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無能の烙印者〜異世界でなんやかんだ生きています〜  作者: 肯定羽田


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第八話 嫌な感じ!

「た、ただいま戻りましたぁぁぁ……」


「……生きてる……だけで……奇跡……」

アレックスが半分白目むきながら門をくぐる。


僕はというと、

胸の中心に謎の“黒い手形”が残り、そこからじわじわ痛みが続いていた。


「おかえりなさいませ! って、キャアアアアア!?」


 カレンが僕らを見た瞬間、悲鳴を上げた。

 普通に見ても死人三人組なので仕方ない。


「惣彩さん、胸の……それ……なに……!?」


「説明すると長い! てか説明したら俺泣く!」


「アレックスさんは!? なんで上半身服ないんですか!?」


「……グレイヴの衝撃波で……全部破れた……」


(※傷が深すぎて回復魔法が通らず、カレンの判断で“服を切り剥ぎ施術”することになって上半裸)


「うわ……筋肉……すっ……すご……」


「カレン、ヨダレ!! ヨダレ垂れてるって!!」


「えっあっちがっごめんなさいありがとうございます生きて帰ってきてくれてありがとうございますッ!!」


◆◆◆


「ん……んぅ……あれ……? 僕……天国……?」


「まだ死んでねぇよ!! 木に貼り付けられただけだから」


「それ天国よりひどくない……?」


「文句言う元気があるなら大丈夫だな」


 ハッシュは布団の上でピクピクしつつ、

 僕らを見るなり、死んだ魚の目をした。


「惣彩……アレックス……なんで二人とも上裸……?」


「いや、治療のために……」


「嫌なんだけどぉぉぉぉ!!!!

 なんでこいつらそんなムチムチな体してんるんだよぉぉぉ!!!」


「お前は胸筋ねぇだろ!?」


「差別ッッ!!!」


「差別じゃなくて現実だよ!」


 ハッシュが必死に布団をバタバタして抗議する横で、

 カレンは僕らの傷を確認しながらテンション上がりっぱなし。


「惣彩さん、その黒い手形……すごく……触ってみたい……」


「やめて!? 呪われそうだからやめて!?」


「アレックスさんのお腹、触ってもいいですか……?」


「駄目だよ!? 何いきなりセクハラモード突入してんの!?」


「ご、ごめんなさいッ!! 職業柄、つい……!!

 あっ、でも惣彩さんの胸筋も——」


「触るなって!!!!」


 治療室は今日も何かが欠けていた。


ドガァァァンッ!!!


扉が蹴破られた。


「おいクソ雑魚共ォォォ!!!!

 勝手に死にかけてんじゃねええええ!!!!」


「団長ーーー!?」


 アベルは全身怒気の塊みたいなオーラを出していた。


「惣彩。お前まず何? なんで胸に“黒い手形”ついてんの?」


「正直俺も聞きたいです!!」


「説明しろオラァ!!!!」


「い、いやグレイヴって奴に掴まれてそのまま——」


バキィィィ!!!!


「痛ぁぁぁあああああああ!!!!!

 なんで俺蹴られてんの!!!!」


「敵に触らせるとか雑魚の極みだろ!!

 正気か貴様ァァァ!!」


「だ、だって動けなかったんだよ!? 怖かったんだよ!?」


「泣くな! 泣いても弱いもんは弱い!!

 弱いなら鍛えろボケェェェ!!!」


「アベル団長!!!」


「アレックス。お前なんで服ないんだよ」


「……破れた」


「破れたじゃねえよ!! 筋肉見せて誰にモテたいんだオラァ!!」


ドゴォッ!!!


「ぐはぁッ!?」


「団長、それパワハラじゃ……?」


「ハッシュ、喋んな。次お前だから」


「ヒィィィィィ!!!!」


◆◆◆


アベルは全員を睨みつけ、言い放った。


「よし決めた。

 明日から“地獄の百倍濃縮(ディストピア)訓練”やるわ」


「いや死んじゃう死んじゃう死んじゃう!!!」


「グレイヴに遭遇して生き残ったんだろ?

 なら死なねえよ」


「理屈おかしい!!!」


「惣彩。お前は特別メニューだ」


「死ぬッッ!!!!」


「安心しろ。本気は出さねえ。

 拳が当たる瞬間だけ時空歪む程度にしとく」


「それ本気じゃん!!!!」


「ぼ、僕……訓練参加……?」


「当然だろハッシュ。お前一番役立たずだったぞ」


「言い方が!!」


「木に貼り付けられて気絶してただけの奴が

 訓練から逃げられると思ってんのか?」


「じゃあいっそ殺してぇぇぇぇぇ!!!!」


「殺すわけねえだろ。

 生かして地獄見せて強くすんだよ」


「言葉の暴力!!!」


 カレンが口を挟む。


「でも皆さん……今日はゆっくり休んでくださいね」


「カレン……それだけ聞くと天使……」


「特訓のために、明日分の“興奮剤”と“覚醒薬”用意しておきます!」


「悪魔だったァァァァァ!!!!」


「惣彩さんの筋肉、明日もっと触れるくらい回復するといいですね!」


「触る気満々じゃねえか!!!!」


アベルは僕の胸の黒い手形を見て、鼻を鳴らした。


「惣彩」


「はい……」


「これ……消えねえな?」


「えっ」


「たぶん“鍵としての印”だ。

 お前、もう逃げられねえぞ」


「え、やだ。怖い。無理」


「はっはっは。諦めろ」


 アベルは僕の頭を軽く殴りながら笑った。


「死ぬ気で生きろ。鍵」


「言い方ァァァァァ!!!!」


治療室には、

僕の絶叫と、ハッシュの泣き声と、

アレックスの静かなため息が混じり合い——

王都の日常(?)は今日も最悪のテンションで続くのだった。

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