第35話 夢ノ宮公会堂4
「おーい、遊佐! そのスピーカーはこっちに頼む」
「うぃーっす。あ、小田先輩、地下一階のレストランの方で大畑先輩が呼んでました」
紫苑先輩には何もしなくても大丈夫とは言われているが、力仕事をメインにあちこちを見回りつつ設営手伝いをしていた。
「ん? ああ、もうすぐ昼か。昼飯は地下のレストランでパスを見せれば食べられるようになってるから遊佐も手が空いたら食べに行けよ」
「あざっす、わかりました!」
デバイスを確認した小田先輩は慌てて地下へ続く階段へと向かった。
一階のコンサートホールの裏手には出場者の控室がある。もっとも、数が足りないため地下一階の会議室も控室として借りていた。
また、地下一階にはレストランもあり、今日明日はこのイベント関係者用の食事が出ることになっている。
「遊佐君、ちょっと悪いけど搬入手伝ってもらえない? 外に追加のトラックが来たみたいなの」
「あ、わかりました。裏の駐車場の方ですかね?」
「そうそう、助かるわー。疲れてない? 商業科はダンジョンに潜ってる人が少なくて見ての通り体力がないのよね」
見回すと先輩方はかなりへばっているようだった。
「まあ、俺の場合は役職取得前から探索者目指してましたし、幸いここの所でレベルアップしたらしくまだまだ元気です」
手を振る女子の先輩の見送りを受けて公会堂の裏へと出た。
『マスター』
「ああ、探ってるような視線を感じるな。それと、夢ノ宮公会堂って魔力がかなり濃くなってないか? もう少しでスキルを発動できそうな感じもする」
トラックの荷台から荷物を降ろすが軽い。
とりあえず、二つほどまとめて抱えて公会堂の中へと戻る。
『この場の魔力はわかりませんが、近くまで伸ばしたマスターのダンジョンからの魔力流出は感じられます』
「へぇー、ってそれ不味くね?」
『流出量分は再度吸収していますのでマスターのダンジョンに問題は……さほどありません』
「メルリン、今さ、間があったよね、それに、さほどって何? 問題あるんじゃないの?」
『マスター、前から人が来ます。気を付けてください』
「おーけー、少し横に寄るわ」
「うぉっ、荷物が歩いてくると思ったら遊佐君か。ああ、それは地下の控室に運ぶやつだね、エレベーターで降りてくれるかい」
「わかりました。下に持っていきます」
前が見えないのでメルリンの指示で地下に降りる。
「あっ、秋都にゃんにゃ」
「秋都さん、その荷物こっちにお願いします」
鈴音と猫々《ねこねこ》娘々《にゃんにゃん》の元気な方、千紗が控室となっている会議室の前に居た。
「この荷物、鈴音達のだったか」
「ええ、ライブで使う道具とか諸々を秋高でまとめて運んでもらったんです」
地下一階のこの会議室は秋高の鈴音と猫々娘々、そして、もう一人の先輩とで控室として使用するらしい。
「ところで秋都さん、私達これから昼ご飯を食べに行くんですけど、まだだったら一緒に行きませんか?」
デバイスを見ると昼を過ぎており、スタッフ宛の一斉メッセージで随時昼食を取るようにと送られてきていた。
「ああ、こっちもそろそろ昼にするつもりだったから丁度いいな」
「やったにゃ、千尋にもレストランに来るように伝えとくにゃ」
「それじゃ、行きましょ」
鈴音と千紗さんに引っ張られるようにレストランへと向かう。
―― 本日貸切
そう書かれたレストランのメニューはAセットかBセットだけだ。
「おっ、やっと遊佐も来たか、お疲れー」
「このレストラン、今日は特別にあけてもらってるんで昼で営業終了だからな」
「あ、先輩方もお疲れ様です」
「おうよ、それはともかく、爆発しろ」
入り口で商業科の先輩とすれ違う。何か暴言を吐かれた気もするが、逆の立場なら俺もそうしたかもしれない。
うん、なぜか二人に腕を取られて挟まれたたまま席に着いた。
ふと視線を感じて顔を上げると魔法少女と目が合う。
「なっ、あぁっ! 破廉恥です!」
さっと顔を逸らし、踵を返して出ていく赤と青のオッドアイに黒のゴスロリ姿の少女。
宝石の付いたステッキのようなものを持っていたし多分魔法少女だろう。
「……強烈だな。えーと、あれは?」
何処かで会った気もするが、一度会ったら忘れられない気もする。
「ああ、ルナちゃんは月光魔法少女☆月夜ルナで魔法少女隊13の一人ね。今回はソロで参加してるんじゃなかった?」
「あのグループは別にグループ活動が必須なわけじゃないみたいにゃ。グループ名に13が付いてるけど人数もそんなにはいないはずにゃ」
「なるほど? 地下アイドルも奥が深いな」
良くわからないことが良く分かった。
「お待たせ、ルナちゃんが慌てて出ていったけど時間押してる感じ?」
入れ替わりに千尋が昼食のトレーを持って現れた。
「まだ大丈夫にゃ。秋都が破廉恥! って言われてただけにゃ」
千尋が俺、そして、横にピッタリと座っている鈴音と千紗を見る。
「秋都君って言うより、どう見てもあんた達のせいじゃない。このお調子者達は……ごめんね秋都君」
「あ、全然大丈夫です。ちょっと男子の先輩達に射殺すような目で見られるだけですし。折角のイベントですから楽しんでいきましょう」
「それはそれで、まあ、秋都君がいいならいっか」




