第30話 夢ノ宮公会堂
「本当に夢ノ宮公会堂って意外と近いんだな。念の為近くまでダンジョン広げとく?」
何度か行ったことはあるが、バスを乗り換えて行っていたため家からは遠いと思っていた。どうやらバス路線的に遠回りをしていただけで直線距離としてはそう遠くない。
『そうですね、DPも順調に貯まっていますし、何かあった場合に退避可能な方が何かと安心です』
【迷宮管理者】はダンジョンを作成、管理する役職である。
また、ダンジョンの維持や改装、モンスターの配置等にはDPと呼ばれるポイントを使用する。
このDPはダンジョン内に探索者等が侵入し滞在、戦闘等を行うことで貯まることにはなっているのだが、実際のところそれらに関する説明はなかったりするのだ。
俺の場合は【転生者】の役職と『チュートリアル』スキルからの『ナビゲーション』ことメルリンが色々教えてくれたために困りはしなかったが、他のダンマスはちゃんとしたダンジョン運営が出来ているのか疑問が残る。
『基本的には元々の設定をそのまま微調整だけで運営してるのではないでしょうか? しかし、DPをこんな方法で稼げるとは……流石はマスターです』
現在の俺の管理するダンジョンの状況だが、元々の下水道ダンジョンを微調整して下水道の下にダンジョンを構築している。
つまり、下水道は迷宮化しておらず、下水道内にこっそりと人が通れないぐらいのサイズで入り口を用意している。
そうすると探索者が入れないためDPが取得できないかと言えばそんなことはなく、ある裏技的な方法で大量のDPが日々貯まっているのだ。
DPが貯まる条件、それは厳密には迷宮内に生物がとどまること、および、魔力が消費されることである。
そう、下水道には元々ネズミ等の小動物が住んでいたりするのである。そいつらをダンジョンに誘い込むことで日々のDPを貯めているのだ。
『マスター、夢ノ宮公会堂近くまで迷宮を伸ばしましたが、流石に真下まで拡張するのは難しそうです』
「地上への入り口を開けると移動は楽そうだけど、そうするとダンジョンがあるのがバレるしなぁ」
実際のところ、ダンジョンコアは下水道迷宮の中ではなく、ここ、俺の部屋の屋根裏に設置しているため、バレる可能性はかなり低い。
下水道からマンホールの形で俺の家へと通路をつなげており、この家もダンジョン扱いとなっているのだ。
『ところでマスター、そろそろ、ダンジョンの調整に逃げるのをやめて、この家の調整を行うべきではないでしょうか? ライブ期間中に紅条鈴音が滞在できるようにしなくてはなりませんよ?』
そう、『ナンバーワン地下アイドル決定戦』こと地下アイドルの合同ライブが夢ノ宮公会堂で開かれるに当たって、俺の家が近くにあることを知った鈴音がホテル代わりに滞在することになったのだ。
とは言っても、この家は小さなマンションになっており、一階がコンビニで三階が自宅、そして、二階は独立した部屋が数部屋あるため、二階に滞在してもらう分には問題はない。というのをうっかり知られてしまったのである。
そもそもの発端はいつの間にか入れられていたチャットグループにあった。
◆ ◇ ◆
それは、久々にのんびりと夕食を取って休もうとしていた時の事だった――
―― ピコン!
―― ピコン! ピコン!
―― ピコン! ピコン! ピコン!
「えーい、うるさい!」
デバイスの通知音の煩さとしつこさに負けてチャットグループを開いた。
「秋都、出るのが遅い、どうせ暇してたんでしょ。早く出なさいよ」
「命ちゃん、そうは言っても秋都さんもいつでも暇してるわけじゃないと思いますよ?」
空中投影型のディスプレイに二人の美少女が浮かび上がる。
金髪で口が悪いほうが九能命、九能財閥のお嬢様でありCランク探索者でもある。
そして、困った事に『ダンマスゲーム』のヒロインの一人でもあるのだ。
本来であれば二学期になってから夢ノ宮探索者育成高等学校に転校してくるはずなのだが、なぜか先に出会ってしまった。
もう一人の青髪のほうは紅条鈴音、命の幼馴染の地下アイドルだ。
紫苑先輩から渡されたチラシの『ナンバーワン地下アイドル決定戦』にもエントリーされており、この呼び出しはそれに関連するものと思われる。
「ちょっと、聞いてる? ところで、秋都の家は夢ノ宮よね?」
「そうだ、ってこの前は家の前まで送ってくれたじゃないか。ああ、その節はありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。じゃなくて、この前は暗くなってたからあんまり気にしてなかったのよ。それで、命の方から頼みがあるんだって」
「あ、はい。えーと、実は再来週に夢ノ宮に行く用事がありまして……」
「ああ『ナンバーワン地下アイドル決定戦』な。鈴音も出るみたいだな、おめでとうってことでいいのかな?」
「え、あっ、どうして知ってるんですか?」
「どうしてって、協賛に夢ノ宮探索者育成高等学校商業科があるだろう、その伝手で俺も前日から夢ノ宮公会堂に行くことになってるんだよ」
「それなら話が早いわね。そのイベントが二日間あるんだけど、その間、鈴音が泊まる場所を貸してほしいのよ。ほら、秋都の家の二階部分は貸部屋なんでしょ?」
なるほど、確かにウチからだったら夢ノ宮公会堂にも行きやすいだろう。
「確かに貸部屋だったが、今は貸してないぞ」
「じゃあ、空き部屋ってことじゃない。イベントの間、鈴音に貸してよ」
九能財閥のお嬢様なんだからホテルの一つや二つ押さえるのもすぐだろうにとも思ったが鈴音は親に頼らずにアイドル活動をしているんだったか。
「……まあ、どうせ俺もイベントに行くことになってるし、部屋も少し掃除すれば使えるだろうから構わないぞ」
「あ、ありがとうございます。日程的に三泊はしないといけないし、近くの安めのホテルは埋まってるしで本当に困ってたんです」
「じゃあ、日曜は私も鈴音と一緒に泊まるから、イベントの打ち上げしようよ。あ、秋都の部屋の家探し、じゃなかった、お部屋訪問も楽しそうよね――」
――てな感じであっという間に鈴音と命による自宅訪問イベントも決定してしまったのだ。




