第83話 女商人は、お姫様に変身する
「うそ……これがわたし?」
鏡に映るその姿を見て、アリアは声を漏らした。身に着けているドレスや宝飾品も見事であるが、プロのメイクのすばらしさ。まるで、お姫様を見ているようだ。
「よくお似合いですわぁ!!ささ、早く彼氏に見せてあげないと」
急な依頼にもかかわらず、きちんとコーディネートをしてくれたドレス専門店の店員が感嘆の声を上げて、クリスが待つ部屋へと促す。
(彼氏じゃないんだけど……)
そう思いながらも、ドキドキしながら、クリスの感想を待つ。折角なら、褒めてもらいたい、そう思って。
「よくお似合いですよ。王女殿下」
アリアの姿を見て、クリスはそう言った。王女殿下とはまた大仰な褒め言葉であるが、その口調からすると特に驚いた様子はない。
「ありがとうございます……」
そのため、アリアも一応はお礼を言ったが、やっぱり自分にはこんな格好は無理があるんだなぁ、と勝手に思うのだった。
「ところで、こんな格好をさせて、どこに行くんですか?」
店から出てすぐ、アリアはクリスに訊ねた。目の前には、馬車が止まっている。こんな格好にさせられたのだから、次はこれに乗るんだろうな、と何となく予想がついた。
「それについては、中で説明します。さあ、乗って」
馬車の扉を開いて、エスコートした。
(……ホント、どうみてもかっこいい紳士にしか見えないわねぇ)
アリアはそう思いながら、言われるままに馬車に乗り込むのだった。
「実は、これからカジノ店に向かいます」
馬車が動き出して、クリスはようやく行き先を告げた。
「カジノ店?」
アリアは行ったことないが、お金を賭けて、勝った、負けただのいうギャンブルをする場所であることは知っている。
「でも、わからないわ。そのお店なら、クリスさん一人でも行けるのでは?わたしが同行する必要って……」
「アリアさんの言う通り、一人で入店することも可能ですが……それだと、目立ちすぎるのです。アリアさんは、そんなお店に一人で来る人ってどんな人だと思いますか?」
クリスの質問に、行ったことないからわからないと思いながらも、考えてみる。ギャンブルをしていた人間は、ルクレティアにいたときに何人か知っているので、あてはめて考えてみると……
「一人で来るっていう人は、お金がどうしてもいる人……」
「……あるいは、別の目的がある人」
「あっ……」
そこまで言われて、アリアは気づく。
「つまり、クリスさんがカジノ店に行くのは、注目されてはまずい何か別の目的で行くのね?この格好のわたしが一緒なら、お金持ちのカップルが少し遊びに来たって見られるから、その間に目的を達成しようと……」
アリアは導き出された持論を告げた。クリスの顔が笑った。どうやら正解のようだ。
「ん?」
馬車は相変わらず進んでいるが、不意に窓を見たアリアの視線の先に、通りの歩道を歩くレオナルドたちの姿があった。
(やばっ!!隠れないと!!)
アリアは慌てて窓から離れようとした……が、真横にはクリスが乗っていて身動きが取れない。そして、どうしようと思っているうちに、すぐ傍に差し掛かり、不意に目と目があった。
(あちゃぁ~!)
アリアは、思わず頭を抱えそうになる。そこで、もう手遅れだと思い、一先ず笑顔で手を振ってみた。すると、レオナルドも手を振って返してきた。
「どうかしましたか?」
隣からクリスが尋ねてきた。その瞬間、馬車はレオナルドの前を通り過ぎていった。
「なんでもありませんわ」
アリアはそう答えた。そう言いながらも、確実にバレたと確信して頭を抱えるのだった。




