第44話 後日譚3
「こんすず~! 世界初の迷宮配信者、『すずりん』こと鈴音だよ~」
配信ドローンを前に鈴音がポーズを決めている。
「あ、やっぱりそれやるんだ。ギルドの人しか見てないのに」
「ちょっと、秋都さん、何言ってるんですか。これは世界初のダンジョン内映像ですよ。歴史に残る記録になるんですからね」
―― 夢ノ宮公会堂迷宮
先日の迷宮発生から一週間を待たずしてその扉は開いた。
今はそのダンジョンの調査をギルドと依頼された探索者が行っている。
「お前らホント仲が良いな。おじさんもそんな青春を送りたかったぜ」
この若干ウザい厳つい顔の支部長は元Aランク探索者だ。ちなみに、名は体を表すと言わんばかりの名前は渋柿豪、実は俺も今日初めて知った。
本日の目標はフロアボスの地竜の発見とドロップアイテムの確認。
複数の高ランクパーティが探索を行っているが、フロアボスを発見した場合は俺達、特に俺が倒すことになっている。
これは支部長が俺の戦い方を見ておきたいと言ったためだ。
「しかし、コンサートホールがそのまま安全地帯になっているとは思いませんでした」
「元のコンサートホールは二階まででしたよね。それが四階までで更に客席数も多くなってましたね」
「映画館やオペラハウスが迷宮化した例は海外にもありますが、まるっと安全地帯にあるところはなかった筈です。経過観察は必要ですが、本当にモンスターが発生しない場合、かなりの観光名所となりますよ」
調査に随行している職員さんもコンサートホールに興奮気味だ。是非とも観光名所として活用してもらいたい。
「はあっ!」
「『排出』!」
コンサートホールの外側の階段を上っていきつつ、出てくるモンスターを倒す。
このダンジョンは基本的に人型のモンスター、ゴブリンが出る。
ただし、服を着たりアイテムを持ったりと普通のゴブリンではない。
コスプレ、いや、演劇をしているゴブリンだ。
「鈴音の嬢ちゃんも思った以上に動きが良いな。しかし、秋都よ、お前のは何だ? 商人で攻撃スキルはないんじゃなかったのか?」
「ないですよ。商人の『倉庫』スキルでパチンコ玉を勢いよく取り出してるだけです」
「は?! 待て待て、百歩譲って攻撃スキルじゃないのは良いとして、何でパチンコ玉でゴブリンを倒せる。銃でモンスターを倒せないのにパチンコ玉で倒せるのはおかしいだろ」
「ああ、一応スキルで飛ばしてますし魔力を纏うように意識してるからですね。銃でダンジョンのモンスターが倒せないのは銃弾が魔力を纏ってないからですよ」
「あ、それ私も授業で習いました。一応魔導具の銃では倒せるんでしたっけ?」
「ちっ、商人の職業区分を戦闘職に変えたほうが良いんじゃないか?」
「支部長、多分、遊佐さんが特別なだけだと思いますよ。……あ、ドロップ出ましたカメラです!」
コスプレゴブリン、いや、アクターゴブリンこと正式名称未定のゴブリンは様々な映像機器をドロップするように設定してある。
「おっ、上への階段があったぞ。どうやら五階もあるようだな。フロアボスで地竜が居れば良いんだが」
「支部長、地竜は普通三十階層以降のフロアボスですよ。こんなところにホイホイ居られても困るんですけど」
「良いじゃないか、秋都がいるから大丈夫だって。まあ、もしもの時は倒せないまでも俺が逃げるぐらいの時間は作るよ。で、倒す策はあるんだよな?」
「ええ、一応新しい武器も仕込んできましたから大丈夫だとは思いますけど、もしもの時はお願いしますね」
「おうよ」
支部長達と五階への階段を登る。
「おぉー、これがボス部屋への扉ですか。支部長さん、何かコメントあります? 世界初の映像になりますよ」
配信ドローンのうちの一台が支部長さんに寄る。
「なっ、あー、扉があるタイプのボス部屋は入って扉を閉めた時にボスが現れたりするから注意だな。それと、一旦閉まると逃げるのが難しいから入らないのも勇気だ」
「ありがとうございます。元Aランク探索者からのコメントでした。では、入ります?」
「ああ、それではフロアボス戦といこうか」
ボス部屋の扉は触れただけでスッと開いた。
中央には迷宮発生の時のように黒い魔力、瘴気が渦巻いている。
瘴気は徐々に実体を形作る。
「どうやら、前と同じく竜種みたいですね」
でっかいトカゲのようなシルエットへと収束していく。
「秋都、いけるか? 無理はするなよ」
「秋都さん、カメラはバッチリ回しときますからね」
この時代でもカメラを回すと言うのかと考えつつ、手を前に出して構える。
実体化した地竜と目が合った。
「新武器を仕込んできたので試し打ちといきますよ。『排出』!!」
―― Guo……Gugyaa!
開幕の咆哮は途中からうめき声へと変わる。
「えぇっ、秋都さん、なんですかそれ?」
「おい、ドラム缶かよ! 地竜生きてるか?!」
コンテナより取り回しの利く重量兵器として選んだのは二十リットルのドラム缶だ。中にはコンクリートを詰めてあり、五百キロ弱ぐらいの重さはある。
のけぞる地竜の上へとドラム缶を足場に飛ぶ。
「『排出』!!」
―― Gugya……
「……聞いてはいましたが、秋都さん、チートですね。そして全く地竜攻略の参考にはならないと思います」
「……ああ、報告は聞いてたけど、秋都、やっぱりSランクになっとくか?」
「あ、支部長、紅条さん、宝箱出ましたよ! 遊佐さん開けてもらっていいですか? あ、撮影もお願いしますね。宝箱はダンジョンの外に持ち出せないので貴重な映像ですよ!」
大興奮のギルド職員さんに急かされながら皆で宝箱を開けた。
「出ましたね、配信ドローン! すずりんモデルです! あ、これって商標権? 著作権? 的にはどうなるんでしょう」
「あー、ダンジョンに請求するわけにはいきませんよね。ギルドの弁護士に確認は取りますけど……」
「出たなぁ、配信ドローン」
大興奮の鈴音とギルド職員さんに対し、支部長は渋い顔だ。
「支部長、何かまずいんですか? 出て良かったじゃないですか」
俺としては配信が探索者に広がってもらわないと困る。
「悪くはないんだが、これは世界的に影響が大きいぞ。オークションにでもかけようものなら値段が幾らつくかもわからん。ギルドだけで片付く範疇を超えてるからなぁ」
「やっぱりそうなりますよね。私の実家とか命ちゃんのとこにも話を通した方が良さげですね」
「ああ、紅条芸能企画に九能財閥か……このコンサートホールの扱いもあるし、ギルドの本部を通して打診するしかないよなぁ」
こうして夢ノ宮公会堂迷宮の調査は続けられた。




