1 魔幼女メアリーと呼ばれて
☆☆☆貴族学園
王太子の婚約者の座を巡ってミレーヌは学園内で派閥を作ろうと奔走していた。
前の婚約者選定の儀では引き分け。しかし、メアリーと言う強力な人材がイザベラの元に行き。有り体に言えば焦っていた。
学園では中立派の気弱な令嬢をターゲットにしている。
大勢の取り巻きたちに令嬢二人を包囲させて、自らは後ろに位置し優雅に扇で口元を隠して微笑んでいた。
ミレーヌは金髪碧眼、垂れ目の容姿。髪を肩まで落とし。優しそうな雰囲気を醸し出していたが、取り巻き達は違う。
既にミレーヌの下での序列争いが勃発していたのだ。必死に説得をしていた。
「ちょっと、こちらはグレーヌ伯爵令嬢ミレーヌ様よ」
「早く貴女たちも派閥に入りなさい」
「ミレーヌ様のサロンに入れるわよ」
「しかし、お父様に聞かなければ・・」
「そうですわ」
「もう、クダクダと、ミレーヌ様が王太子妃になられたら褒めてもらえるわよ!」
「定員は限られているのよ!今、ミレーヌ様のご学友になったら金貨五枚差し上げますわ!」
「さっさとミレーヌ様にご挨拶をしなさい!」
「でも、同じ学年で私も伯爵家ですわ」
「そうです。ヘレン様はワーキリア伯爵家ですわ。理不尽も過ぎます」
その時、背後からメアリーがミレーヌに声を掛けた。ベッキーと一緒である。
「ミレーヌ!やめるの~!オルグみたいなの~」
「はあ、オルグ?あんた、裏切り者メアリー!何故、学園にいるのよ!」
ミレーヌは一瞬たじろいだが、すぐに扇で口元を隠し平静を装った。
・・・ミレーヌはやっぱり派閥を作っていたか。
私が見る限りこの貴族学園、親の爵位、派閥、学年、成績が複雑に絡み合い秩序がグチャグチャだな。
とメアリーは算段する。
「「「ヒィ」」」
「魔幼女!ミレーヌ様!」
「皆様、落ち着いて下さいませ。たかが幼女ですわ」
想定外だ。何故、メアリーが学園にいるのか。どうせ潜り込んだに違いない。
そこを責めよう。とミレーヌは思った。
「メアリー、何故、ここにいるの?許可を受けた者と随行員以外は入れないのよ。学園騎士を呼びグリケル公爵家に抗議しますわ」
しかし、メアリーは正式に許可を受けて入ったのだ。
「フヌー!メアリーはワエキラエ王国貴族学園庶務課付教務課出向数学科教師見習候補なの~!」
と腕章と身分証を兼ねるペンダントを見せた。
「はあ?貴女が?」
「そうなの~!護衛騎士を呼ぶの~」
理解が追いつかない。ミレーヌはメアリーの数学の出来を知らない。
「フン!どうせ嘘よ。庶務課に問い合わせるわ」
と強がりをいい。スカートの裾をあげて足早にこの場を去った。
「フヌ!ベッキー、イザベラお義姉様の所に行くの~」
「はい、メアリー様」
「あのお待ち下さい。伯爵令嬢ヘレンと」
「子爵家のマーリエと申します」
二人はメアリーに相談を持ちかけた。
「実は、私たち弱小家門でして・・・いつも、こんな風に絡まれます」
「どうしたらメアリー様のようにふてぶてしく・・・申し訳ありません!」
フヌー!
「メアリーは公式9歳なの~」
「「ヒィ」」
気弱そうな令嬢だな。
まあ、良い。
「なら、ついてくるの~!」
学園の庭には立ち入り出来る芝生がある。
中央に大きな木がある。
そこで太極拳を教えよう。
「メアリーの動作を真似るの!」
「何でしょうか?」
「メアリーみたいに美しく賢くなる方法なの~!」
半信半疑で令嬢たちはやり始めた。
「ベッキーもやるの~」
「はいなのです」
わたしゃ、息子と娘が独り立ちをしたときに、趣味講座に通った。
市が大々的に再開発した商業ビルに教室がある。
しかし、閑古鳥が鳴いていた。
☆☆☆回想
最近、何か運動不足だ。ゆっくり出来る運動はないかとビルに訪れたら、ほとんど閉鎖されていた。
何か運動できそうな大きな鏡のある部屋があった。
エクササイズ出来るのか?
しかし、中にいたのは老人だった。
中国の人だった。
「あいやー!ママさん。見学かネ!」
「はい、ここは何ですか?」
「私は陳です。太極拳を中心にやるネ!ママさん。もっと美人になれるネ」
「あら、更に美人?」
たった一人だったが、大きな鏡の前で教わった。
「ママさん筋が良いネー!」
「まあ、そうかしら」
・・・・・・
「皆!筋がいいの~!」
「「「はい」」
褒める褒める。
「トンジャオ!」
これは太極拳の蹴りだ。
ヘレンが転んだ。
「キャア!」
「自分で立つの!手助け不要なの~!」
「ここで気合いなの~!」
「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」
中には馬鹿にする男子がいた。
「何だ。あれは、出来損ないのダンスだ!プ~クスクスー」
「なの~!」
「ウワー!魔幼女メアリーだ!棒を振り回して向かって来る!」
「何であんな小さいのに、身長の二倍以上の棒を操っているのだよ!」
棍で撃退した。
「あの、メアリー様、私達も入れて下さい」
「いいの~、メアリーの動作を真似るの~」
人が集まる。
ヘレンもマーリエ、ベッキーも見られていくうちに段々と綺麗になってきた。
女は見られて美しくなるのだ。
太極拳の深い呼吸を伴うゆっくりした動作で、新陳代謝が促進され、ベッキーもニキビがなくなってきた。
「気合いなの~!」
「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」
あれ、段々、増えてきた。
「魔道科のニッキーです。メアリー様、この動作をしていたら、魔力が増大してきましたわ。有難うございます!」
「そうなの~!」
どうでも良いわ。
ベッキーとヘレン、マーリエを師範代にして、私は数学科に行く。
ここでは覚えている公式の提供を求められる。
この世界は、まだ、三次方程式の解の法則はない。
しかし、幾何学は地球の中世と同じだ。微分積分の概念はある。
「ほお、先生、この公式はどうやって、出てきましたか?」
塾講師のパートで覚えた何て言えない。
「幼女の秘密なの~!賢者先生は自分の流派の秘密を言えるの~?」
「「「失礼しました」」」
やがて、女神教会から使者が来て鑑定を受けた。
何かギフトがあると思われているらしい。
「なし・・・何もないだと!魔法も生活魔法、魔力はやや上・・程度」
「メアリーなの~」
やがて、魔道科からも太極拳を取り入れたいと打診が来た。
ニッキーで良いだろう。
「え、ニッキー自信がないの~?」
「はい、初めはオリジナルに手本を示してもらいたいですわ」
役職名が増えた。
「ワエキラエ王国貴族学園庶務課付教務課出向数学科教師見習候補及び魔道科アドバイザーに任命する!」
「はいなの~」
更に、
「槍の練習をするの~!長い槍を使って体のバランスを保つ訓練なの~!丹田を意識出来るの~」
「「「「「はい!」」」」
「バージージュアンなの~!」
陳先生は言っていたな。
☆☆☆回想
『日本人は八極拳好きだから朋友から学んだネ。これは本格的ではないネ、だけど覚えておくとママさん更に人気者になるネ』
『まあ、更に困るわ~』
あの時はだいたい四メートルくらいの長さだったからこの世界の職人に作ってもらった。
ただの棒だ。
一方、グフタフ王子はこの学園併設のアカデミーの学生である。メアリーの行動は報告された。
王太子はメアリーの動作を見て、一目で体系化されたナニカだと推測した。
・・・おい、何だ。あの幼女長槍を使っての訓練をやっているのか?
長槍兵の訓練に使えないか?
騎兵から歩兵に戦闘の主力は変わりつつある。あの幼女、軍事も分かるのか?
「「「「王太子殿下!」」」」
「ハニャ!」
訓練中、王太子殿下が訪れやがった。
しかし、
「続けてくれ。訓練が終わるまで見学させてもらう」
「「「「はい」」」
「光栄ですわ」
訓練が終わるまで待つと言う。
こいつ、何をする気だ?
終わったら、さすがに礼をした。
「王太子殿下にご挨拶をするの~!」
「メアリー殿、是非、この技を軍部に伝授してくれ、まずは教導隊で研究する」
「はいなの~!」
そして、私の肩書きは。
☆☆☆王国軍長槍部隊駐屯地
「ワエキラエ王国貴族学園庶務課付教務課出向数学科教師見習候補及び魔道科アドバイザー並びに軍部教官補佐見習のメアリーなの~!」
「「「「宜しくお願いします」」」」
何だ。目的がズレていないか?そう言えば、婚約者選定の儀はいつだ?イザベラお義姉様に会っていない・・・・しまった!
・・・・・・・・・
しばらくして、ミレーヌたちががヘレン、マーリエに接触した。
大勢の取り巻きを連れている。
「ヘレン様、マーリエ様、メアリーの派閥に入ったのね。内通してくれないかしら」
「ミレーヌ様、断ります。そもそも派閥に入っておりませんわ」
「王妃は徳のある者がなるべきですわ。それが国家の利益になります」
「何ですって!私に徳がないと言うつもりかしら」
「いえ、そこまでは申しておりませんわ。マーリエ、行きましょう」
「ええ、ヘレン様」
毅然と断り上品に取り巻き達の中を通った。
やがて、メアリーが変えたと評判が学園中に広まる事になった。
最後までお読み頂き有難うございました。