」
「半分ほど」
数日後、店先に王室御用達の看板が上がった。ニナは首が痛くなるほど見上げ、私は看板の傾きが気になって脚立を出した。栄誉も曲がっていては落ち着かない。職人とはそういう生き物なのよ。
その看板の前で帽子を脱いだ男を、私は窓越しに見た。
ロベール・ベルナール。お父様だった。
隣に立つセリーヌは、姉のいる店内より先に、看板を上から下まで眺めた。金の文字を読み、待っている客の上等な外套を見て、ようやく私へ笑いかける。
「お姉様。会いたかったわ」
「いらっしゃいませ」
私は客へ向ける声で迎えた。ニナは何も言わず、菓子鉢を私の側へ寄せる。よろしい弟子だ。いざというときの兵糧を理解している。
お父様は店へ入っても、帽子をかぶり直さなかった。昔なら作業机を狭いと評し、私を立たせたまま話しただろう。今日は入口で一度足を止め、先客が品を預け終えるまで待った。
「久しぶりだな、ミレイユ」
「はい」
「話がある」
「ご依頼でしたら、順番に承ります」
命令の語尾が出かけ、お父様の口が閉じた。帽子のつばを握る指へ、力が入る。
自分が捨てた娘へ頭を下げる日が来るとは。そう書いてある顔だった。けれど、その一文に後悔が含まれているかどうかまでは、縫い目と違って見えない。
「直してほしいものがある」
お父様は持参した包みを、先に机へ置いた。家の話よりも先に。紐を解くと、古い象牙色のドレスが現れた。
母の形見だった。
袖口は薄くなり、脇の縫い目がほどけ、裾には小さな虫食いがある。母が祝いの席で着ていた服だ。幼い私が裾へ頬を押しつけると、皺になると笑われた。あのときの香りは、もう残っていない。
「これを直してもらいたい」
「承ります」
私はドレスだけを手元へ引いた。
その拍子に、お父様の袖口が見えた。黒い上着の端が白く擦れ、糸が一本、頼りなく垂れている。以前の私なら、話の途中でも指が伸びていただろう。
実際、伸びかけた。
私は指を曲げ、母のドレスの上へ戻した。
「お姉様なら、お母様の服をいちばんきれいに直せるものね」
セリーヌは甘く言い、店内を見回した。棚の糸、帳簿、預かり札。最後にまた王室御用達の看板へ目をやる。
「それでね、お姉様。家へ戻ってきてほしいの。お父様も、今度は好きなだけ針仕事をしていいとおっしゃっているわ」
許可。私の指を捨てた方々が、使い道を見つけて返してくださるらしい。たいへんありがたくて、揚げ菓子が喉に詰まりそうだ。食べていなくてよかった。
「ベルナール家には、今、お前の力が必要だ」
お父様の語尾が、家にいた頃の形へ戻る。
「戻りなさい。王宮や侯爵家との縁を家のために——」
そこで、店の奥からニナが顔を出した。お父様は彼女の視線に気づき、言葉を切る。
「……使わせてもらえないだろうか」
「形見のドレスは、お預かりします」
「それだけではない。お前の客に我が家を取りなしてほしい。セリーヌの新しい縁談にも、王宮とのつながりがあれば——」
「仕上がりは七日後です」
私は預かり札へ、母のドレス、とだけ書いた。家の再建も、妹の縁談も、記入欄がない。うちの帳簿は正直なのだ。
母のドレスを直す夜だけ、店を早く閉めた。
ニナも奥へ下がり、灯りの下には象牙色の布と母の裁縫箱だけが残った。指貫をはめ、細くなった糸を一本ずつ拾う。母が教えてくれたとおり、急がず、布が耐えられる力だけをかけた。
母からもらったのは、この家に尽くす義務ではない。糸を見失わない、この手だ。
虫食いへ同じ色の糸を渡す。ほどけた脇を戻す。薄くなった袖口には、裏から布を添えた。母がもう一度腕を通しても、どこにも引っかかりがないように。
七日後、お父様とセリーヌは再び店へ来た。
私はドレスを広げて渡した。セリーヌは袖、脇、裾の順に確かめ、どこにも傷が残っていないとわかると、胸元へ抱き寄せた。その口元がようやく緩む。
「よかった。これで家へ持ち帰れるわ」
「形見のお直し代はいただきません。母への手向けです」
「では、家のことも」
「お断りいたします」
セリーヌの笑顔が落ちた。
「どうして? お姉様だってベルナール家の娘でしょう」
「追放された日に、その役目は終わりました」
「お母様なら、きっと家を助けたわ」
セリーヌは母のドレスを抱いたまま言った。お父様は否定も肯定もしない。ただ帽子のつばを握っている。
「ミレイユ。過去のことは水に流せ。家が立ち直れば、お前にとっても悪い話ではない」
「私は布を繕う職人です」
私はお父様の擦り切れた袖口を見た。今度は、指は動かなかった。
「体面を取り繕う仕事は、お受けしておりません」
「家族を見捨てるのか」
「ほつれは、小さいうちに」
お父様の口が閉じた。
それ以上は言わなかった。私は母のドレスを包み直し、セリーヌへ渡す。形見だけが、二人の側へ移った。店の鍵も、帳簿も、看板も、客から預かった布も、ニナの作業椅子も、すべて私の側に残った。
お父様は帽子をかぶった。一度だけ店内を見回し、頭を下げる。客としての礼だったのか、父として何か言えなかったのかは知らない。
私は頭を下げ返した。客を送り出す角度で。
扉の鈴が鳴り、二人の姿が窓の外へ消えた。
「師匠」
奥からニナが、両手で布を掲げて出てきた。先日から一人で任せていた、常連客の薄桃色の肩掛けだ。小さな火の粉で空いた穴が、光へ透かしても見つからない。
「できた」
「見せて」
私は表を見て、裏を返した。糸の張り、布目の流れ、周囲の歪み。端に一目だけ甘いところがある。けれど、ほどくほどではない。一目を許せば二目になる、とは言った。許してよい一目を見分けるのも、師匠の仕事らしい。
受け取りに来た客は、肩掛けを窓辺へ持っていった。穴のあった場所を探し、指で撫で、それからニナへ直接笑いかける。
「次も、あなたにお願いするわね」
「はい!」
ニナは肩掛けを返す前に、頬へ押し当てた。
「頬ずりは検品に入りません」
「最後だから」
「最後なら皮脂が許される規則もありません」
私が肩掛けを取り上げると、ニナは口を尖らせた。けれど、客から代金を受け取る手は、少しも震えていなかった。
「……でも、よくできました」
「菓子は?」
「半分」
「一個」
「半分」
「王室御用達なのに?」
「王室御用達だからこそ、経費には厳しいの」
ニナが菓子鉢を抱えて逃げ、私は母の裁縫箱から指貫を外した。次の礼服が作業台で待っている。扉の向こうには、直してほしい品を抱えた客がいる。
追いかけるべき弟子もいる。
「ニナ! 大きいほうを取ったら破門よ!」
「半分って言った!」
「それは半分ではなく、六割!」
王室御用達の看板の下で、扉の鈴がまた鳴った。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
「悪くなかったな」と思われたら、★や感想を残していってもらえると、とても励みになります。
作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。




