第41話 紅条鈴音
―― Gugya?!
セーラー服姿の少女の双剣による素早い攻撃でフォークとナイフを持ったゴブリンが光となって消えていく。
∴[……えっ、何これ、ダンジョン? いや、でも……]
▽[CG乙? あ、かわいい]
……
振り返った少女に配信ドローンが近づく。
「こんすず~! 世界初の迷宮配信者、『すずりん』こと鈴音だよ~」
―― 夢ノ宮公会堂迷宮に関する迷宮管理局記者会見
とだけ書かれた生配信には既に百万人以上が待機していた。
◯[こんすず~!]
⦿[すっずり~ん]
◆[おっと始まった。これは、夢宮堂迷宮?]
◎[え、ダンジョン配信ってマジなの]
……
▽[コメント早すぎて見えない]
……
鈴音が一階への階段を上がるのを配信ドローンが追いかけていた。
「すごい視聴者数だね。もう百万人超えてるの?! あ、それではここからは真面目にいきます――」
舞台袖を抜けて注目があつまるステージの端へと立つ。
「――お集まりの皆様、ならびに、この配信の視聴者の皆様、お待たせしました。只今より迷宮管理局と迷宮管理局夢ノ宮支部による合同記者会見を始めます」
コンサートホール一階を埋め尽くす招待客からの拍手が鳴り響く。
なお、良く記者会見で見られるカメラのフラッシュ音はなく、カメラを構える記者もいない。ダンジョン内においては電子機器は使用不可であり、アナログなカメラも何故か使用できないためである。
客席に座っているのは招待されたメディアの記者、および、抽選で招待された一般探索者だ。
海外記者と思われる姿も数多く見える。
『マスター、盛況ですね』
「ダンジョン内記者会見だから探索者の記者だけしか参加できないけど、メディア枠もかなりの倍率だったらしいよ」
俺は用意された二階の関係者席に戻り記者会見を眺めている。
一ヶ月程前に発生した、夢ノ宮公会堂迷宮の迷宮発生災害。多数の探索者高校生が巻き込まれたものの死者ゼロたった奇跡的な迷宮発生災害については既に大きくメディアに取り上げられた。
そこに、夢ノ宮公会堂迷宮の安全地帯内のコンサートホールという施設の存在が先週行われた『ナンバーワン地下アイドル決定戦』で明らかにされ、さらには今まで不可能だったダンジョン内からの撮影、配信とどちらも国内外に大きな反響をもたらした。
それはもうギルドの業務が麻痺する程に……。
そのため、当初はもっと後に開かれる予定であった説明会を合同記者会見という形をとって夢ノ宮公会堂迷宮内で行うことになったのだ。
―― 「夢ノ宮公会堂迷宮で配信ドローンがドロップするというのは本当ですか?」
「はい、フロアボスの地竜からドロップすることを確認しています」
場内にどよめきが起こる。
しかし、反応には二種類あるようだ。
メディアの方は配信ドローンに対する興味、そして、探索者の方は地竜に対してだ。
地竜は三十階以降のフロアボスとしての出現が確認されている。つまり、かなり強い。
「……また、低確率ながら通常の出現モンスターからもビデオカメラなどの撮影関連機器がドロップしています。これらについては一部ながらメディア関係者への貸し出しとして提供を行いますのでこの会見終了後に申請書をお出しください」
場内のどよめきは更に大きくなった。
夢ノ宮公会堂迷宮でドロップする撮影関連機器は全て魔導具であり魔石で動作する。
そして、その内部は電子回路でなく魔法陣で構成されて回路のようなものになっているが、現在の魔道具士では再現できないアイテムになっている。
ちなみに、ドロップする最高級品の配信ドローンは『KJ-DR2053-SR』、そう、通称すずりんモデルとほぼ同じものだ。
元々、ダンジョンのドロップアイテムはダンジョン内に取り込まれた物が再構築されることで出来上がっているらしい。
そのため、武器や防具等のドロップが多い。そして、このドロップアイテムが正しく再構築されるにはダンジョンがそのアイテムを理解している必要があるとはメルリンの談だ。
当然ながら普通のダンジョンは電子機器を理解することはできないので仮にダンジョン内に取り込んでもドロップすることはない。
しかし、メルリンという優秀なナビゲーションのいる俺のダンジョンは違う。時間はかかるが取り込んで解析、ドロップアイテムとすることができるのだ。
なお、幸いというか不幸にもというか、鈴音が配信ドローンと一緒に迷宮発生に巻き込まれたこと、また、公演のために多数の撮影機器が持ち込まれていたことから、すずりんモデルの配信ドローンのドロップも違和感なく受け入れられた。
ダンジョンが取り込んだアイテムをドロップアイテムとして出しやすいという研究はなされていたらしく、その研究が再び注目を浴びるようにもなったらしい。
―― 「夢ノ宮公会堂迷宮の一般公開予定はどうなっていますか?」
「コンサートホール、ダンジョン部分共に現状での一般公開は社会的な混乱をもたらすと考えています。そのため、当面の一般公開予定はありません――」
ざわめきと少しブーイングが起きる。
「――ただし、ギルドとギルドから委託した探索者によるアイテム確保を行い、各種撮影機器については一般販売も視野にいれた分配を行う予定です。まずは主にギルドやダンジョン研究期間での利用を想定しています」
現状、撮影機器をオークションに出せば天井知らずでその値段は跳ね上がるだろう。
そんなアイテムがドロップするダンジョンを一般公開すればどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
普及率が上がるまでは撮影機器を登録、免許制にして管理する案も上がっている。
―― 「この記者会見を行っている配信チャンネルは『すずりん』こと紅条鈴音さん個人のチャンネルとなっていますが、これは、なにか紅条芸能企画との取引があったのですか?」
若干の悪意が籠もった質問に会場がざわつく。
質問をしたのは確か芸能系の記者だ。
『マスター、処しますか?』
いや、想定内の質問だから処さないであげて。
「紅条鈴音さんはギルドのアンバサダーとして配信活動をしてもらうことになっています」
―― 「紅条芸能企画との関係は?」
「それについては後日紅条芸能企画から発表があるとのことなのでここでの発言は控えますが、現在の紅条鈴音さんはどこにも属していない個人活動での配信者です――」
一息いれるように支部長が鋭い目つきで記者を見る。
「――また、紅条さんが使用している配信ドローンは迷宮発生時に巻き込まれた彼女とそのパーティがフロアボスを倒して手に入れたものであり、我々ギルド側がお願いをして協力してもらっている形になります」
ギルド公認、世界初の迷宮配信者、『すずりん』のチャンネル登録者数は一気にトップレベルへと躍り出た。




