第37話 夢ノ宮公会堂6
瘴気の渦は徐々に大きく、モンスターを形作っていく。
平べったくもある巨大な身体から四本の脚が生え、少し細長い頭に長い尻尾のトカゲのようなシルエット。
「サイズも考慮すると竜種か、考えられる範囲の最悪だな」
渡した剣を握り直し、吐き捨てるように先輩が呟く。
「竜種というとドラゴンですか。紫苑先輩、ドラゴンの特徴や攻撃手段は?」
現実感が増し圧が強くなっていくモンスターから目を離さずに先輩に問いかける。
「確認されているのは、火、土、風、水のドラゴンだ。ただし、ここに出るとしたら火竜か土竜。いずれも三十階以降の階層ボスで、どちらもブレスを吐く。万に一つも勝ち目のない相手だ」
少し声が震えているように感じる先輩の前に出た。
「紫苑先輩、俺はなりたてですがCランクですよ。それに、鈴音が戻ってきてないんで地下に探しにいかないと行けないんです。ですんで、速攻で片付けるか、そうでなくてもこの場からボスを引き離します。なので、出れるようになったら俺のことは放っといて外に出てください。取り残されてもダンジョンが再度開くまで生き延びるだけの備えはあります」
「なっ……、分かった。来るぞ!」
―― Guooooo!!
咆哮がコンサートホールを満たす。
茶色のドラゴン、地竜だ。火竜よりはマシか。
少し頸を持ち上げた地竜が大きく口を開いた。
『マスター、ブレス来ます!!』
咆哮でこちらが一瞬怯んだ隙にブレスの準備を整えられてしまった。
ブレスを避け……後ろには先輩達が居る。
「『取出』!!」
―― ガガガガガッッッッ!!
「きゃぁーーっ!」「うわぁぁっ!」
咄嗟に取り出したコンテナに石混じりのサンドブレスが吹き付けられて大きな音を立てる。
「このトカゲ風情がぁーーっ!」
激しく音を立てているコンテナの上に飛び乗り、そのまま土竜の頭上高くへと飛んだ。迷宮化した環境におけるステータス効果は格別で、吹き抜けの二階を超える高さへと達して眼下の土竜を捉える。
ブレスを吐き切って、こっちを見上げた土竜と目が合うが今更気付いても既に手遅れだ。
「『排出』!!」
三トンはあるコンテナを土竜目掛けて打ち出す。
―― Gugya! aa! a……
コンテナの下から土竜の断末魔が聞こえ……消えた。
「よっしゃ!」
思わず空中で手を握る。
「やったか?!」
コンテナを見つめる先輩の嬉々とした声が聞こえた。
紫苑先輩、それはフラグです。
バランスを取りつつ半分潰れた土竜の上のコンテナに無事着地した。
―― ピシッ
床にひび割れが広がる。
「紫苑先輩! 俺は鈴音を探しに行くんで先に脱出をお願いします!」
出口に居た生徒が通れるようになったのを確認してこちらに手を振っているのが見えた。
「なっ、いや、分かった。遊佐君も早めに戻ってこいよ。全員脱出するぞ! 急げ!!」
「秋都、すずりんを頼むにゃ」
「秋都君、気を付けて」
紫苑先輩に千紗、千尋姉妹が離れるのを確認して飛び上がる。
「了解っす、それじゃあ、 『収納』! さらに、『排出』!!」
ひび割れが大きく広がる床に向けて収納したコンテナを再度打ち込んだ。
―― ビシッ、ビキビキ、ズズズッ、ドガッ
床が抜ける。
「じゃ、また後で」
右手をあげて親指を立てる。そして地下へと落ちた。
◆ ◇ ◆
「『集荷』!」
落ちながらコンテナと瓦礫を仕舞う。土竜の残っていた半身、更には一緒に落ちてきたドロップアイテムも回収された。
「よっと、着地成功。ところでメルリン、ここはどこかな? レストランに見えるけどいやに広くないか?」
落ちる時にも気になったが天井までの高さも十メートル弱はある。なお、天井の穴は既に殆ど塞がっていた。
『おそらく全体に二倍くらいに広がっています。どうやら階層を増やすのではなく広げる方法を選んだようです』
「鈴音は……控室になっていた会議室にいれば良いけど、メルリンわかる?」
ともかく廊下へ向かおう。時々瘴気だまりからフォークにナイフを持ったゴブリンや歩く玉ねぎが現れるのを切り捨てる。
やけに身体が軽い。土竜を倒したことでレベルアップしている気もする。
『空間が安定していないためはっきりとはわかりませんが、この階に何者かが残ってはいるようです』
「鈴音だと良いが、とりあえず、そっちに向かおう。メルリン、ナビをお願い」
『了解です。ルートを表示します』
メルリンの返事とともに目の前に矢印が表示される。
「おわっ、え、なにこれ。ナビゲーション? あ、ナビを頼んだからその通りだけど、AR?」
『ステータス表示と一緒です。脳内に直接作用してますのでマスターにしか見えていません』
「あ、目をつぶっても見えるな。おっと、次は左か。まさか地下が迷宮型になってるとは……」
似たような廊下に似たような部屋、複雑化した地下一階を矢印に従って駆け抜ける。
「ところでメルリン、帰り道は分かる?」
ダンジョンの床をぶち破っておりてきたので帰り道はわからない。
『……今のところないですね。現在この階層は孤立しており、既に一階の状況を把握することが出来ていません。迷宮発生による迷宮構築が安定すれば道が繋がるはずですのでそれを待つことになります』
「そっか、じゃあ、まずは鈴音と合流しようか」
―― 秋葉原探索者養成高校出演者控室
ナビゲーションに従い到着した部屋にはそう書かれたいた。
「鈴音、無事か!」
ノックをせずにドアを開けたのがまずかったのかもしれない。
大きく開け放たれたドアの先には両手に双剣を握り、無表情な鈴音が光を失ったような目でこちらを向いていた……。




