第46話 ダンジョンマスター
夏休みに入ってからも慌ただしい日々だった。
夢ノ宮公会堂迷宮コンサートホール杮落とし公演『ナンバーワン地下アイドル決定戦』に、その後のギルドによる記者会見。
それらの準備に追われる毎日も終わり、のんびりとした日々へと戻ろうとした時にかかってきた一本の電話。
「お兄、ちゃんと生活出来てるか見てこいっと言われたので夏休み後半は遊びに行くからヨロシク!」
それは、先延ばしにしてきたアレコレを嫌でも片付けなければならなくなる我が妹からの電話だった……。
「へぇ、秋都さんって妹さんが居たんですね。幾つなんですか?」
「二つ下の中学二年生だな。ダンジョンの研究をしている両親に着いて行ってあちこち転々としている」
「それで、手伝いっていうのは、妹さんが来るから三階の自宅の片付けですか?」
「まあ、それもあるんだが先延ばしにしてきた俺のスキルの検証とかもだな……」
『ああ、あれですか。やっと確認する気になったんですね』
「えっ、秋都さんってばまだ何かチートスキルがあったんですか? あ、もしかしてスキルがレベルアップしたとか?」
「鈴音正解、職業スキルの『倉庫』が固有スキル『迷宮倉庫』に進化してた」
「あれが職業スキルなのがバグみたいなものですけど、『迷宮倉庫』ですか……」
実は進化したのは夢ノ宮公会堂迷宮の迷宮発生の時なので実に一ヶ月以上も前だ。
忙しかったのと試すタイミングがなかったのでここまで先延ばしにしてきた。
「気付いたら進化してたんだけど、原因は間違いなく夢ノ宮公会堂迷宮の迷宮核を収納したからだと思う。効果は分かってるんだけど試すのは初めてなんだよ。さて、早速試すぞ、スキル『迷宮倉庫』!」
目の前に趣のある少し古びた木製の扉が現れた。
「隠れ家的なお店みたいなオシャレな扉ですね。これって今までの『倉庫』と違うんですよね?」
「そういえば『倉庫』の扉を出して使ってみせたことはなかったか。『倉庫』も元々扉があるんだけど、あっちはシャッターみたいな扉だね。それで、このスキルは――」
おもむろに扉を開けて……体を半分入れた。
「――入れる」
「えぇっ! つまり、アイテムボックス系のスキルがルーム系のスキルに進化したってことですか?」
厳密にはルーム系スキルもアイテムボックス系スキルの一種であり、世界的には数人確認されているらしい。
また、スキル使用条件やクールタイム等、かなりの制約があると言われている。
「まあ、このスキルの凄いところは……とりあえず、鈴音も入れるはずだから中に入ってみて」
「あれ? 何もないんですね」
恐る恐る入ってきた鈴音が意外そうな声をあげた。
見回すと六畳程の部屋の左右には別な扉がある。
金庫のような扉と、シャッターのような扉だ。
『コアルームと倉庫へ続く扉のようです』
開けて確認するとコアルームにはコレクションケースのような棚が設置されており『夢ノ宮公会堂迷宮』と書かれたプレートと共に迷宮核が飾られていた。
倉庫へ続く扉の方は先が見えないぐらいの巨大倉庫に大小様々な棚に雑多に詰め込まれた色々なアイテムが見えたので今日のところはそっと閉めた。
「思ったよりは普通? 普通ってなんだろうとは思いますが安心しました」
「ちなみにこのスキルも結構制約が多くて、入れるのは俺と眷属、つまりは鈴音だけっぽい。ついでに、このスキルが使えるのは自分で管理しているダンジョン、夢ノ宮公会堂迷宮と下水道迷宮、あ、今は夢ノ宮公会堂地下迷宮だけど、この二つの中だけだね」
「そうなると便利そうだけどそれほど役立つわけでもありませんね……」
「それが、かなり便利そうな使い方ができそうな気がするので、まあ、一旦出てみようか」
鈴音をつれて『迷宮倉庫』を出る。
「……は? え、秋都さん、ここって何処ですか?!」
目の前には黒く輝いて宙に浮いている迷宮核。そう、出てきた先は自宅の屋根裏部屋だった。
「おお、上手くいったみたいだ。このスキル、ダンジョン内のどこででも出入り自由ってなってたから、出るのも何処にでもいけるかを検証したかったんだが、これは大成功だね。ちなみに、ここはさっきまでいた俺の部屋の上、屋根裏部屋だよ」
「そのスキル、やっぱりチートじゃないですか。つまり、そのスキルがあればダンジョン内の何処にでも移動可能なんですよね? いっそのことダンジョン領域をもっと広げませんか?」
「なんてこった、鈴音が悪のダンジョンマスターになってしまった……だけど、伸ばせるところまで伸ばしとくと便利なのは間違いないよな」
それに、下水道迷宮の入り口はギルド公認で自宅内にある。つまり、繫がっているダンジョン内であれば俺達が何処にいてもおかしくない。
論理武装は完璧である。
『マスター、それに、鈴音、二人とも悪徳商人顔になってます。それに、今日のメインはその目の前の迷宮核です』
「メインが迷宮核ですか? そういえば私、コアをしっかり見るのは初めてかもしれません。この前は最初にちょっと見たと思ったら意識を失ってましたし……」
「妹が来るって言っただろ、あいつは昔から色々勘が良くってな。ここにコアを置いてあると気づかれてしまう可能性が高い」
「なるほど、コア君のお引越しですか。あ、触るとなんだか不思議な感じですね。薄い膜があるような……」
鈴音がコアをペタペタと触っている。
『それは溢れ出る魔力と鈴音の魔力の干渉によるものですね。実際に膜があるわけではありません』
「コアを引っ越すのも良いんだが、まずは、夢ノ宮公会堂迷宮のコアみたいに収納可能か試してみようと思うんだよ。ただし、収納できなかったり、ここのダンジョン自体がなくなる可能性もある。ついでに言えばそうなった時、ダンマスである俺達はどうなるかだな」
「ダンマスの制約に『迷宮核が破壊されると死亡します』がありますもんね。けど、私のコアは秋都さんの倉庫に入ってて大丈夫ですからいけるんじゃないですか? まあ、何かあったら一蓮托生です。サクッといきましょう!」
元気よく拳を握って微笑まれた。
「よし、じゃぁ、サクッといくか! 『収納』!」
黒く輝く迷宮核に触れ、収納を意識する。
「ぐっ……」
体内から魔力がゴソッと抜け出る感覚がした……。
―― 固有スキル『迷宮倉庫』が条件を達成しました。
固有スキル『迷宮倉庫迷宮』に進化します。
―― 役職【迷宮管理者】が条件を達成しました。
役職【迷宮主】に昇進します。
『マスター!』
「秋都さん!」
ふらついた体を鈴音に支えられる。
「ありがとう、大丈夫だ。生きてはいるな……ダンジョンも問題なし。変わったのスキルと役職か……」
『マスター、おめでとうごさいます。迷宮核の破壊による死亡の制約が外れました』
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役職:【転生者】
制約:
1.知り得る世界は秘匿されます。
2.知り得る世界は移ろいます。
3.この役職について秘匿する必要があります。
副役職:【迷宮主】
1.迷宮核を管理する必要があります。
2.迷宮核から離れるとステータスが下がります。
3.迷宮核に関わる不利益な行動はとれません。
能力:『迷宮管理者』
…
固有能力:『ナビゲーター』『迷宮倉庫迷宮』
称号:迷宮討伐者、竜種討伐者
…
:――――――――――――――――:
役職のダンジョンマスターが同じダンマスでも【迷宮主】に変わっている。
「あ、私の方も制約が『迷宮核の管理を補助する必要があります』に変わってます」
「おお! つまり、俺達はコア破壊で死ぬのを心配しなくても良くなったわけか。もっともコアは俺の倉庫に仕舞ってあるから見つかる心配はないし、これはお祝いだな」
「ですね! 命ちゃんにも連絡いれます。あ、名目は……色々あったお疲れ様会にしましょうか」
―― 『ダンマスゲーム』
ここはダンマスが狩られる世界ですが、どうやら死亡フラグを一つ折ることが出来たようです――
―― 第一部 完 ―― To be continued……?




