第3章:仲間(3-2-1)
3-2-1 異空間
悠介は会場の入り口で1000円を払うと、丁度学校の教室ほどの広さの会場が視界に広がり、ハウスミュージックのようなベースの効いた大音量のBGMが鳴り響いている。
時刻は9時53分。
徐々に席が埋まり始め、皆が自分の荷物を席に置いて、思い思いの時間を過ごしており、気づけば人数は既に軽く30人を超えている。
ふとバニーに視線を移すと、周囲の人物たちと挨拶を交わしながら談笑している。
その光景を目にすると、悠介は謎の焦燥感に襲われ、しばらく影を潜めていた人見知りが発動し始めた。
周囲の人間は悠介に目もくれず、何をどうしていいか分からず右往左往していると、バニーが悠介に気付いて手招きしてくれている。
悠介がホッとしたように早歩きで駆け寄ると、マホは周囲の人々に悠介のことを紹介してくれた。
40代後半くらいと思しき初老の男性や、主婦の方、大学生風の方など、多種多様な人々が自己成長の為にこの勉強会に参加しているようだ。
ふと会場の隅に目をやると、3列くらいの短い列が出来ており、列の先には白Tではなく全身を黒で統一し、山高帽子を被った卓が座っていた。その瞬間に悠介の心は高鳴った。
(卓さんがいる...!!)
列に並ぶ面々は、順番がやってくると卓に親しげに挨拶を交わしていた。
すると悠介の視線に気付いたマホがそっと教えてくれた。
「あれはみんな卓さんに挨拶して自分をアピールしてるんですよ〜!卓さんも人間なので、愛弟子のことはとことん可愛がるから、ローマも卓さんと仲良くなったら一緒に飲みに行ったりできるし、きっとそこで成長に繋がるお話が聞けますよ。」
(なるほど。俺も遅れを取らないようにしないと...!)
自分も行動を起こさなければと思い、人見知りアラートを無理やり停止し、襟を正して列に並ぼうと歩き始めた。
「では時間になりますので皆様ご着席くださ〜〜〜い!!」
声の元を振り返ると、司会役と思しき眼鏡をかけた小太りの中年男性と、容姿端麗な30歳前後の女性がマイクを握り壇上に立っていた。
(あ、チャンスを逃してしまっった...。)
悠介は落胆しつつも気を取り直して着席することにした。
「どうも、毎度お馴染みマサタクです!」
「さーやんです!」
「いや〜今日もやってまいりましたね皆さん!」
「そうですね!ところでマサタクさんはまた順調に、お腹がポインポインに育ってきてますが大丈夫ですか?」
「いきなりなんですかあなた、失礼ですよ?最近たこ焼きにハマってつい食べすぎちゃってね、もう週12ペースで食べちゃってます。ところで皆さんはたこ焼きのトッピングは何派ですか?実は私は〜...」
>なんだぁ?漫談かぁ〜?ハハハ!<
二人の軽妙なやりとりに席からガヤが飛び、会場が笑いに包まれた。
「超ハイカロリーたこ焼きのせいでこんなお腹が出ちゃってますけどねマサタクさん。マサタクさんの会社の昨年の年商、いくらでしたっけ?」
「え〜と昨年は40億ですね。」
会場からはどよめきと拍手と歓声が入り混じったような音が沸き起こった。
(...え?...は?...40億ってなんだ...?)
「マサタクさんは卓さんの一人目のお弟子さんで、今や年商40億の会社のオーナーにまでなってます。もうこんな勉強会なんか来る必要もないのに、こうして初心を忘れず足を運ぶような人柄だからこそ、人がついてきて、気付いたらこんなに大規模な金額を扱えるようになったんですねきっと。」
「全く、出だしからポインポインとか、変な擬音で人のお腹のことディスるような人と、同じ人の言葉とは思えないですね!」
また会場がドッと笑いに包まれた。
「それでは皆さん、徐々に温まって来たところで、今日初めて参加されている方もいらっしゃるようですので、10分間、アイスブレイクとして近くの席の方と自己紹介して、3年後と5年後の夢・目標について共有してみましょう!」
一気に会場全体が人の声で騒がしくなり、悠介も多分にもれず隣の方と挨拶を交わすことにした。