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【第一章】─邂逅─ (2)


 できるだけ足音を立てないように、少しずつ足を動かす。路地裏の深くへと進む度に暗闇の濃さは増していった。まるで己の身体が闇と同化するような感覚を覚え、気が付くと立ち止まってしまっていた。

 足下を見ると、ところどころ削れヒビの入った石畳に、腐敗した食べ物のカスや紙屑などのゴミが散乱している。少女は気持ちを落ち着ける為にゆっくりと息を吐いた。


「誰?」


 静寂な闇の中、唐突にその声は響いた。少女の身体がびくりと跳ねる。もう遅いと理解していながらも、思わず両手で口元を押さえ、気配を殺すように息を止めた。


「悪いけど、今更気配を消そうとしても遅いよ」


 声は前方から聞こえて来るようだった。凛としていて、高すぎず低すぎないその声は、少年とも少女とも取れる。どうやらこちらの動きは分かってしまっているらしく、少女は諦めて前へと歩み出た。


 人の気配のするところまで進むと、暗い中でもその輪郭が見えてくる。徐々に目が闇に慣れ、ベールが剥がされるように「それ」が見えた。


 少年が、静かに佇んでいた。少し癖のある淡い栗色の髪。背丈は少女より手のひら一つ分高い。とても綺麗な顔立ちをしていた。

 そしてその足下に転がっている、何か。そう、それは、多分、――人だったもの。闇の中でもよく分かる。血だまりと共に横たわるそれは、紛れもない「死体」だった。


「あ、」


 声にならない声が、少女の喉から漏れた。思わず後ずさろうとするが、脚は震え、上手く言う事を聞かない。


「死体、見るの初めて?」

 少年は今日の天気を聞くくらいの声色で少女に問う。よく見るとその全身に赤黒い液体がこびり付いている。手には鋭利なナイフが握られていた。

「こんなところにいれば、死体の一つや二つ、どうと言う事は無いはずだけど」

 そんな事をさも当たり前のように言われ、少女は少しばかり困惑しながらも、もう一度転がっているそれに目を向ける。


 うつ伏せのまま微動だにしない身体。顔はよく見えない。そして、血だ。暗闇の中で黒々として見えるその液体。少女はそれを見た事がある。知っている。命とは突然に、そしていとも簡単にこぼれ落ちるのだ。

 小さくて白い、ふわふわとしたものを思い出す。そう、あれも突然動かなくなってしまった。前日まで自由に羽ばたいていたのに。奪われてしまった。わたしのせいで。小さな赤黒い液体が広がっていて、その中心にそれは横たわっていた。


「ねえ、聞いてる?」


 少年の涼しげな声に少女の意識が引き戻された。そうして思い出す。今大事なのは、己の目的の事――。

「この死体、あなたがやったの?」

 どうにか絞り出した声は、少しだけ震えてしまった。

「君はどう思う?」

 答えになってはいないが、状況から見てもこの少年がした事に間違いないと思った。少年は手の中でナイフをくるくると回し遊ばせていて、扱いに慣れているように見えた。その様子に、昔読んだ本の登場人物を思い出す。命を狩る事を生業とする、その人。


「あなた、殺し屋さんでしょう?」


 少女の言葉に、少年は探るように目を細める。


「どうかな。もしそうだったらどうするの?」


 少年の言葉はどれもふわふわと宙を浮いていて、確信が得られない。それでも、これは少女にとって賭けであり、希望であり、それを逃そうとは思えなかった。


 この陰惨な場に似つかわしくない、綺麗な少年。まるで少年の立つ場所だけ周りから切り取られたような、そんな感覚に陥る。

 この少年ならば。この美しい人ならば、少女は己の目的を委ねても良いと、むしろ委ねたいと、そう強く思った。



 意を決して、目の前の少年を見据える。


「依頼をするわ。――私を殺して」




ようやく物語が動き出しました!

今のところ情景が真っ暗なまま進んでおります。

そろそろお日様に当たりたいところですが、日向ぼっこができるのはもう少し先になりそうです。

次回、今度はあの人が突拍子も無いことを言い出します(^^)

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