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無能の烙印者〜異世界でなんやかんだ生きています〜  作者: 肯定羽田


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第二十話 大炎上

 王都に戻ったその日、空はどこまでも澄み渡っていた。

 けれど、その静けさはほんの前触れでしかなかった。


 昼過ぎ。王城南門付近――僕は騎士団詰所で、テレッサの片付けを手伝っていた。

 その背後で、アリシアが静かに紅茶を飲んでいる。


「惣彩、その箱は逆よ。ほら、留め具が下」


「ありがとう。こういうの慣れなくて……」


 アリシアは苦笑しながらも優しく指摘してくれる。普段の彼女は本当に上品で、誰より気遣いの人だ。


 ――だが。


 突然、地鳴りのような振動が城下に響いた。


 ガラガラガラッ!

 窓硝子が揺れ、床が震える。


「っ……何だ!?」


 すぐさま詰所外の通路から、叫び声が飛び込んできた。


「王都南区で大爆発! 城壁が……破られたぞ!!」


 騎士が転がり込むようにして報告する。

 空気が一瞬で変わった。


「王都襲撃の可能性が高いわね……!」


 テレッサが剣を抜き放つ。

 アリシアも立ち上がったが、詰所の騎士が制止した。


「王女殿下は避難を! 戦闘区域への同行は――」


「いいえ。私はここで状況を把握します。惣彩、ハッシュ、テレッサ、あなたたちは南区へ向かって」


 アリシアの声は凛としていたが、まだ普段の穏やかな声のままだ。


「アリシア様……! わかりました!」


 僕らは詰所から飛び出した。


 外に出た瞬間、鼻を突く焦げ臭さと、吹き荒れる熱風に息を呑む。

 遠くに見える南区の街並みから、黒煙が上がっていた。


「……まさか、本当に城壁が破られたのかよ」


 ハッシュが奥歯を噛む。


 そのとき、耳に届いた――

 鋭く、刺すような金属音。


 キィィィンッ!!


 街角を曲がると、黒い甲冑を纏った何者かが、騎士を弾き飛ばしていた。


 全身を鎧で包んだ異形の兵。胸部に刻まれた“赤い爪痕”の紋章――


「……《赤爪グレイブ》……!!」


 テレッサの瞳が細くなる。


 赤爪。

 隣国ラノル王国の裏社会でさえ警戒する、凶悪な戦闘集団の紋章だ。


「なんで王都に……?」


 僕が呆然と呟いた瞬間、鎧の男がこちらへゆっくり顔を向けた。

 その動きだけで、空気が重く沈む。まるで大気が圧縮されたみたいだ。


「惣彩、下がって。あれは普通の賊じゃない」


 テレッサが前に出る。

 しかしその時――


 ズドォォォンッ!!


 南区のさらに奥から、巨大な衝撃音が響いた。

 地面が揺れ、瓦礫が舞い上がる。


「……っ、何が起きてるんだよ……!」


「……たぶん、主力が動いてる。赤爪の……“幹部級”だ」


 テレッサの声が低い。


 その不安を押しつぶすように、遠方で轟音が重ねて鳴り響いた。


 ドォォォンッ! ドォンッ!!


 火柱が立ち上がるのが見えた。

 街区の一角が、まるごと吹き飛んだような……そんな光景だった。


「くそっ……テレッサ、ここの敵は任せて南区の中心へ行こう!」


 僕が叫んだその瞬間だ。


 ――風が裂けた。


 誰よりも速く、鋭く。

 その風の主が、煙の向こうから飛び出してきた。


 黒の外套を翻し、片手剣を携えた壮年の男。

 蒼い魔力を纏い、周囲の熱を切り裂くような鋭い眼光。


「遅れて悪いな、惣彩!!」


「アベルさん……!!」


 王国騎士団副団長、《蒼き獅子》アベル。

 王都が危機に陥れば、必ず駆けつける男だと聞いていた。


 その姿は、まさに英雄だった。


「敵は赤爪! 王都中心街に“破砕槌クラッシャー”が現れた。テレッサ、お前はそいつに向かえ!」


「了解……!」


 テレッサの表情が引き締まる。


 アベルは僕に向き直った。


「惣彩、お前は俺と来い。ハッシュは援護に回れ!」


「はい!!」


 騎士たちが陥落し始めている街へ、アベルは迷いなく飛び込んでいく。

 その背中は、王国を支える盾のようで――


 だけど僕は知らなかった。

 その英雄が、今日この戦いを最後に……

 帰ってこなくなるということを。


 燃え上がる王都へ、僕たちは走り出した。

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