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モテ男は反省しない  作者: てん


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第8話 違和感は消える

 美咲に会ったのは、その日の夕方だった。


「おつかれさま」


「おつかれ」


 いつもと同じ挨拶。

 同じ声、同じ距離。


 それなのに、胸の奥が少しだけざわつく。


 昨夜のことが、頭のどこかに引っかかっている。

 でも、それを表に出す理由はなかった。


 美咲は俺の顔をじっと見て、少しだけ首を傾げる。


「……なんか、疲れてる?」


「バイトの後、ちょっと飲んでてさ」


 嘘じゃない。

 全部は言っていないけど、間違ってもいない。


「そっか」


 美咲はそれ以上聞いてこなかった。

 でも、表情が少しだけ曇る。


「最近、帰るの遅いよね」


「そう?」


「うん。前より」


 責める口調じゃない。

 ただの事実確認みたいな声。


 俺は一瞬だけ考えてから、自然に言う。


「ごめん。忙しかった」


 それも、嘘じゃない。


 美咲は少し黙って、それからぽつりと口を開く。


「……私さ」


「ん?」


「私の考えすぎだったらいいんだけど」


 そこで言葉が止まる。


 俺は歩み寄って、美咲の前に立った。


「どうしたの」


 美咲は視線を逸らす。


「最近、ちょっとだけ、不安になることがあって」


 胸の奥が、きゅっとなる。


 ああ、来たか。


 でも、不思議と焦りはなかった。


 俺は美咲の肩に手を置く。


「大丈夫だよ」


 そのまま、軽く抱き寄せる。


 美咲の体が一瞬だけ強張って、すぐに力を抜いた。


「俺が彼氏なんだから」


 そう言うと、美咲は小さく息を吐く。


「……うん」


 腕の中で、少し震えているのが分かる。

 だから、抱きしめる力を少しだけ強くした。


「ちゃんと好きだよ」


 言葉は、自然に出てきた。

 嘘じゃない。


 今この瞬間、俺は本気でそう思っている。


 美咲は、しばらくそのままでいたあと、俺の服を軽く掴む。


「……信じてる」


 その一言で、胸の奥のざわつきが静まった。


 ――ほら。


 大丈夫だ。


 こうやって話して、触れて、伝えれば、

 違和感は消える。


 恋人なんだから、それでいい。


 その後、美咲の部屋に行った。

 特別な約束があったわけじゃない。


 ただ、帰る流れで、自然に。


 夜は静かで、カーテン越しに街の光が滲んでいる。

 会話は少なく、でも途切れなかった。


 言葉よりも、距離の方が近い。


 朝、美咲は少し安心した顔で眠っていた。


 その寝顔を見て、俺は思う。


 ――ちゃんと、解決できた。


 問題は起きていない。

 起きかけただけだ。


 それを、ちゃんと処理した。


 この頃の俺は、そう信じて疑わなかった。


 抱きしめて、

 好きだと言って、

 一緒に夜を過ごす。


 それで、全部うまくいく。


 そういう“やり方”が、

 いつの間にか、俺の中で当たり前になっていた。


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