表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能の烙印者〜異世界でなんやかんだ生きています〜  作者: 肯定羽田


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/28

第二十九話 敵

 夜のラノル王都は、昼とは別の顔をしていた。


 灯りはある。人もいる。酒場からは笑い声すら聞こえる。

 だが、そのすべてが薄い幕の向こう側にあるように感じられた。


「……ここまで来れば、ひとまず安全ね」


 テレッサが足を止め、周囲を確認する。


 裏路地の奥、使われなくなった倉庫。

 即席の避難場所としては、十分だった。


 アリシア王女は馬車を降り、静かに息を整える。


「ありがとう。皆さんがいなければ、私は――」


「その言葉は後でいいです、殿下」


 テレッサは遮った。


「今は、整理しましょう。何が起きているのかを」


 彼女の視線が、僕に向く。


「惣彩。あなた、気づいてるでしょう」


 胸の奥が、重くなる。


「……はい」


 気づきたくなかった。

 でも、もう無視できない。


◆◆◆


「今回の襲撃、雑すぎるのよ」


 テレッサは言った。


「数は多い。でも、決定打がない。

 王女を確実に仕留めるなら、あんな回りくどい真似はしない」


「陽動……ですか?」


「ええ。もしくは、確認」


 確認、という言葉が、頭に引っかかる。


 アリシアが、静かに問いかけた。


「何を、確認するのですか?」


 テレッサは一瞬だけ言葉を選び、答える。


「……“誰が、どこまで知っているか”」


 その瞬間、僕の中で何かが繋がった。


「……アベル」


 無意識に、名前がこぼれる。


 二人が、こちらを見る。


「グレイブが、標的を僕からアベルに変えたのは……偶然じゃない」


 喉が、ひどく乾いていた。


「アベルは……“鍵”じゃなかった。

 でも、僕の代わりに、試されたんだ」


 沈黙。


「彼は、強かった。

 戦力としても、人としても。

 だから……」


 言葉が、続かない。


 テレッサが、静かに補った。


「だから、殺された」


 断定だった。


◆◆◆


「……そんな……」


 アリシアの声が、震える。


「彼は、あなたを守っただけなのに……」


「違います、殿下」


 僕は首を振った。


「守ったのは……未来です」


 アベルは、何も知らなかった。


 それでも、前に出た。


 僕の代わりに。


「……あの人は、逃げなかった」


 だからこそ、意味がある。


 だからこそ――


「僕は、立ち止まれない」


◆◆◆


 倉庫の外で、微かな音がした。


 テレッサが即座に剣を抜く。


「……来たわね」


 現れたのは、黒衣の一人。


 フードを外し、顔を見せる。


 ――王都評議院の、あの宰相の側近だった男。


「安心してください。敵ではありません」


 男は、両手を上げる。


「むしろ……警告に来ました」


「警告?」


「ええ」


 彼は、僕を見た。


「あなたは、もう“対象外”です」


 心臓が、嫌な音を立てる。


「……やっぱり」


「ですが」


 男は、続けた。


「あなたの周囲にいる者は、違う」


 アリシア、テレッサ――

 そして、脳裏に浮かぶ一人の男。


「アベル・ハーランドの件は、計画外でした」


 その言葉に、血が沸騰する。


「計画外……?」


「彼は、“選ばれなかった”」


 淡々とした声。


「だから、切り捨てられた」


 その瞬間、風が倉庫を揺らした。


 僕の感情が、魔力に直結している。


「……言葉を、選べ」


 低い声が、自分のものだと分かるまで一瞬かかった。


 男は、肩をすくめる。


「事実です」


「――帰れ」


 これ以上聞けば、殺してしまう。


 男は一礼し、闇に消えた。


◆◆◆


 残された沈黙の中で、アリシアが言った。


「惣彩さん」


「はい」


「私は、引き返しません」


 迷いのない声。


「アベル殿の死を、無駄にしたくない」


 彼女の声が、少しだけ高くなる。


 戦場のそれだ。


「だから、進みます。

 この外遊を、終わらせます」


 テレッサが笑った。


「覚悟、決まったみたいね」


 僕は、拳を握る。


 鍵は、もうない。


 才能も、ない。


 それでも――


「……僕は、ここにいます」


 逃げない。


 次に狙われるのが誰であろうと。


 アベルが置いていったものを、踏みにじらせないために。


 夜の王都で、風が鳴った。


 嵐の前触れのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ