第34話 夢ノ宮公会堂3
―― 夢ノ宮公会堂
地下一階、地上三階建ての建物は創立百年を超えており、レトロな外観で夢ノ宮市の観光名所の一つである。
周辺にも同様のレトロな建物が多く、自宅から三十分弱の散歩はあっという間だった。
「おぉーっ! 中々にレトロ感あふれるオシャレな建物だね。アイドルのライブ向けな外観ではないかもしれないけど」
テンションあげあげな鈴音はデバイスを取り出して撮影をしている。
余裕を持って出てきたため集合時間まではまだしばらくある。
「秋都さん、秋都さん、ちょっとこっちに来て、そうそう、命に送る写真撮りますよ」
夢ノ宮公会堂をバックに二人で自撮りをする。二人でもやっぱり自撮りと言うんだろうかとかアイドルが男と二人で写真を取って良いんだろうかとか隣から漂う甘い匂いに意識が遠のく。
「……はっ、アイドルとツーショットって幾ら払えば……」
『マスター! マスターはハニトラとか美人局に引っかかるタイプでしたか? あ、そう言えば今は超金持ちでしたね』
「秋都さん、急に何を馬鹿なことを――」
「あーっ、すずりんだー!!」
「ほほぉっ、前日からウキウキ現地入りのすずりんは彼氏とツーショット撮影ですかぁ」
「げっ、猫々《ねこねこ》娘々《にゃんにゃん》。どうしてここに……」
声を掛けてきたのは猫耳女子の二人組だ。
「えーっ、どうしてって、あたし達も参加するって言ったよね。さては出場者も見てなかったにゃ」
「千紗、今週の鈴音はずっと上の空だった。今も地に足が着いてない。けど、まさか原因が男だったとはにゃぁ~」
ニヤニヤ笑いの猫娘達は少し髪の長さが異なるだけでそっくりだ。
「お、男って別に秋都さんはか、彼氏とかじゃなくて……」
「えーと、今回のイベントに参加される方ですよね。俺は夢ノ宮探索者育成高等学校一年の遊佐秋都です。ウチの商業科が協賛してる関係でスタッフとして参加してますのでよろしくお願いします」
真っ赤になってオタオタしている鈴音に割り込んで自己紹介をする。
「おっ、同じ一年生かぁ。あたしは秋葉原探索者養成高校一年、芸能科の猫宮千紗にゃ。そんで、こっちが双子の妹の千尋、すずりんのクラスメイトにゃ」
「猫宮千紗です。よろしくお願いします、鈴音の彼氏さん」
「いや、別に鈴音の彼氏ってわけじゃな……」
「そうです、秋都さんはちょっと昨日泊めてもらっただけで……あっ」
「ほほぅ」「泊まりこむ関係」
『鈴音が盛大に自爆してますね』
「ふう、俺のとこはマンションで貸部屋が開いててな。ホテルも埋まってるってことでイベントの期間だけ短期に貸しただけだよ」
「そうだったんだ。確かにホテルを取るのも大変だったにゃ」
「ふーん、ホテルも埋まってたんだ。まあ、その辺も含めて鈴音には後で話を聞かせてもらうことにする」
「あ、はい、千紗ちゃんお手柔らかにお願いします。ほら、そろそろ開くみたいだし公会堂にはいりましょう」
会館時刻となるらしく、いつの間にかスタッフや出演者が集合しつつあった。
鈴音のクラスメイトでもある猫宮姉妹と一緒に公会堂へと入る。
鈴音達が通う秋葉原探索者養成高校は俺の通う夢ノ宮探索者育成高校と同じく国立高校だが『育成』ではなく『養成』高校だ。
探索者養成高校の大きな違いは役職が発現していなくても入学可能な事だ。
ただし、最低限の魔力耐性、正確には魔素適合率が必要になる。もっとも秋葉原は魔力が濃いと言われる場所であるため魔力耐性がないと学校に通うこと自体が難しい。
そして、秋葉原探索者養成高校、通称『秋高』の特殊な学科として有名な芸能科がある。
このイベントにも鈴音、猫宮姉妹以外にも現役秋高生や卒業生がいるぐらいだ。
◆ ◇ ◆
―― ナンバーワン地下アイドル決定戦
夢ノ宮公会堂一階のコンサートホールには既にでかでかと横断幕が掲げられている。
『ナンバーワン地下アイドル決定戦』と謳ってはいるものの、実情は単なる合同ライブである。
秋高芸能科、商業科と夢高商業科の交流も兼ねているらしい。
「遊佐君、ちゃんと来てくれて嬉しいよ。しかし、手が早いとは思っていたが両手に花で余りある程とは……それとアイドルに手を出すのはあまり感心しないが?」
スタッフを引き連れて現れた紫苑先輩の第一声がコレだ。
「紫苑先輩、いきなりの風評加害はやめてください。友人とそのクラスメイトですよ」
「えぇーっ、あたしとは遊びだったにゃ?」
「そうよ、今晩家に来ないって誘ってたのは嘘だったの?」
「ちょっと、千紗に千尋、私の秋都さんをからかわないでよ」
三人の美少女がしなだれかかってきて先輩の引き連れてきた男子生徒達の目が剣呑になる。
「ちょっ、お前らも何を火に油を注ごうとするってか放火レベルだろ!」
「ふふっ、彼が遊佐秋都君、商人系なので我々商業科の後輩になる期待の新人と言いたいところだが、ここ一月でDランクまで、いや、この前Cランクにあがったと聞くほどなので探索科に行ったとしてトップレベルだ。皆もよろしく頼む」
Cランクと聞いて先輩の背後の皆の目が驚愕に見開かれる。今度は女子生徒の目がギラリと光った気がするが気の所為だろう。
「相変わらず情報が早いですね。役職〚商人〛の遊佐です。ランクもどちらかと言えば商売関連ですし商業科に進む予定ですんで先輩方もよろしくお願いします」
商人たるものしっかりとした挨拶は基本である。
「遊佐君にはフリーで動いてもらうから適当に手伝うなり見学するなりしといてくれ。あぁ、ただしこれ以上アイドルに手を出すのはやめてくれるとありがたい」
「……そもそも手を出してねぇよ!」
紫苑先輩は手をヒラヒラさせて去っていった。




