第18話 神核教2
「遊佐君には、この瓦礫の撤去をお願いしたいのよ。一応ウチの職員の見立てではゴソッと撤去しても強度的にはすぐに崩れることはないって話ね。君の『倉庫』ならまるっと入るんじゃないかな。そうでなくても手作業でどかすよりは遥かに安全で早いと思うわ」
確かに縦横高さ、奥行きとしてはここからはわからないが、どれも十メートルはなさそうに思える。
「……たぶん行けそうな気がします」
「遊佐君が瓦礫を撤去して通れるようになったら、私とコショウが即時突入、速やかにテロリストを確保ね。相手も役職持ちだとは思うけど、迷宮外だから、なるべく死なない範囲で確保しましょう。ところで、遊佐君は武器は持ってる?」
「あ、はい、剣なら持ってますけど」
貰った剣は『倉庫』に入れてある。通常であればギルドに預けることになるか、専用のケースに入れてダンジョン外での使用に制限が掛けられている。
アイテムボックス系のスキルもダンジョン外では使用できないため専用ケース同等の扱いとされている。
「剣って真剣よね、じゃあ、うん、これを君にあげよう」
そう言って 咲夜さんは眼の前に生じた黒い空間から一本の木刀を取り出した。
「えーと、これって呪われたりはしてませんよね?」
赤黒い光沢の木刀は禍々しい気配を放っているようにも感じる。
「……大丈夫、ダイジョーブ。ノロワレテハイナイヨ?」
問いかける俺に眼を合わせず木刀を握らされる。
「『撲殺人々』……なんだかとっても物騒な銘が彫ってあるような気がするんですけど」
「いや、その木刀はホントにそこらでお土産に売ってる木刀だから、その銘も元々使ってたヤツが土産屋で彫ってもらったやつだよ。一緒に修学旅行に言ったあたしが保証するよ」
「あぁ、それ兄貴が昔使っていた木刀でしたか……それなら、ある意味安心です、ハイ」
課長さんが納得したように頷いて、眼を逸らした。
「いや、絶対曰く付きだろ!」
「んー、黒歴史? 元々使ってたやつが『ぼくさつにんじんそーど!』とか叫んで振り回してたんだよねぇ。なんだけど、そのうちその木刀では幾ら殴ってもモンスターが瀕死止まりで死ななくなってねぇ。まあ、痛みだけは発生するから拷問道具としては重宝……いや、使い道のなくなった武器だから非殺生武器として君にプレゼントするよ。ほら、これならダンジョンの外で携帯していても問題ないしね。まあ、探索者の後輩への贈り物と思って受け取ってくれ」
「……えぇ、ありがとうございます。あれ、この木刀どこから取り出しました? 咲夜さんもアイテムボックス持ちならこの瓦礫ぐらいどかせるんじゃ……」
「ああ、これね――」
再度現れた黒い空間から同じく赤黒くなった鉄パイプっぽい何かを引き出した。
「――これはスキル『武器庫』、自宅警備員らしいスキルでしょ。残念な事に武器や防具しか入らないのよね。ま、それはともかくそろそろ乗り込みましょうか」
鉄パイプを肩に当てて微笑む咲夜さんは姐御と呼んだほうがしっくりきそうだ。
「……それじゃあ、『収納』っ!!」
想定よりだいぶ魔力を消費した気がするが一瞬で瓦礫に塞がれた通路が開通した。
「……なぁっ?! ぐぁっ」
開通した先でこちらを見張っていたらしき白ヘルメットの男が次の瞬間には通路の壁に叩きつけられていた。
『……死んではいないようです。あの鉄パイプの効果でしょうか? マスターの貰った木刀にも同じ効果があると思われますので安心ですね』
咲夜さんは俺の後ろにいたと思ったがいつ動いたかもわからなかった。Sランク探索者は人外、そう言われる理由が少し分かった気がする。いや、ここは既にダンジョンのそとだよな?
「コショウ、何ぼーっとしてるんだ。ここは既に戦場だぞ。そもそもお前は常在戦場の心構えが足りてないんじゃないか?」
「え、ハイ。すんません、ハイ。ですけど、ここはダンジョン外ですよ。多少魔力が濃いだろうと言っても咲夜パイセンみたいな動きはできませんって。ほら、遊佐君もスキルが使いづらかったでしょう?」
確かにスキル発動にいつもより魔力を持っていかれているような気がした。とは言っても一般的に収納系スキルの魔力消費はかなり少ない。
「そういえばこの場所って既にダンジョン外でしたね」
「そうね、瓦礫があった間はそれなりに魔力が濃かったと思うからスキルも発動したと思うけど、今は使えなくなっているはずよ。ダンジョン近くを崩落させたから今回のテロはセイクリッドラビリンス教関連だと思ったんだけど違うのよね?」
「あ、ハイ、いつものと言ってはなんですが、やっぱり神核教です、ハイ。過激派グループが犯行声明を出してますけど、神核教からは破門したグループだと……」
ダンジョンが出来てから四半世紀あまり、世界の宗教事情としてダンジョンに関わる新しい宗教が台頭してきていた。
その宗派、いや、宗教としては主に三つがある。
―― 神核教
ダンジョンコアを信仰の対象として崇拝している。
旧東京都庁迷宮を占有している迷宮管理局に対し、ダンジョンの開放を求めており、今回のテロもその一環らしい。
なお、旧東京都庁迷宮ではコアは発見されておらず、また、保護対象となっている。
―― セイクリッドラビリンス教
ダンジョンを神域とする一派となる。
神の世界であるダンジョンの領域を広げようとしており、この新宿迷宮特区のような場所を増やすべく活動している。
魔力が濃い場所にダンジョンが発生しやすい等の仮説に基づき今回のように魔力の拡散を留めて領域を増やそうとすることがある。ある意味一番過激な一派だ。
―― 異世界教
ダンジョンの先には異世界があるとする一派。
探索者には隠れ異世界教が多いとも噂されている。
基本的にダンジョンに潜るだけであるため、他の二派と比べて問題は少ない。
「やっぱり神核教のバカどもか。あいつらダンジョンの開放を求めるくせにコアルームを神殿として占有しやがるからな。まあ、ウチのシマに手を出した落とし前はつけさせてやるかぁ」
獰猛に笑う咲夜さんは……、やっぱ姐御って呼んだほうが良いですかね……。




