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モテ男は反省しない  作者: てん


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第39話 ズレ

 千夏からの連絡が、少しずつ増えていた。


『今、何してますか?』

『今日はもう帰りますか?』

『お疲れさまです』


 どれも、内容としては重くない。

 責める言葉も、疑う言葉もない。


 だから、最初は気にならなかった。


「今日も忙しそうですね」


「まあね」


「無理しないでくださいね」


 そのやり取りは、いつも通りだ。

 ただ、回数が増えただけ。


 俺はスマホを伏せて、仕事に戻る。


 ――大事にされてるな。


 そう思っていた。


 実際、千夏は優しい。

 感情をぶつけてこないし、無理な要求もしない。


 でも、ある日ふと、違和感が顔を出す。


 残業が長引いた夜、

 ようやくスマホを確認すると、未読がいくつか溜まっていた。


『まだですか?』

『大丈夫ですか?』

『疲れてませんか?』


 心配してくれているだけだ。

 そう分かっている。


 分かっているのに、

 胸の奥で、ほんの小さな棘が引っかかる。


 ――今、仕事してるんだけどな。


 返信する。


『もう少しかな』

『先に帰ってていいよ』


 すぐに返ってくる。


『いえ、待ってます』


 その一文を見て、

 俺は一瞬だけ、画面を見つめた。


 待ってほしいと頼んだわけじゃない。

 でも、断るほどの理由もない。


 結局、仕事を終えて合流する。


「おつかれさまです」


 千夏は、いつも通り笑っていた。

 それが、少しだけ救いでもあった。


「遅くなってごめん」


「全然大丈夫です」


 本心だろう。

 無理している感じも、まだない。


 でも、歩きながら、

 千夏は自然に俺の腕に触れてくる。


 前よりも、少しだけ強く。


 ――前は、こんなだったっけ。


 そう思った瞬間、

 自分でも驚くくらい、胸がざわついた。


 嫌じゃない。

 拒否したいわけでもない。


 ただ、

 距離が、少しだけ近すぎる。


 その夜、千夏の部屋で並んで座る。


「最近、あんまり会えないですね」


「そうだな」


「寂しいです」


 小さな声。

 責める調子じゃない。


 でも、言葉としては、はっきりしている。


「仕事落ち着いたら、また前みたいになるよ」


 いつもの答えを返す。


「はい」


 千夏は頷いた。


 納得しているように見える。

 でも、視線が少し下を向いている。


 俺は、

 「大丈夫」と思う理由を、

 自分の中で探す。


 ちゃんと付き合ってる。

 ちゃんと会ってる。

 ちゃんと好きだとも言っている。


 だから、問題はない。


 そう結論づける。


 でも、

 千夏の「待ってます」という言葉が、

 頭のどこかに残り続けていた。


 依存、と呼ぶほどじゃない。

 束縛、と言うほどでもない。


 ただ、

 以前より、

 俺の時間に寄り添うようになっている。


 その変化を、

 俺はまだ「心地いい」とも「嫌だ」とも

 決めきれずにいた。


 ただ一つ言えるのは、

 このズレが、

 静かに広がり始めているということだ。


 気づいていないふりは、

 まだできた。


 でも、

 完全に無視できるほど小さくもなかった。


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