第4章:盲信(4-1)
4-1 修行
悠介は卓から課された“イベント企画”に取りかかった。男性陣の参加者集めにはLINEの一斉送信を活用し、女性陣はマホの協力を得ることにした。
予約は「パラリザ」を通し、マホから”キャッシュバック率が高い”という理由で推奨されたメキシコ料理店を予約した。
後日、モニター用のアンケートに答えることでキャッシュバックを受け取る算段となる。
独り身と思しき男性の友人に対し、LINEの一斉送信を行ったが意外と反応が薄い。
最終的に悠介を除いて参加できることになったのは、西条と、悠介の高校時代からの友人の”村井俊樹”と”伊達幸次郎”の3名のみだった。
(この規模じゃ大したキャッシュバックにならないな...。でも何も行動しないより100倍マシだ...!)
3月某日、”企画”の決行当日になると、滅多にない”合コン”へのお誘いが余程嬉しかったのか、息を巻いた男3人が恵比寿駅に集まった。
スマホを見ると、マホより女性参加者は遅れる旨の連絡がきていた。マホの他に2名の女性がきてくれることになっている。
一足先に入店した4人は、着席して他愛もない話に興じていた。
「お待たせ〜!」
マホに続いて入店してきた2名の女性は、黒髪ロングのふくよかな女性と、また”なんとも言い難い”風体の女性である。
「こ、コニチハ〜...!」
落胆のあまり、ムードメーカーの村井の挨拶がカタコトになってしまった。明らかにテンションが下がる男性陣の様子を尻目に、悠介は進行役に徹することにした。
合コンが無事に(?)終了し、悠介も少々酔いが回り始めていたが、モニターの件だけは漏れがないようにお店の人に確認を行った。
女性陣を見送った後、悠介は予想通りメンバーからの非難轟々を浴びる羽目になったが、頭の中は卓からの”ミッション”をこなすことで一杯だった。
「多少は盛り上がってたじゃない。どんなところがダメだったか教えてよ。」
皆からの非難に疲れ、悠介の方もいよいよイライラしながら問いただした。
「ダメも何も、”年上のお姉様”を連れてきちゃダメでしょって...。それだけの話よ...。」
西条が呆れ笑いのような、諦めたような顔をしながら言った。
「悪かったって。でも今までお前ら合コンなんて誰も企画したことなかっただろ?また次回は盛り上げられるように頑張るからさ!それに、これはイベントを企画するっていう修行なんだよね。どんどん規模を大きくしていこうと思ってるからさ、期待しててよ。」
「修行?」
伊達が不思議そうに聞き返した。
「あぁ。小遣い稼ぎみたいなもんだよ。」
悠介はごまかしつつ、内心では“ビジネスオーナーになるための修行”を本気で意識していた。
「へぇ〜なんか大変そうだけど、あんま無理すんなよ。」
伊達は昔から何に対しても慎重派だったため、悠介の口から出た”修行”という言葉が引っかかった。
しかし、同時に彼は学生時代、悠介が思いがけないアイデアで周囲を驚かせていたことを思い出し、「また何か面白いことでも考えているんだろう」と軽く受け流すことにした。
3月某日、悠介はマホが紹介してくれた転職エージェントと面談を行っていた。
「土日休みならなんでもいいんですけど、なるべく残業が少なくて、自由に余暇を過ごせる環境だとありがたいです。」
「わかりました、宮島さんに合う条件の案件を10個ほど探しておきますね。ところで宮島さん、先ほど、次の転職先はいずれ”ビジネスオーナー”になるための腰掛けと仰ってましたけど、何か具体的に描かれている事業がおありなんでしょうか?」
「事業内容ですかぁ。いえ、現時点では特にないですね。」
「...そうですか。宮島さん、将来のビジョンを描くのは素敵なことですが、世の中には怪しい輩もたくさん居るので、色々と気をつけてくださいね。」
「ん?何を気をつけるんですか?」
「いえ、失礼しました。ちょっとした老婆心です。」
(...?一体何に気をつけるんだ...?まあいいや。この人はサラリーマンだろうし、変わり映えの無い日常に辟易してるけど何も行動してなくて、きっと、普通じゃない道を歩もうとしている俺が羨ましいんだ。そんなことより、ようやく転職活動も軌道に乗ってきたし、さっさと転職して自己投資に励む環境を用意しなきゃ。)