第12話 璃瑠神迷宮リザルト
―― 三十分以内に退出してください……
天の声と同時に部屋の中央に青く光る転移陣が現れる。
「おお、これがダンジョンから帰還する転移陣!」
ボス部屋が存在するタイプの迷宮においてはボス討伐後にこのような魔法陣が現れてダンジョンから一足飛びに帰還することができるという。
そのため、深い階層においては帰還のためにあえてボスを倒すことも多いと聞く。
「あ、まだ乗っちゃだめだよ、罠だから」
興味津津で転移陣へと近づこうとしたところで麻桜さんに止められる。
「へっ?! 罠?!」
「多くの場合、最終階層には迷宮核を配置したコアルームがあるの。そこを探されたくないために早く退出させようとしているのね」
そう言って麻桜さんはボス部屋の壁を叩いて回っている。
『マスターは早速帰るつもりでしたね。時間制限と帰還用の転移陣という心理的トラップに嵌りましたか』
「ぐっ、いや、その通りだが、ところでコアルームはここにあるのか?」
『ええ、一応は隠してあるようですが、ほら』
見ると麻桜さんはこれまた巨大なハンマーを振りかぶっていた。
「はぁっ!!」
気合と共に振り下ろされたハンマーにより、壁一面が崩れていく。
そう、壁一面だ……
「こっち側の壁全部が偽装だったわけか……」
『迷宮構築の制約的にはコアルームへの接続は必須ですが、この方式ですと一部を偽装するよりは見つかりづらいかもしれませんね』
崩れた壁の先には本来のボス部屋の壁とコアルームに続くであろう扉が現れていた。
「それで、このダンジョンコアはどうするんだ?」
「ん、壊してみる? それとも壊そうか? そしたら秋都くんもスキルをゲットできるかもよ?」
「いや、壊す経験はつい先日やったし、商人向きのスキルじゃないと意味ないし」
ここで嘘をついて怪しまれても困るので素直に答える。
「秋都くんなら戦闘向きのスキルを手に入れれば十分戦闘職としてもやってけそうなんだけど? まあ、それなら白くんに連絡してギルドに聞いてみるよ……」
そう言って何やら念話を始めた。
しかし、俺がコアを壊したことがあると言ったことに何の反応もない。想定通りだがコア破壊したことについて把握されていたようだ。
『つまり、マスターが【迷宮管理者】になったかも疑われていたわけですね』
「……だからこそここのダンジョン探索に連れ出されたんだろ。それに、『疑われていた』ではなくて今現在も『疑われている』が正しいだろ。そう言えば西戸のやつも同じくダンマス容疑者だよな……生きてるかな?」
もしかして、二人ずつに分断して飛ばされたのは真神達の策略か?
いや、そう上手く罠を仕掛けることはできないし、むしろ罠を仕掛けるならダンマスだったとして西戸の側だ。
「……秋都くん、おーい、秋都くん」
「うわっ! 悪い考え事をしていた。それで、このダンジョンコアはどうするって?」
「とりあえず、白くんの方で処理することになったから、ここのコアルームについては内密ってことで誰にも話さないでくれる? あ、伽羅くんにもね」
「う、うっす。噂のお仕事って奴ですね。自分、何も見なかったです」
「そうそう、ギルドも長く居るとめんどくさい内密な仕事もあるんだよねぇ」
すうっと近づいてニッコリとする麻桜さん。だが、その眼は全く笑っておらず俺はただ頷くしかなかった。
「そういや、西戸にコアルームのことを話すなってことは西戸も真神と合流して無事だったんですか?」
「あれっ、言ってなかったかな。一応、命に別状はないみたいだけど……」
麻桜さんによると真神が発見した時には西戸は意識不明で倒れていたそうだ。
飛ばされた階にはキノコ系のモンスターもいたことから状態異常と魔力枯渇によるものであって命に別状はないが意識が戻るには数日かかるかもとのことだ。
こうしてイレギュラーな事態はあったものの、俺自身はドキドキわくわくな初のクラスメイトとのダンジョン探索を終えることができた。
西戸は数日の入院とのことだが、死んではいないのでダンマスではなく本当にただ巻き込まれただけかも知れない。仕方がないので、どこかでお見舞いには行こうとは思っている。
俺はというと真神と麻桜さんからのダンマス疑惑が晴れているといいなと思いながらその後の日々を過ごしている。
ちなみに、真神たちはギルドからの別な仕事が入っているらしく、いつも午後にはいなくなっているので少しホッとしているのも事実だ。
◆ ◇ ◆
「はぁっ?! 覚えてない? いや、まじで? お前と俺が真神と麻桜さんに連れられて璃瑠神迷宮に潜ったのを覚えてないってマジで言ってる?」
璃瑠神迷宮からほど近い病院の一室で俺は困惑した声を上げていた。
「ああ、ホントに覚えてないんだ。一応確認するが遊佐の言う真神と麻桜ってのは、あの真神と麻桜でいいんだよな? いや、どこに接点が……?」
上半身を包帯でグルグル巻きにされた西戸は困惑気味だが俺の方はもっと困惑している。
「『あの』が何を指すかはわからんが、最年少Cランクパーティの二人だ。見舞いに行けないことを謝ってくれと言われてるよ。てか記憶喪失ってことだが、どこまで覚えているんだ?」
「病院の先生には話したんだが、入院前で覚えている最後の記憶は璃瑠神迷宮にソロで潜っていた時に迷宮再構築に巻き込まれたとこまでだな。最下層で巻き込まれたとこまでは覚えてるんだが……その後に目を覚ましたのがここだった。いや、目を覚ましたらここに入院するのも二度目だって言われて俺も戸惑っていたところなんだが……やっぱ、そうなのか?」
西戸の眼は不安げに揺れている。
「ああ、お前が最初に入院で学校を休んだのは二週間程前のことだな。真神と麻桜さんが転校してきたのはその後だ。俺もちょい前にダンジョンに入ったりしたのもあって、クラスメイトのよしみで再開した璃瑠神迷宮の調査に連れて行って貰ったわけだ。お前のホームダンジョンってことだったしな」
「……そうだったのか。いや、すまん、真神達が転校してきたことも全く覚えてないわ」
『……マスター、これは 西戸伽羅が【迷宮管理者】だったとして、その間の記憶が抜け落ちていると考えるのが最も論理的な推測かと』
「そうだな……」
「ん、どうした? あぁ、遊佐が気にすることはないぞ、何があったかはわからないけどどうやら一命はとりとめたみたいだしな」
包帯グルグル巻きの西戸はどうやら胸にかなり大きな傷があったらしい。
真神が応急処置を行ったぽいのだが、果たして……。
「それで、遊佐さんよ、こいつは何だ? お見舞いにしては大げさじゃないか?」
西戸は札束の入った厚めの茶封筒を持ち上げてみせた。
「……お裾分け? いや、探索の分け前? 真神たちからの報酬も貰ったとは思うけど、ボスドロップの売却金とちょっとした情報提供がかなりの値段になったんだよ。一緒にというかボスを倒した麻桜さんが受け取らないって言うし、パーティメンバーだったお前には代わりにちょっと受け取って貰って独り占めの罪悪感から逃れようって寸法だ。入院費用もかさむだろうし、まあ俺のためと思って受け取ってくれ」
「……分かった。そういうことならありがたく貰っとくよ。まあ、入院費用とかは探索者保険で問題ないんだがな。じゃあ、また何かあったら手伝うってことで」
「おう、それじゃぁまた学校で!」
「お見舞いありがとな、覚えてはないが真神たちにもよろしく言っといてくれ」
お見舞いの果物の皮を剥き終わってから西戸の病室を後にする。
「……ダンマス期間の記憶の喪失か。偶然の一致かそのような手段があるのか」
『マスター、西戸伽羅が【迷宮管理者】であったかは不確定です。更には彼の傷を考えるに偶々生き残っている可能性も高いと考えられます』
「ですよねー、あいつ包帯グルグル巻きだったし。はぁ、ウチのダンジョンどうしよっかなー」
ダンジョン再開までの期限は近い――




