第1話 可愛いから、彼女にしたい
大学に入学して最初の週末。
新歓の喧騒はもう少し続くらしい。
人が多いのは得意じゃないはずなのに、なぜか今日は居心地が悪くなかった。
理由は単純で、視界の端に――彼女がいたからだ。
美咲という名前を聞いたのは、ほんの数分前だったと思う。
丸テーブルを囲んで自己紹介をしている時、彼女が少し緊張した声で名前を言った。その瞬間、俺の中で何かが決まった。
――可愛い。
それだけだった。
難しい理由も、深い意味もない。
肩にかかるくらいの髪、少し伏せ目がちに笑う癖。
派手じゃないのに、なぜか目が離れない。
「美咲ってさ」
気づいたら、俺は声をかけていた。
自分でも驚くくらい、自然だった。
「ほんと可愛いよね」
一瞬、時間が止まったみたいに彼女は固まって、それから一気に顔が赤くなる。
「え、そ、そんな……」
慌てて手を振るその仕草まで、全部可愛い。
俺は思った。
ああ、これだ。
照れさせるつもりがあったわけじゃない。
ただ、本当にそう思ったから口にしただけだ。
彼女が恥ずかしそうに視線を落とすのを見て、胸の奥が少しだけ高鳴った。
――彼女にしたいな。
それも、驚くほど素直な感情だった。
頭のどこかで、そんな可愛い子が隣にいたら、ちょっと誇らしいだろうな、なんて考えも浮かぶ。でも、それは後付けだ。
今はただ、もっと話したい。
もっと笑う顔が見たい。
「さっきの話だけどさ」
そうやって、会話は続いていく。
この時の俺はまだ知らない。
この“可愛い”という一言が、
どれだけの感情を動かして、
どれだけの修羅場を連れてくるのかを。
ただ一つ確かなのは――
この瞬間、俺は本気だった。




