【第一章】─邂逅─ (1)
ずっと動かし続けていた両の脚はとうとう言う事を聞かなくなり、少女は細い路地裏の手前で立ち止まっていた。急な停止に身体は追いつかず、ゴツゴツとした冷たい石畳に膝をつきかけるが、どうにか持ち堪える。裸足のまま走り続けていたせいで、足の裏は細かい切り傷がいくつもできていたが、幸い初冬の空気はキンと冷えていて感覚は鈍い。
しばし荒い呼吸を繰り返し、大きく、ゆっくり、吸って吐いてを意識する内、ようやく呼吸が落ち着いてきた。
目的地を定める訳でもなくひたすらに走り続けた結果、少女はいま自分がどこにいるのかさっぱり分からなくなっていた。家からかなり離れたとは思うが、何せあまりにも外の世界に疎く、何の見当も付かない。
恐らく家の者達にはまだ気付かれていないだろう。運が良ければこのまま夜が明けるまで気付かれないままかもしれない。もう少しだけ距離を取って、そして己の目的を達成させたいところだった。しかし、体力の乏しいその身体は再び動かされることを強く拒否していた。
「(少し歩こうかしら)」
少女はゆっくりと脚を動かし始める。夜の冷たい空気を肌で感じながら、狭く暗い路地裏に入り込んだ。普段であれば、恐怖が勝ってこんな場所に入ることなどできなかっただろうと思う。しかし、今の少女には恐れなどといった感情は持ち合わせていなかった。
「(あそこに戻ることより怖いことなんて無いわ)」
そう。それよりも恐れることなど、何もない。誰にも見張られず、何も言われることもなく、怒鳴られ暴力を振るわれることもなく。こうやってたった一人で歩けることは、少女にとってむしろ喜ばしいことなのだ。
疲労が蓄積した身体は重く、もう限界に近いはずにも関わらず少女の足取りは軽い。夜の闇に負けじと輝くホワイトブロンドの髪をなびかせながら、先の見えない暗闇の中を悠々と進んで行った。
路地裏の入り口近くはまだ淡い明るさがあったものの、先に進むにつれて足元さえもよく見えないほどに暗くなっていく。それでも動きを止めることなく進んでいると、少女の耳にくぐもった小さな音が入り込んできた気がした。
「(気のせい?でも……)」
正体の分からないそれに、眠っていた恐怖心が少しすつ呼び起こされる。しかし、14歳になったばかりの少女には、恐れよりも好奇心の方が勝った。その音の正体を確かめようと心に決め、恐る恐る一歩を踏み出した。
未だに先を進んでるだけの主人公(笑)
挙げ句の果てに迷子です。不憫。
次回は新キャラ登場です。ようやく物語も動き出します!