第11話 璃瑠神迷宮4
「それで、どうしてボス戦に挑むことになったんですか?」
璃瑠神迷宮の最下層を麻桜さんと並んで歩く。
なお、麻桜さんはここが何階であるかを知らないがそんな事はお構いなしに現れるホーンドウルフを屠っていた。
「白くんが言うには私が居るところは少なくとも十階層より下じゃないかって。そうなると上に戻るよりは下に戻ってボス部屋後の転移陣で戻った方が早いみたい」
「あぁ、此処みたいな迷宮型のダンジョンは昔のゲームみたいにボス部屋とセットで入口に戻る転移陣もありますもんね。納得ですけど、俺、弱いですよ」
実際のところここは最終層の十五階層なのでダンジョンボスを倒せば終わりだろう。
パーティだけでなく個人でもCランクの麻桜さんや真神にとってはFランクの璃瑠神迷宮であれば十五階層といっても問題ではないのだろう。
「大丈夫、大丈夫。ボスモンスターが単騎でありさえすれば私がボコるから、後ろで身を守ってるだけで良いよ」
「なんだかとってもフラグっぽいけど、ボスモンスターが複数とか取り巻きを呼ぶ場合は?」
こんな時はたいてい悪い方に話は転がる、俺は詳しいんだ。
「ん? 範囲攻撃でボコるだけだけど?」
オマエは何を言ってるんだとばかりに不思議そうな顔で麻桜さんは首を傾げた。
ゆるふわ系美少女と見せかけてモンスターをモンスターとも思わぬ殺戮系美少女である。
「あ、はい、ソウデスネ」
真の強者にとっては単騎だろうと複数だろうと大差ないのかもしれない。
実際のところ麻桜さんの強さは格別で三匹程で突進してくるホーンドウルフなんかは大剣の一振りでドロップアイテムと化していた。
俺は……はい、ドロップアイテム回収係です。
「その秋都くんのアイテムボックスは便利だよね。離れたところのアイテムも回収できるの?」
「アイテムボックス系のスキルはいくつかありますけど、俺のは『倉庫』ですね。容量がそれなりに多いのと体の一部が触れていれば回収できるのが特徴です。今のも一応は足先で触れて回収してるんですよ」
アイテムボックス系は商人関連の役職で持つ人がいるが、その種類は多々ある。『アイテムボックス』や『ストレージ』『マジックバッグ』等だ。それらは回収できるサイズや数、重量等、名前によってある程度の傾向はあるが人によって千差万別である。
「私もマジックバッグの魔導具は持ってるけど入れられるサイズが決まってるし、いちいち拾って入れないといけないから羨ましいかも」
「さすがCランク、マジックバッグの魔導具って安くても数百万円からじゃないですか。それに、ダンジョン外でも使えるのは大きな違いですよ。スキルのアイテムボックスだと中でしか使えないのでちやほやされるのは最初だけらしいです」
「ああ、ここらじゃアイテム買い取りに出すためにダンジョン内で詰め替え必要だもんねぇ。あ、爪が落ちた!」
大きなダンジョンではギルドがダンジョンの中にあったり、そもそも外まで含めて迷宮化している迷宮特区ではアイテムボックス系スキルも種類によってはかなり重宝されるとのことだ。
さりげなくボス部屋へ向かうルートを選択すること十数分、麻桜さんのおかけで散歩気分のままボス部屋の扉の前へとたどり着いた。
「おおっ、まさしくボス部屋っぽい! ……いや、笑わないでくださいよ」
広くなった通路の先に三メートル以上はあるであろういかにもな巨大な扉があればテンションがあがって叫びたくもなるというものだ。
「……白くんの方も用事が終わって外にでたみたいだからサクッと終わらせようかな」
そう言った麻桜さんが扉に触れるとひとりでに巨大な扉が開いていく。
開け放たれた扉から続く大きな部屋の中央には更に巨大な少し角張った人型っぽい何かがスタンバイしていた。
「あれ、ゴーレムですか?」
このような古い迷宮型にはおなじみのゴーレムは元となった素材によって強さが異なる。
最弱の泥人形に石人形、換金性の高い金人形等だ。
また、元となった素材がドロップアイテムで出ることも多いため一部では探索者人気が高い。
「まあまあ当たりね。魔銀人形よ、とは言ってもメッキだと思うけど。眷属を呼ぶこともないし安心して」
魔銀は魔力と相性が良く、魔石を使った魔道具の材料に欠かせない素材でダンジョン発生前の金並みに高い価値を持つ。
つまりはメッキと言えどもお宝の塊なのである。
「……特に問題ないなら少しだけ試したいことがあるんだけど良いですか?」
そう言ってボス戦攻略の立ち回りについて麻桜さんと話し合う。
「まずは一撃入れて様子見ね。上手くいくようなら可能な限り削る方向でいきましょう」
「うっす」
念の為手に持っていた剣を『倉庫』にしまって身軽にする。
一撃目はタイミングが重要だ。
「いっくよー!」
俺に合わせて少し速度を落として駆け出す麻桜さんを追走する。
―― 迷宮守護者戦を開始します。
天の声が流れ、魔銀人形は振り上げた腕を麻桜さん目掛けて叩きつける。
―― キンッ! ドガッ!
「今よっ!」
振り下ろされた腕の先に麻桜さんの姿はなく、肘先から断ち切られた腕と蹴り飛ばされた魔銀人形が見えた。
慌てて落ちているゴーレムの腕に触れ『倉庫』への収納を試みる。
「おおぅ、『収納』! おし、入った!!」
巨大な腕が収納されたのを感じる。
『確かに魔銀メッキですが金メッキよりは厚いようです。ちなみに金1グラムで畳数畳分のメッキができます』
「あれ、思ったよりは全然少ない?!」
ともかく、収納は出来たので麻桜さんに成功の意味で親指を立てて見せる。
その後はさながら流れ作業の解体場のようなものだった。
麻桜さんがゴーレムをぶつ切りにして蹴り飛ばす、俺がぶつ切りとなった部位を収納するの繰り返しだ。
なお、通常はこのように部位破壊された箇所も数秒後には光の粒となって消えるため収納したことはないとのことだ。
これにはマジックバッグでの制限も関連する。マジックバッグでは入れられるサイズに制限があることと実際にバッグ内に入れなければならないため試す暇もなかったのだろう。
また、商人関連のアイテムボックス持ちの役職は戦闘職と見なされていないこともある。
「これは入る?」
四肢を切り落とされ、未だ消えずに首と胴体だけになった哀れなゴーレムを指差す麻桜さん。
試してはみるが入らない。やはりゴーレムといえどもモンスターであり生物判定なのだろう。
「そう……」
俺が首を振ったところであっさりとゴーレムの首は胴体から離され、収納する間もなく光の粒となって消えていく。
残ったのはビー玉より少し大きいぐらいの魔石と白銀色のコインだった。
―― 迷宮守護者の討伐を確認しました。
「お、ラッキーだね。魔銀硬貨だよ。このランクだとメッキのゴーレムは何も落とさないことが多いからねぇ、避けて通る探索者も多いんだよ」
そのまま魔銀硬貨を手渡される。
「えっ?!」
「ほら、今回は私たちに付き合って貰ってる形だし、こんなイレギュラーに巻き込んじゃったからね。追加報酬だと思って受け取ってよ。まあ、せいぜい数十万円にしかならないと思うけど」
「……いや、数十万円って超大金なんですけど……この前のバイト代が霞んで見えるわ……」




