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無能の烙印者〜異世界でなんやかんだ生きています〜  作者: 肯定羽田


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第二話 ローズ騎士団の闇

 ――人生、終わったかもしれない。


 そんな絶望的な予感を、異世界に来て一時間で味わう羽目になるとは思わなかった。


 草丈惣彩、十八歳。

 異世界転移者。

 スキルなし。魔力なし。才能なし。

 おまけに、ついでのように“無能”の烙印まで押されて、気づけば僕は城壁の上に立っていた。


「……ここが、ローズ騎士団?」


 目の前に広がるのは、巨大な訓練場。

 剣の抜き打ち音が鳴り響き、団員たちが炎のような魔力を撒き散らしながら稽古している。

 なのに、その誰もが暗い。

 いや、暗いなんてもんじゃない。怯えている。


 ひそひそ声が耳に刺さった。


「あれが噂の“転移者”か……今日の生贄か?」


「可哀想に。」


「いや、最短記録は一時間で手首落とされた新人……」


 無理だ。帰りたい。まだ半分夢でした、って言ってほしい。


「惣彩、と言ったか」


 背後から低い声が落ちてきた。


 振り返ると――

 そこには、一人の青年。十九歳とは思えぬ圧を背負い、黒い軍服の裾が風に揺れていた。


 アベル・サディス。

 ローズ騎士団団長にして、史上最年少の魔剣士。

 そして“冷酷無慈悲のサディスト”の噂がつきまとう男。


「……お、お手柔らかにお願いします」


「お手柔らかに、だと?」


 淡々とした声だ。感情の起伏がない。

 どちらかというと、虫をつまむような目で僕を見ている。


「一つだけ教えておく」


 アベルは腰の魔剣を軽く引き抜いた。

 刀身が空気を割り、薄い赤の魔力がにじむ。


「役に立たなければ、殺す」


「開 幕 早 々 死 刑 宣 告 !?」


 僕は全力で後ずさった。

 団員たちが小声で「合掌……」と祈り始める。


「安心しろ。

 無能に期待してはいない」


「その言い方やめて!?」


 アベルの目は微動だにしない。

 本気で無能だと思われている。僕、今すでに涙出そう。


「では惣彩。技量の確認をする。――動け」


「なになに、どういう意味? なにを――」


 ひゅっ。


 耳元を何かが“通り抜けた”。

 風の刃――じゃない。


 投げナイフ。


「うわあああああああああッ!?」


「十本投げる。全部避けろ」


「待って待って待って団長!? 訓練ってもっと優しく段階踏むやつじゃ――」


 二本目が飛んだ。


 三本目は地面すれすれを滑るように投げられ、


四本目は僕の髪の毛を一本切り落とす精密さで


五本目は空中で“曲がった”。


「曲がった!? 投げナイフって曲がらないでしょ普通!!」


「魔剣士を舐めるな」


 アベルは投げながらも平然としている。

 僕は必死で転がり、跳び、地面に縋りつき、泣き叫ぶ。


「死ぬって! これ避ける前提の速さじゃないって!!」


 団員たちは震えながら、しかしどこか同情の目を向けてきた。


「頑張れ……新人……!」


「ここで生き残れば国民栄誉賞もらえるぞ……!」


「励ましなの!? それ!?」


 六本目、七本目、八本目――

 アベルは完全に遊んでいる。いや、テストしているのか?


「ほう。お前、意外と動けるな」


「ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!」


「九本目」


 最後の一本が迫る。

 体が反射で動き、僕は真横へ飛び込んだ。


 ナイフは僕の頬をかすめ、地面に刺さる。


 息も絶え絶えに地面を転げる僕を見て、アベルは静かに剣を収めた。


「……まあ、死ななかっただけマシだ。合格だ」


「どっちかっていうと“生存者”みたいな扱いなんだけど!?」


 アベルは僕の前に歩み寄り、淡々と言った。


「ローズ騎士団へようこそ。

 お前が死ぬのは、もう少し先だ」


「もっと優しい歓迎の仕方あったでしょ!?」


 団員たちは戦慄しながらも拍手した。


「新人が……生き残ったぞ……!」


「奇跡だ……!」


「もう無理ギブ」


 そのとき。


 アベルの目が僕の胸元の“転移者の紋章”に止まった。


「……異世界の者よ」


「は、はい!?」


「お前には、“あの魔災”を討つ義務がある」


 アベルの背後。

 遠くの地平線に、黒い霧が立ちのぼっていた。


 その霧の中で、何かが蠢いている。


 団員の顔色が、一斉に変わった。


「あれは……魔災だ!」


「初日で魔災討伐同行!? 殺す気か団長!」


 アベルは冷酷な声で言い放つ。


「惣彩。これは、命令形ださっさとついてこい!」


「横暴だ!!」


 こうして僕は――

 異世界に来てまだ一日目だというのに、


世界最悪の騎士団と共に“魔災”の現場へ向かうことになった。

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