表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女商人アリアは、置き去りにした外道勇者に復讐を誓う!  作者: 冬華
第3章 女商人は、悪総督を懲らしめる
100/495

第98話 塩商人は、夜の水路に命を散らす

 ポトスの某所——。


 フランシスコがオランジバークを訪ねていたころ、上流階級の人々が密会にも使う高級クラブの貴賓室にブラスはいた。


 もちろん、一人ではない。テーブルを挟んだ正面には、最近頭角を現しつつある新進気鋭のアルバネーゼ商会の若き会頭、カスト・アルバネーゼが座っている。


 もっとも、いくら頭角を現しつつあるといっても、このポトスで五指に入る塩商人であるブラスと比べれば、本来であれば及ぶべくもないはずだったのだが……


「へぇ……すると、カルボネラのヤツに、バレたんだな。それは、それは、困った話だねぇ……。あなたも大変だぁ」


「……ですので、何卒ご助力のほどを。なんでしたら、娘をあなた様の妻に……」


 それも、カルボネラ商会という後ろ盾があっての話……。今となっては、先日とは打って変わって、こうして目の前の若造に媚へつらって頼るしかないのだ。


 それでも、ブラスには援助を引き出せるという打算があった。なにせ、今回の作戦には、ブラスが持つ『アルカ帝国領における交易権』が欠かせないからだ。もし、ブラスが協力を拒めば、作戦は中止になるのだ。それは、この若造も本意ではないだろう。


 後ろに控える総督の怒りを買うのは目に見えているからだ。


(このまま終わってなるものか……)


 しがない雑貨屋の小倅から、ポトスで五指に入るほどの塩商人にのし上がったのだ。カルボネラには及ばないが、自分だって成功者だ。だから、ここから見返してやる。


 頭を下げながらもブラスは思った。しかし……


「はぁ……。まあ、それでも悪くはないんだけど……」


 ため息をつきながら、カストは手を二度、パンパンと叩く。


「おまえは……どうして、ここに……」


 不意に貴賓室の扉が開かれ、そこに立つ男を見て、ブラスは声を漏らす。すると、背後からカストの声が聞こえた。


「俺が欲しいのは、『アルカ帝国領における交易権』で、アンタじゃない。……ああ、安心したまえ。アンタのところのかわいいお嬢さんは、この番頭さんが嫁にしてくれるそうだから」


「えっ!?」


 耳を疑うような言葉に、ブラスは振り向こうとした。……が、その瞬間、頭に強烈な衝撃が走り、意識を消失させた。





「それで、その『かわいそうなブラス』はどうなったのだ?」


「閣下。あなたがそれを言いますか?すでに、警察長官に圧力をかけたくせに……」


 深夜の総督邸。カスト・アルバネーゼは、このポトスの総督を務めるジュリオ・リヴァルタ侯爵と酒を酌み交わしながらそう返した。


 なにせ、あの後、ブラスは哀れにも忠実な部下であったはずの番頭に、気を失ったまま水路に突き落とされて、溺死したのだ。


「カルボネラ商会に絶縁されたショックによる自殺……。外傷性はなし。ホント、警察っていい加減ですね。これは、うかうかと殺されるわけにはいかないようだ」


 テーブルの上に無造作に置かれていた報告書を手に取り、カストは笑った。


「ところで、本当にブラスがいなくなっても大丈夫なんだな?」


 ジュリオは、まじめな顔をしてカストに訊ねた。なにせ、これまで行ってきた人身売買に、ブラスは大きく貢献してきたのだ。番頭が代わりを務めるとカストは言うが、本当にできるのかと。


 しかし、そんな総督の心のざわめきを抑えるために、カストは言い切った。


「問題ありません。全てお任せください」


 もちろん、そう言いながらも、カスト自身も一抹も不安がないわけではない。だが、カルボネラに目をつけられたブラスを、このまま使う方がもっと危険なのだ。


(ここまできたら、もう降りるわけにはいかないのだ。あとは覚悟を決めるしかない。……もっと、もっと、大きくなるために)


 腹をくくって、手渡されたグラスに注がれた酒をあおる。そして、心に生じた迷いを飲み込むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ