第2章:優しい使徒(2-4)
2-4 導き
(この人清潔感半端ないな...。なんか...いいなぁ。)
悠介は改めて卓に自己紹介を行うと、自身のこれまでの苦悩や葛藤を打ち明けた。
すると卓は、経営者になるには、「期限」を決めて「ロードマップ」を描くこと、そして走り出しは主観を一切入れずに、先人の教えを盲信するのが成功への近道である事を説いた。
「そして、経営者への道を走り始めると”必ず”ドリームキラーと呼ばれる存在が現れます。それは両親や、親しい友達、職場の同僚など、身近な存在の人たちです。普通の人と違う道を歩もうとしているんだから、当然向かい風に襲われますよね。”時間の無駄だよ””そんなの無理だよ”って。本当に経営者を志すなら、ドリームキラーの声に耳を貸している余地はないんです。」
卓の一言一句を聞き洩らさないように、悠介がメモをとっていると、卓の部屋のインターホンが鳴り、卓は「失礼」と離席して廊下の方へ向かって行った。
ふと手元の時計を見ると、既に約束の30分が過ぎ去っていた。
「弟子にしてくださいってお願いしなくていいんですか?次、卓さんにいつお会いできるかわからないです。」
マホが耳元で囁いた。
(...そうだ。俺はここにただ悩み相談しにきたんじゃない。それじゃあまたいつもの日常が繰り返されるだけだ...。)
「ごめんごめん、次の予定が控えてまして、来客がエントランスに到着したみたいです。」
対応を終えた卓が戻ってくると、悠介は勇気をふり絞った。
「あ、あの、弟子にしてください。」
そう口にした瞬間、自分が自分でないような、自分に纏わりついていた殻が剥がれ落ちるような、奇妙でありつつも清々しい感覚に襲われた。
「...なんだか、学校で異性に告白された気分(笑)」
卓のその一言に、張り詰めた緊張が解きほぐされるかのように、その場が朗らかな空気に包まれた。
「僕も20代前半の苦しい時に師匠に出会ったことがきっかけで、今こうして経営者としてお弟子さんを抱えさせてもらっていますので、僕でよければぜひ一緒に理想を追い求めましょう。」
「経営者への第一歩として、ローマへのアドバイスはありますか?」
マホも”サポートする気満々”といった表情だ。
「そうですね、まずは継続力を養って欲しくて、1日1個、何でもいいのでその日の”気付き”を僕宛てに、ccにバニーを入れてメールしてください。僕たちはこれをホープメールと呼んでいます。」
「ホープメール...。わかりました!」
「それと、まずは一度”自力”でお金を稼いでみてください。今の職場から毎月支払われる給与とは別に、です。方法はいろいろあるんですが、そうですね...まずは何でもいいので”イベント”を企画してみるといいですね。どんなに小規模でもいいので、どうしたらお金を生み出せるのか考えてみてください。まずは60万円を”自力で”生み出してみましょう。」
「60万円を、自力で...。」
「期間は2ヶ月間。さっき言った”ロードマップ”というのは、この最初の目標に到達するための計画書だと思ってください。一歩ずつ着実に歩みを進めていけば、初手の目標達成はもちろん、数年後にはその”ロードマップ”の規模が、想像も付かない大きさになっているはずです。」
(想像もつかない規模...。ワクワクするなぁ...!)
「自力で生み出した60万円には大きな価値があります。最初の目標を達成したら、またここへ来てください。そこまで来たら、いよいよ本格的に学び始めるために”環境”を整える必要があり、それについてお話しします。」
「日常の空いた時間では自己研鑽のために僕から紹介する本を読んでいただき、1冊読み終わるごとに感想をメールしてください。」
「わかりました!」
時間を割いてくれた卓に一礼し、二人はマンションを後にした。帰路につく悠介の胸は期待と高揚感でいっぱいだった。
成功への道筋が見えた気がしたし、自分がタワーマンションに住んでいる光景までリアルに浮かんできていた。
(でも何故だろうか。過去の経験から、石橋を叩いて渡るはずの自分が、どんどん突き進んでしまっている。この感情は本当に自分のものなのか?)
「大変なのはここからです、ローマ、一緒に頑張っていきましょう!まずはロードマップからですね!」
「そうですね、やることを整理しないと(笑)」
「あ、そういえば、大崎に卓さんが経営している雑貨屋さんがあるんですけど、ちょっと寄っていきませんか?」
「なんと、それはぜひお願いします。」
マホに連れられ、悠介は卓の経営する店を訪れた。
「いらっしゃーい♪」
店頭には、茶髪のショートヘアにイヤリングを付けた、笑顔が印象的な女性が立っていた。
「彼女はシェリーっていうんですけど、卓さんの初期のお弟子さんで、今は店長として店を任されているんです。もちろん彼女の仕事はこのほかにもあるんですけどね!卓さんはここのほかに飲食店を2店舗経営していて、5月にもう1店舗、サプリメントやプロテインを扱う販売店をオープン予定です!」
「こんばんは♪シェリーです。」
「シェリーさん。こんばんは、ローマです。」
(すごいな卓さんは...。お店を複数立ち上げて、自分の代わりに店長を立てるなんて...。)
一販売員としての経験しかなかった悠介にとって、卓への憧れはますます膨らんでいった。
(それにしても、まだ19時過ぎだけど、お客さんが来る気配が全くないな。余計なお世話だろうが、お店はちゃんとまわっているのか...?)
「ローマの職場の同僚さんに何かお土産でも、いかがですか?」
「ハハ、そうですね!」
悠介はひとしきり店内を見て回ると、龍成にトカゲの形状を模したボールペンを購入してやることにした。