第3話 好きだと伝える日
告白しよう、と決めたのは、特別な出来事があったからじゃない。
ある日の帰り道、美咲と並んで歩いていた時。
夕方のキャンパスは人がまばらで、風が少し涼しかった。
他愛ない話をしながら歩いているだけなのに、ふとした瞬間に思った。
――あ、今、言わないといけない気がする。
理由は説明できない。
でも、こういう感覚は信じた方がいいと、なんとなく分かっていた。
「美咲さ」
声をかけると、彼女は立ち止まって俺を見る。
「なに?」
少し首を傾げる仕草が、やっぱり可愛い。
胸の奥が、きゅっと締まる。
心臓が、思っていたよりもうるさい。
……緊張してる。
自覚した瞬間、少しだけ笑いそうになった。
告白なんて、もっと平気でできるものだと思っていたのに。
喉が渇く。
言葉が、ほんの少し重い。
周りには、まだ人がいる。
でも、だからこそ逃げ道がない。
「前から思ってたんだけどさ」
言い出したら、止まらなかった。
「美咲のこと、好きなんだ」
一瞬、音が消えたみたいだった。
美咲は目を見開いて、何も言わない。
時間がやけに長く感じる。
やっぱり、ちゃんとドキドキしている。
これが勇気かどうかは分からないけど、少なくとも軽くはない。
「……よかったら」
息を吸って、続ける。
「俺と、付き合ってほしい」
言い切った瞬間、胸の奥がすっと軽くなった。
同時に、怖くなる。
美咲は俯いたまま、しばらく黙っていた。
手をぎゅっと握っている。
断られても仕方ない、と思う。
でも、不思議と後悔はなかった。
ちゃんと、言った。
それだけで十分だ。
「……突然すぎ」
小さな声で、そう言ってから。
「でも……」
顔を上げた美咲の目は、少し潤んでいた。
「……嬉しい」
その一言で、全部が報われた気がした。
「ほんと?」
間抜けな確認だと思いながらも、口から出る。
美咲は、ゆっくり頷く。
「うん。……私も、好き」
その瞬間、世界が少しだけ明るくなった。
肩の力が抜けて、自然と笑ってしまう。
「じゃあ……」
「……うん」
それ以上、言葉はいらなかった。
付き合う、というたった一言で、
今までと何かが決定的に変わった気がする。
でも同時に、どこか自然でもあった。
最初から、こうなる気がしていたような。
そんな錯覚すら覚える。
この時の俺は、間違いなく本気だった。
計算も、打算もない。
ただ、好きだから伝えた。
それだけだ。
まさかこの「好き」が、
この先、こんなにも形を変えていくなんて――
想像もしていなかった。




