第82話 女商人は、デートに誘われる
「ところで、アリアさん。今日はこのあとお時間ありますか?」
「へっ!?」
いわゆる、デートのお誘い。
手紙を出し終えて、郵便局から出たところで、クリスから突然誘われて、アリアは思わず声を上げる。
「で……でも、わたしには婚約者が……」
「……?それがどうかしたのですか?」
「どうかしたのですかって……」
(それじゃあ、完全に浮気のお誘いじゃないっ!!)
いくら相手がイケメンであっても、それはさすがにまずい。ゆえに、アリアは断ろうとした。すると、クリスが突然笑いだす。
「ど……どうしたんですか?」
「いや……やっぱり、中々、気づかれないものだな……と思いましてね。勘が鋭そうなあなたなら、あるいはと思ったのですが」
そう言って、クリスはアリアの手を取り、自身の股間に押し当てる。その行為に戸惑うアリア。裸の男は以前の開拓村で見慣れているから免疫はあるが、直接アレを触ったのは、勇者とレオナルドくらいしかないのだ。
「ちょ……だめよ!!白昼堂々とこんなこ…と……って、あれ?ない?」
アリアは、触るだけじゃなく、何度かパンパンと叩きもする。しかし、見当たらない。男なら必ずあるアレが……。
「もしかして……クリスさんって……女?」
アリアは、信じられないような表情で、恐る恐る尋ねると……
「ふふ……ご明答♪」
……とクリスが返してきた。
「えぇーー!!!!」
アリアは驚きのあまり、大きな声で叫んだ。
「どうして!?なんで女の人なのに男の格好を?おっぱいは?おっぱいはどこに隠したのよ!!」
「あの……一応、極秘のお話なので、声を潜めていただけると……」
「あっ……ごめんなさい」
そう言いながら、周囲を見渡す。一斉に護衛についていた者たちが顔を逸らした。どうやら、バッチリと聞かれてしまったようだ。
「大丈夫ですよ。あの人たちは、会頭の手の者ですから、精々、自分の主に報告するだけなので問題ありません。彼にならば、別に知られても構いませんし……」
相変わらずの爽やかな笑顔で、クリスはそう言った。
「さて、わたしの正体を明かしたんですから、そろそろ本題を。実は、あなたに少し協力してもらいたいことがありまして……」
「協力?」
「はい。要するに、とある場所に入りたいのですが、その場所にパートナー役として同行してもらいたいのです」
さらっと、簡単そうに告げるクリス。何かヤバいことをすると薄々気づく。
「べ…べつに、わたしじゃなくてもいいのでは?」
ゆえに、断ろうとアリアはそう言ったが……
「いえ。あなたじゃないとダメなんです!!」
両手を覆うように握られて、真剣な眼差しで見つめられて、アリアは思わず「はい」と答えてしまった。
(……って、ダメじゃない、わたし。この人は女なのよ!!ドキドキして頷いちゃダメじゃない!!)
アリアは心の中でそう叫んだが、もう遅い。すでに承諾してしまったものをキャンセルすることは、自身の信条に反するため、余程のことではない限りできないのだ。
「それでは、ご理解いただけたようなので、行きましょうか」
クリスはそのままアリアの手を引き、町へと向かう。指を絡ませて、恋人繋ぎの状態で。
「ちょ…ちょっと……なぜ、恋人繋ぎなの?それに、どこにいくのよ?」
「まず、美容院に行ってから、それからドレスを買って……あっ、そうそう、宝飾店にも寄らないと……」
戸惑うアリアをよそに、クリスは楽しそうにこれからの予定を独り言のように呟く。予定を聞く限り、どうやらまずは『着せ替え人形』となるようだ。
(絶対、あとで誤解されるわね……)
なにせ、宿の近くなのに、多くの人の目に今でも止まっているのだ。
今更、後には引けないが、帰った後でどうレオナルドを宥めるか、頭を悩ませるアリアであった。




