第42話 後日譚
―― ピンポーン! ピンポーン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!
夢ノ宮公会堂迷宮、通称、夢宮堂迷宮に対するギルドによる記者会見も終わり、やっと平穏な夏休みを迎えられるとのんびりした朝のひとときは、けたたましいインターホンにより中断された。
『マスター、命と鈴音です。居留守を使いますか?』
「いや、鈴音には居ることがバレてるだろうから出よう……。おい、今開けるからそんなに鳴らすな」
インターホンと連動したデバイスには二人の少女の姿が見える。
「秋都さんすみません。命ちゃんが秋都さんの部屋で食べようって……」
「あっ、ちょっと、鈴音もそれがいいって言ったじゃない。この裏切り者め」
口では色々言いつつも二人は遠慮なしに入ってきてキッチンを漁りだす。
「秋都さんも朝食まだですよね、トーストで良いですか? あ、サラダは持ってきたんですよ」
「あれ? 秋都、インスタントコーヒー切れてる?」
「いや、入れようと思ってこっちに出してある。てか、命はインスタントコーヒー入れられるようになったのか?」
「もちろん、練習したのよ、じゃなくて、それぐらいできるわよ」
インスタントコーヒーを入れるのに練習が必要かは触れてはいけないところだろう。
自宅マンションの向かいの部屋から美少女二人が押し掛ける生活、これが最近の日常となっている。
『マスターもそろそろハーレム系主人公の仲間入りですか。ダンマス狩りに遭う前に背中を刺されそうですよね』
いや、それは勘弁してくれ。どうしてこうなった……。
◆ ◇ ◆
―― 夢ノ宮公会堂迷宮の迷宮発生災害
多数の高校生が巻き込まれたにもかからわず、奇跡とも言える死者ゼロだったこの迷宮発生は後にダンジョンの歴史の転換期の始まりだったと言われることになる。
そんな迷宮発生災害に巻き込まれ、脱出した日の事を思い出す。
◆ ◇ ◆
『マスター、上に戻らないのですか?』
無事に鈴音と合流した俺達は夢ノ宮公会堂迷宮の地下一階の端を目指して歩いていた。
「戻るけど、そのまま出るわけにいかないだろ、それで、ここだ」
何の変哲もない廊下の壁。ただし、ダンジョンとなった今は非破壊オブジェクトとなり壊すことは難しい。
しかし、スキル『迷宮管理者』によるダンジョン管理用のパネルを開き、一時的に通路を開ける。
「えっ、下水道?! これって外に繫がったってことですか?」
『なるほど、ここは下水道迷宮の端、マスターの管理している迷宮です』
「ここを経由して上に戻れば問題ないだろう。ダンジョンの壁は俺のコンテナでぶち抜いたってことで」
特殊な環境下、主に迷宮発生等のダンジョン拡張時にダンジョンの壁や床が壊せることは報告済みである。何より、今回も床をぶち破ってこの階に降りてきた。
鈴音と下水道迷宮側に移動してダンジョンの壁を閉じる。うん、夢ノ宮公会堂迷宮と下水道迷宮が問題なく管理できている。
「メルリン、公会堂近くの上に上がれそうな下水道までダンジョンを繋いで」
『わかりました。ナビゲーションを開始します』
「うわっ、なにこれ、ナビ? あ、ナビゲーションだもんね、便利ー!」
AR表示の矢印は鈴音の方にも見えたようだ。
下水道を抜け、マンホールを上へと登る。
マンホールの蓋を押しのけて外へ出た。
「おぉ、太陽が眩しい」
「やった、秋都さん、外ですよ外!」
「え、遊佐君、それに、紅条さんも……無事だったのか……!!」
声のした方を見ると紫苑先輩とギルドの人達が駆け寄ってくるところだった。
「鈴音~~っ!!」
そんな先輩とギルド職員を追い抜いて鈴音に飛びつく人影があった。
「あれ、命ちゃん、今日はこれないんじゃなかった?」
きょとんとした鈴音が抱きついて離れない命を引き剥がしている。
「なっ、鈴音のいる夢ノ宮公会堂で迷宮発生が発生したって言うし、鈴音に連絡が取れないしで予定は全部キャンセルして飛んできたのよ。今は中に突入出来ないか検討してたとこだったんだけど……どうやって出てきたの?」
命がこっちを見た。ジト目だ……。
「遊佐さん、紅条さん、あ、迷宮管理局夢ノ宮支部です。こちらの……マンホールから出てきたようですけど、どうなってるんですか?」
「あー、それについては別途報告したいことも幾つかありまして……」
「ちょっと、私も行くわよ!」
鈴音に張り付いたままの命も連れてギルドへと移動することとなった。
◆ ◇ ◆
ギルドに着くなり支部長室へと通される。最近良く此処に来ている気がする。
「やぁ、遊佐君、お疲れ様。いや、本当に良くやってくれた」
疲れたような雰囲気を醸しだしてはいるが、その顔は明るい。
「ん、そちらは、Cランクの九能さんか。ああ、今回の件、九能財閥からも色々と融通してもらったみたいで感謝する。で、遊佐君も隅に置けないねぇ」
厳つい顔のくせにニヤリとするのが似合っていて癪に障る。
「違いますよ。で、報告ですが、何処まで聞いてます?」
「うむ、セイクリッドラビリンス教と思われる奴らが迷宮種を使用、現れたフロアボスの地竜を倒した遊佐君が地下に落ちたところまでだな。あってるか?」
「ええ、その通りです。後、そいつら三名の消息は不明ですが恐らく生きてはいないかと……」
「そうか……あぁ、九能さんに紅条さん、九能さんは知ってるかも知れないが、迷宮種については口外禁止だ」
「はい」「わかりました」
「それで、遊佐君達はどうやって生還したんだい? 閉じてしまったダンジョンからの生還例は初だよ」
「それそれ、秋都が居ればダンジョンが再開するまで生き延びられるかもと期待はしてたけど、まさか、抜け出して来るのは予想外だったんだすけど」
「あっ、やっぱり秋都さんなら生き延びられるんですね」
支部長と記録を残そうとしているギルド職員が身を乗り出してきた。
「えぇと、じゃあ地下に降りたところから順に説明を――」
鈴音、メルリンと打ち合わせたカバーストーリーを話す。
ダンジョンコアは見つけておらず、控室にいた鈴音と合流、コンテナアタックでまだ不安定だったダンジョンの壁を壊したら下水道ダンジョンだったというストーリーだ。
「――それでですね、もう一つ報告したい、あ、見せたいものがあるんですよ」
「ダンジョンの壁を破ったのも衝撃だが、まだあるのかね」
「ええ、どちらかというとこっちのほうが問題でして……」
ダンジョンを出る前に取り出しておいた配信用ドローンをリュックの中から取り出す。
「遊佐君これは?」
「秋都、これって配信用ドローンよね? え、もしかして……」
「はい、地竜のドロップアイテムの魔導具です」
「なっ! これが魔導具だと」
「ちょっと、秋都、魔導具ってことはもしかしなくてもダンジョン内で使えるの?!」
「えっ、支部長、これは大問題、いや、ダンジョン研究の大躍進、進歩ですよ!!」
こちらも実際には地竜のドロップアイテムではなく、秋葉原で購入した配信ドローンをメルリンと改造したものである。
もちろん、実際にドロップアイテムとして落ちるように設定予定だ。
「ふぅ、これは……発表する必要があるよな」
「支部長、当然ですよ。ああ、ですが夢ノ宮公会堂迷宮が再開した時に実際にドロップするかの確認は必要ですね。もしドロップしないとなると……」
ギルド職員さんと支部長の目が配信ドローンに注がれる。
「これはあげませんよ。実際、今のままだと値段が付けられないでしょ?」
「だろうな、ダンジョン内の撮影はいわば悲願とも言える。ダンジョンが再開してドロップアイテムの確認をするまでは口外禁止だ。まったく遊佐君は毎度毎度とんでもないネタを持ち込んでくるな……とりあえず、Sランクになっとく?」
「なりませんよ!」
後日詳しい打ち合わせをすることにしてその日は解散となった。




