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無能の烙印者〜異世界でなんやかんだ生きています〜  作者: 肯定羽田


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第二十三話 標的変更

 王都に静けさが戻ったのは、夜が白みはじめた頃だった。


 死傷者の確認、建物の応急処置、避難した市民の誘導……

 そのどれもが終わらず、僕たちはろくに休まず動き続けていた。


 でも、胸の中が一番落ち着かない。


(“鍵”って……俺のことじゃなかったのか?

 じゃあ……何を狙って、奴らは王都を襲ったんだ?)


 答えのない疑問だけが、ずっと僕の頭を締め付けていた。


 日の出とともに、アベル団長、テレッサ、アレックス、そして僕を含む小隊は王城の一室に集められた。


 王女アリシアは外遊の準備で席を外している。

 代わりに王直属の参謀役たちが並んでいた。


「昨夜の襲撃集団は、各地で“鍵”を探しているグレイブの下部戦力であると判明した」


 参謀が書類を置きながら告げる。


「鍵が王都にあるという情報を掴み、陽動と破壊を目的に動いたようです」


 僕はアベルへ視線を向けた。


 でも、アベルは何も言わなかった。

 表情も、感情もない。

 まるで“興味さえない”みたいに。


 参謀は続けた。


「しかし、バルドらの戦闘記録を調べた結果――」


 紙が一枚、テーブルに広げられる。


「奴らが探していた“鍵”の反応は、昨夜の戦闘中に完全に消滅しました」


 ……“消滅”。


「どういうことですか?」

 僕が思わず尋ねる。


「文字通りだ。王家独自の探知術でも反応が取れない。

 つまり――」


 参謀は僕ではなく、アベルを見た。


「惣彩殿。あなたは鍵ではありませんでした」


 胸の奥がざわつく。

 安心した……はずなのに、なぜか肩の力が抜けない。


(じゃあ、何だったんだ……?

 僕を狙ったあの襲撃は……全部、勘違いで済むのか?)


 参謀は静かに続けた。


「鍵の反応が消滅した直後、グレイブ側は動きを完全に変えた。

 ――新たな標的を設定したらしい」


 その場の空気が一瞬で凍りついた。


 参謀は、ゆっくりと、名前を口にした。


「新たな標的は……アベル・レイズ団長です」


 …………。


(アベル……団長?)

(なんで……団長が!?)

(僕じゃなかったのか……?)


 混乱が頭をぶつかり合う。


 アレックスが椅子を蹴って立ち上がった。


「ふざけんなよ! 団長が鍵と何の関係がある!?」


「それが……分からないのです。

 しかし、グレイブは“鍵は消えた。だが本体はそちらにある”と通信に残している」


 僕はアベルを見る。


 アベルは――本当に、欠片の反応も見せなかった。


「アベル団長。何か、心当たりは……?」


 参謀の問いかけに、アベルは淡々と言った。


「ない」


 その一言で、議場はざわついた。


「しかし団長、これは――」

「本当に何も――」

「グレイブが狙う理由が――」


 全部、アベルは無視した。


「惣彩」


「……はい」


「外遊任務に出る。予定通りだ」


「……行くんですか? 団長を狙う連中がいるのに?」


「行く」


 まるで“どうでもいい”とでもいうような態度だった。


(これが……アベル団長の“普通”だ。

 だけど……)


 胸に不安が広がった。


「惣彩、ちょっと来い」


 会議後、アレックスが王城裏の訓練場に僕を連れ出した。


「……おまえ、どう思う」


「何が、ですか」


「団長が狙われてるってことだよ」


 アレックスの声には怒気が混ざっていた。


「惣彩、おまえ気づいてるだろ?

 団長は……“何か隠してる”って」


「……」


 本当は気づいてた。

 でも、言葉にするのが怖かった。


「今回の鍵の件だって、団長だけが一切動揺してない。

 嫌でも怪しいだろ」


「……でも、僕は……何も分からないんです」


 僕の声は震えていた。


(僕は……団長を疑うなんて、できない。

 だって団長は、アノルさんの時も、僕を守って――)


「惣彩。団長が“敵に狙われる理由”……それが何か、調べる必要がある。

 じゃねぇと、外遊任務は地獄になる」


「……僕に、できるでしょうか」


「おまえじゃなきゃできねぇよ」


 アレックスは笑いながら、僕の肩を叩いた。


「だって惣彩、おまえ……団長に一番懐かれてんじゃねえか」


「懐かれて……ますかね?」


「団長が人に興味持つのなんて珍しいんだよ。分かってねぇな」


 僕は一人、王城の魔術研究棟を訪れた。


 鍵の探知に使ったという魔導装置が、まだ稼働していた。


「探知結果を見たい? 君が?」

 老人研究員が目を丸くした。


「はい。……少しでも、理解したいんです」


 老人はため息をつきながら装置を起動した。


 浮かび上がった魔力反応は――


 完全な空白。

 何も、残っていない。


「……本当に、消えてるんだ」


「そうだ。昨夜の戦闘中、突然消えた。

 まるで存在そのものが初めからなかったように」


 その言葉が胸に深く刺さった。


(僕は……“鍵じゃなかった”。

 じゃあ、僕の肩にあったあの黒紋は?

 アノル副団長が言い残した“守れ”の意味は?)


 全部――消えた?


 翌朝。

 アリシア王女の馬車を中心にした外遊隊列が、王都門に整列した。


「惣彩、荷物は積んだか?」

「はい、ハッシュさんも!」


 ハッシュは疲れた顔をしていたが、それでも笑っていた。


 僕は列の前方に立つアベルを見た。


 風が吹いて外套が揺れる。

 背中は相変わらずまっすぐで、揺らがない。


(この人は……何を抱えてるんだろう)


 アベルが、ふっとこちらを見る。


「行くぞ、惣彩」


「……はい!」


 僕は走って彼の隣へ向かおうとした――その瞬間。


 胸の奥が、ひどく冷たくなった。


(なん……だ……?)


 耳の奥で、かすかに声がした。


 ――“鍵は消えた。だが、本体はそこにいる”――


 グレイブの通信記録。


 その“本体”とは――


(アベル団長……?)


 僕の背に汗が流れる。

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