第7話 探索者育成高校
―― 夢ノ宮探索者育成高校
役職が発言した者が必ず通うことになる探索者育成のための高校である。
かくいう俺も商人の役職持ちとなったため、この春から通っている一年生だ。
『ダンマスゲーム』はそんな高校に二人のCランク探索者が転校してくるところから始まる。
ゴールデンウィーク明けという中途半端に転校してきたのは――
―― 【狩人】真神白
白髪赤眼の小柄な少年であり、今も教室の中央でクラスの女子生徒に囲まれている。
―― 【守護者】麻桜 彩花
長い黒髪のほんわかとした少女だが、真神を後ろから抱え込んで周りの女子生徒達を威嚇している。
――の二人で、どう見ても間違いなく『ダンマスゲーム』の主人公達である。
そして、この真神は小学生の頃に迷宮発生に巻き込まれ家族を亡くしたことから迷宮絶対殺すマンとなっているのだ。
『つまり、真神白と麻桜彩花にはなるべく近づかずダンマスであることを気取られないようにする必要があるわけですね』
「まあ、その通りではあるんだが……ってメルリンは俺に話しかけても大丈夫なのか?」
固有スキル『ナビゲーター』であるメルリンは思った以上におしゃべりで通学途中も周囲を見てはひたすら喋っていた。
『マスターにしか聞こえませんから問題ありません。マスターこそ返事をうっかり声に出さないようにしないと変人と思われますから気をつけてください』
「わかってるって! ……あっ」
思わず声にだしてしまい、教室中の注目を集めた。
「お、秋都君だ。急に叫んでどうしたの?」
「秋都、彩花に俺を離すように言ってくれ」
『注意した端から叫ぶなんてマスターは馬鹿ですか? いや、人生二周目のハズなのに結構抜けてますよね。おや? ところでマスターはあの要注意人物二人と結構仲が良さそうですね』
「ああ、今度の実習でグループが一緒でな……」
これまでも特に目立つようなことはしておらず、ザ・一般人な感じだったはずだが、何の因果か転校してきたあの二人と一緒の実習グループになっているのだ。
何も知らなかった以前は有名なCランクの二人組と同じグループで喜んでいたが、今となっては恨めしい。
「真神! 俺は馬に蹴られて死にたくはないんで自分で何とかしてくれ」
不満顔の真神とニッコリと微笑む麻桜さんを見ながら窓際の自分の席に着く。
「ねえねぇ、遊佐君。もしかして週末にダンジョンに潜った?」
席に着いたところで後ろの席の月観さんが持っていた鉛筆で突いてきた。
「……んっ、ああ、ちょっとした伝手で結構上位ランクのパーティの人と潜ったよ。けど、どうしてわかった?」
急に話しかけられたのにもびっくりはしたが、それよりもダンジョンに入ったことがバレているのに冷や汗をかく。
入るときには目出し帽を被っていたし、そもそも周囲に人気がないのは確認していた。
【情報屋】の先輩からは制約の関係で情報が漏れることはないはずだ。
「ちょっ、顔怖いって。いや、なんかこう逞しくなってる気がしたのと一皮向けた雰囲気だったから気になっただけだよ。あ、さては強いとこに連れてかれてビビったくちかな?」
「いやいや、ビビってないし。先輩冒険者のおかげでそこそこスライムを倒させてもらったからかな。お陰で良い経験値稼ぎになったと思うよ」
特にダンマスにつながる何かがあるわけではなさそうで少しホッとする。月観さんは斥候系の役職と言っていた気がするが結構洞察力が鋭いので気をつけておいた方が良いのかもしれない。
眼鏡っ娘キャラの月観さんは『ダンマスゲーム』の本編と言えるノベルゲームでは背景となっているモブだったが、どこかで見た気もするのだ。
『ダンマスゲーム』はノベルゲーム以外でも世界観だけを利用したスピンオフ的な漫画や小説がかなり出ていたが、それほど熱心に追いかけていなかったので良くは覚えていない。
「いいなぁ、伝手がないとなかなかダンジョンに入る機会がないんだよね。結局、このクラスでも授業外でダンジョンに潜ってるのって一握りだし……」
探索者育成高校生は許可が出ればFランク探索者ライセンス相当の資格を得ることができ、また、二年生終了時にはEランク相当となる。
しかし、安全性からFランクのソロでのダンジョン探索は禁じられており、Eランク以上の探索者の同行が必要となっているのだ。
「真神と麻桜さんは別格として、西戸が既にEランクだったか。とはいえ、あいつ無茶してるのかこの前も怪我で休んでたな。後は他のクラスで――」
探索者育成高校と言えども探索者になりたくて入学したやつだけではない。むしろ、役職が発現したしまったから仕方なく入った者も多い。
「ねぇねぇ、ところで真神君がこっちをじっと見てるんだけど、遊佐君、真神君に何かした?」
【狩人】真神白、またの名を『ギルドの猟犬』。
昨日潜った下水道ダンジョンが迷宮討伐された情報は入っているはずだ。
目出し帽を被りはしていたが、そう言えば真神とクラスメイトと漏らした気がする。
「いや、さっき麻桜さんの拘束から逃れる助けを求められたけど無視したからそのせいじゃないかなぁ……」
「ああ、麻桜さん相手ならそれは仕方ないね。うん、仕方ないよ」
果たして真神がこちらを見ていたのはなぜだったのか、先生が来て授業が始まるまで後ろを振り返る勇気は出なかった。




