表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能の烙印者〜異世界でなんやかんだ生きています〜  作者: 肯定羽田


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

第九話 団長の過去

 治療室の喧騒が静まり、夜気が重く沈むころ。

 アベル団長に呼び出された俺は、執務室の扉を開けた。


「座れ、惣彩」


「……怒ってないですよね?」


「怒っているに決まっているだろ。何、死にかけているんだバカ」


 アベルは机を指でガツガツ叩き、深く息を吐く。


「だが……仕方ない。相手がグレイヴならな」


「団長、あいつ……何なんですか?」


 問いかけた瞬間、アベルの瞳が細く、冷たく光った。


「――元は、私の右腕だった」


「……は?」


「天才だったよ。剣も魔術も、私より速い」


 アベルは遠い日を見るように椅子にもたれた。


「『今日は体調が悪い』とか言って

 魔物十体くらい斬り刻む奴だった」


「怖すぎる!!」


「だが根は悪い奴じゃなかった。

 ……あの日までは」


 視線が、重く床を射抜く。


「アイツは“鍵”、つまり今お前の胸の“核”を研究し始めた。

 惣彩……お前の存在そのものだ」


「俺の……?」


「世界を再構築できる力だ。

 危険すぎる力だ」


 アベルは指を一本立てた。


「グレイヴはこう言った。

 『この世界は腐りすぎてる、世界ごと作り変える』とな」


「子供かよ」


「だから私は殴った。

『鍵を利用する気なら、私が止める』と」


 そして――。


「あいつは笑ってこう返した。

 『じゃあ団長、あなたごと殺して奪いとる』」


「笑って言うなよ!!」


「そこから三日間、殺し合いだ。

 寝る暇? そんなものはない」


 アベルは吐き捨てるように言った。


「最期に奴は“黒の災厄”に飲まれ、魔災に堕ちた。

 世界への嫌悪が限界を超えた結果だ」


 室内の空気が凍りついた。


「惣彩。

 あいつがお前の胸に“手形”を刻んだのは――」


「……?」


「お前を“鍵”として固定するためだ。

 言うなれば“所有印”」


「俺の意思は!?」


「ない」


「ないの!?」


 アベルは肩をすくめる。


「だから守る。

 お前はこの世でただ一人のお前なのだからな」


 そこで、少しだけ柔らかい声音になる。


「だが守るだけでは足りない。惣彩――強くなれ。

 弱い鍵は、すぐ壊れる」


 その言葉は重く、だが奇妙な優しさを含んでいた。


「……わかりました」


「よし。明日から地獄だ」


「急に冷た!!」


「惣彩、起きろ」(アレックス)


「まだ夜……いや夢……?」


「現実だ。起きろ」


 アレックスに肩を担がれ外へ出ると、

 アベルが朝焼け前の闇の中で腕を組んでいた。


「起きろ、クソガキ共」


「朝から罵倒やめろ!!」


「さて惣彩。今日のメニューだ」


 アベルが指を折る。


「一 城壁三周」


「いや最初から!??」


「二 追跡魔術つける。走らないと焼ける」


「もう逃げ場ないじゃん!!」


「三 アレックスが、お前が死にそうになったら運ぶ」


「恥ずかしすぎる!!!」


「黙れ。スタートだ」


 ドォンッ!!!


「なんで地面爆ぜるんだよ!?!?」


「喋るより走れ惣彩!!」


「俺は、死なないために叫んでるんだよ!!」


 


★ 城壁3周(炎追跡付き)

「焼ける焼ける焼ける!!!」

「惣彩、がんばれー」(アレックス)


★ 素振り理想1000回 → 現実200回で俺は死んだ

「あと800」

「無理だって言ってんだろ!!」


★ 魔力制御(寝込みを叩く)

「うヴぁああああああああ!!」


★ 反応訓練(アベル団長のナイフ投げ)

「避けられねぇぇぇ!!」

「避けるのを待ってやっているんだぞ?」

「じゃあ投げんな!!」


 ——こうして数時間。

 死んだ魚のような目になった俺を、アベルが見下ろす。


「惣彩。

 最後に私の本気()()を受けろ」


「絶対死ぬやつじゃん!!?」


 アベルが剣を抜く。


 ――瞬間、世界が止まった。


 刃が俺の喉元をかすめる。


「はいそこ、感じろ」


「感じる余裕ねぇって!!?」


 髪が一筋、空へ舞った。


「惣彩。

 死なないために。

 本気で生きろ」

「死ぬぅぅぅぅ!!」


 訓練終了。

 死体のように倒れる俺を見て、アベルは呟いた。


「……グレイヴは必ず来る。

 お前を(キー)として回収しに」


 その横顔は、静かに燃えていた。


「安心しろ惣彩。

 壊れても——」


「曖昧なのはやめろ!!?」


「文句を言う暇があるなら、明日も走れ」


「鬼畜!!!」


そう言いながら一日が過ぎた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ