第24話 秋葉原 is 秋葉原
神核教過激派によるテロリスト騒動が収まった次の日の昨日、つまり、新宿迷宮特区での二日目は流石に一旦休養日とする話もあった。
あった、そう、あったのだが俺の持ち込んだキュアゼリーのせいで元々の予定でもあったモンスターの部位破壊の収納によるドロップアイテム化の実証実験が強硬されることとなったのである。
いや、元々ギルドからの依頼はこの実証実験であったので問題はない、ないのだが、疲れが取れていない体を引きずりつつ、一日中キュアスライム狩りを行うことになった。
サッカーボールぐらいの大きさしかない通常のキュアスライムに対してはコンテナを落とすわけにもいかず、用意されたバケツを使用してのスライム切断実験はしっかりと成功した。
ただし、やはり切り離してから数秒で霧散、または、回復されてしまうためアイテムボックスの展開と収納をかなり素早く行う必要があるため、現状でこの方法を取れる探索者はそんなにいないとのことだ。
「これでアイテムボックス持ちの地位向上とキュアゼリーの安定供給がはかれますね、ハイ」
とは課長さんの弁だ。
ちなみに、マジックバッグへの収納はマジックバッグ等の魔導具が魔石、つまりは魔力を使用するため、格納しようとしたところで同じく霧散することが分かった。
そんなこんなで新宿迷宮特区での三日目、ギルドの依頼は完了となり美凛さんとは現地解散ということで別れた俺は、黒塗りのリムジンカーに連れ込まれようとしていた。
「あら、偶然ね。どこかへ出かけるところかしら? 丁度良いから乗っていくと良いわ。さあ、秋都さんをお連れして」
そんなことをのたまう金髪美少女の言葉に従った黒サングラスに黒スーツのいかつい方々に丁重にリムジンへと招待されたのである。
「九能さん一昨日ぶりですね、どうしてこちらへ?」
本当に偶然通りかかった可能性もあるだろう。
「ええ、偶然通りかかっただけですわ。ところでギルドの依頼も終わったようですし、夢ノ宮に帰られるのであればお送りしますよ。それともどこかに用事でも?」
彼女にギルド依頼について話してはいないはずだが、突っ込んではいけないのだろう。なにせ天下の九能財閥のお嬢様であるからにしてその情報網も凄いに違いない。
一般的には九能一氏、および、彼が設立、会長を務める九能財団が有名だが、その影響は思っていたよりも遥かに大きく、九能財閥として各種分野、特に探索者関係にガッツリと食い込んでいた。
「ああ、せっかく都心まで来たのでアキバで買い物をしてから帰ろうと」
「アキバ、ああ、秋葉原ですか。何か買うものがあるなら九能系列のお店もたくさんありますのでご案内しますよ。それじゃあ、秋葉原へ向かって」
九能さんが運転手に告げるとリムジンは音もなく走り出した。
なお、広いリムジンの中ではあるが九能さんとは隣り合って座っており、向かいには黒スーツのボディガードと思われるお姉さんが無表情でこっちを見ていてめっちゃ気まずい。
「ところで秋都さん、秋葉原には何を買いにいかれるのですか?」
ダンジョン内での黒フードに黒の忍者姿を見慣れてしまったせいか、いまの白を基調としたワンピース姿はいかにもお嬢様っぽくて違和感がある。
いや、違和感と言えばさっきからの会話でも何か喉に刺さった小骨のような違和感を感じているのだが。
「……あ、秋葉原か。今向かっているのは秋葉原、アキバですよね?」
九能さんが一瞬眉をひそめて首をかしげる。
「えぇ、アキバ、秋葉原に行くつもりでしたけど?」
「ん? 秋葉原ですか? 秋葉原ではなく?」
「えぇ、秋葉原は発祥は闇市と言われていて電気街やオタクの街、そして、今はダンジョン関連でも有名な秋葉原のことですよね? 非合法なものから合法なものまで何でも揃うと言われる街のことですよ」
「あぁ、秋葉原、秋葉原ですね。俺の思っている所であっていると思いますよ。そっかぁ、都会では秋葉原って言うんですねぇ」
「いえ、はい、全国的に秋葉原、通称アキバと呼ばれていると思います……よ?」
向かいのお姉さんもうんうんとうなづきながらこっちを見ている。田舎から出てきたお上りさんを見るような優しい目だ。
そもそもここは『ダンマスゲーム』の世界だった。秋葉原、そう、『あきはばら』が秋葉原、『あきばはら』であってもおかしくはないし、俺が住んでいるのも宮浜県夢ノ宮市だ。
よく考えれば宮浜県なんて多分前世では存在しなかった。
今まで意識していなかったが、俺が前世で生きていたのは2020年代、『ダンマスゲーム』の舞台となっている現在はダンジョンが発生してからかなりたった2053年なのだ。
前世と同じ世界であると考えていたのが間違いだったのかもしれない。うん、もっと歴史の勉強をしておくべきだったのだけは間違いない。
「そっか、ちょっと納得がいった。で、アキバではカメラ、あー、配信用ドローン的なのって買えるのかな?」
「買えますよ。というか、秋都さんが配信するんですか? するなら絶対チャンネル登録します! ああ、ウチの系列会社で配信系機材を取り扱っているところがありますから、まずはそこを回りましょう。詳しい人にも聞いてみましょうか」
そそくさとデバイスを取り出した九能さんはあちこちに連絡を入れだした。




