7 良い子勲章なの~!
「え、何だって!金貨をこんなに払うのに断るって!豪邸だぜ。大きな仕事だぜ!」
「バカ野郎!王都の大工は誰も受けねえ!メアリー様に迷惑をかけて!」
「「「そうだ!そうだ!」」」
「フン、後悔するなよ」
とワシは捨て台詞を吐いた。
ワシ、今、最も勢いのあるこのカルル・キース様が大工ギルドで豪邸建築を依頼したら、断りやがった。
メェアリーの肖像画で大もうけをした有徳人だぜ!金は徳のある者に集まるのだ。
キース一家が頭を使って儲けた金だ。
愚人は汗水垂らして働いて、ワシらのような頭の良い者に利用されるのが仕事なのに。
家に帰った。相変わらずに雨漏りがするみすぼらしい家だ。
「父ちゃん。大変だ!メェアリー教会が勝手に俺の肖像画を模写して商売を始めた!」
「な、何だって!」
畜生、人の商売をパクりやがって。
「貴方、どうする?」
「う~む。ワシに良い考えがある。地方で肖像画を売ろう。引っ越しだ」
「貴方、暖かい所が良いわ」
「うん。俺もそう思う」
「そうだな。暖かい所で家を買おう。大もうけをしてな」
地方に移住だ。王都で流行った物は時間差で流行出す。
誰かが地方で売る前に売りだそう。
すぐに印刷ギルドに行った。王都で肖像画を多量に刷るのだ。
しかし、色よい返事はもらえない。しかも高くなっている。
「頼む。メェアリーの肖像画を刷ってくれ」
「ダメだな。今、王国から仕事が入っている。職人は大忙しだ」
「版木はある」
「王国案件は多色刷だ。手間がかかる。職人が足りない」
「なら、ほれ・・」
「まあ、良いだろう」
賄賂をやって、メェアリーの肖像画を刷りまくってもらった。
次に輸送を押さえるか?
運送ギルドに行ったが、これも高い。
「今、王国から輸送を請け負っているから大忙しだよ」
「何だよ。では・・・これを・・」
「まあ、端っこにぶっ込むか」
これも賄賂を渡した。
ワシらは手押し車に荷物を積み。王国の南都に向かった。
道中、ワイバーンを見かけた。ワシらの行く方角だ。
「父ちゃん。ワイバーンだよ」
「何か、運んでいるな。珍しいな。戦争か?」
まあ、ワシの知ったことではない。戦争が始まったら、何かで儲けよう。
今回、大分、金を使ってしまった。
そして、港町の市場で、スペースを借りて商売を始めた。1番良い場所だ。
「いらっしゃい!王都で大人気の聖女メェアリー様だよ!!」
「飾っとけば病魔が退散するよ!」
「手描き希望者は俺までお願いします」
ザワザワザワ~
お、人が集まって来たな。
「主人、これいくらだ?」
「金貨一枚だ!王都で大人気の聖女様だ」
「はあ?たけー」
「それに、何か、微妙だな」
フフフフ、人は高い物に価値を見いだすのだ。
「そうか、なら、帰った。ワシは価値の分かる者にしか売らん」
「・・・でもよ。メアリー様の肖像画は大銅貨一枚で売っているぞ」
「それも、鮮やかな色彩の物だ」
「それな。先週、王都から多量に入ったぜ。運送ギルドの知り合いが大もうけしたぜ」
「な、何だと!それは偽者だ!」
何だ。王都の印刷ギルドと運送ギルドが大忙しだったのは、ワシの他に誰かが偽メアリーの肖像画の販売に目をつけたからか?
ワシは商会に行った。薬剤ギルドだ。
店の前に貼られていた。
‘‘メアリー軟膏の創始者、聖女メアリー様です’‘
「はあ?こいつ、偽者だ!おい、ギルマスを呼べ!」
「何だ。こいつ」
ギルマスにワシは一生懸命に訴えた。
「ワシのメェアリーが本物の偽者だ!」
「お前、何を言っているのだ?」
「こちらは正当な軟膏のルートから仕入れたのだ」
「ヒドい!金儲けのためなら何をしても良いのか?!」
「はあ?この収益は、孤児院、救貧院、廃兵院に寄付されて、収益の3パーセントがメアリー様のペロペロキャンディー代になるって通達されている」
「嘘だー!全額懐に入れるつもりだ!そいつは偽者だ!金に汚い詐欺師だ!」
「ば~か、帳簿はうちらがつけて直接送るから確かだよ・・・と、うるさいからつまみ出せ!」
「「「はい、ギルマス!」」」
ドンと石畳の道に放り出された。
売り場に戻ったが、絵は売れていないどころか、市場長が来た。
「あのよ。場所代払ってくれない?」
「今はそれどころではない!」
「うっせー、1番良い所を陣取りやがって、大金くれるって言うから無理したんだぜ!」
その時、声が聞こえた。
拡声魔法だ。空からか?
【皆様、空をご覧下さい!欠損回復魔法のメアリー様です!メアリー様に祝福の光の舞をして頂きます!腰痛、肩こり。体調不良、若返りに効果があります!
申し遅れました。私、エルフのリーザと申します。エルフが言っているから確かですわ!エルフ、嘘をつかない。つけない種族です!では、メアリー様!一言どうぞ!】
何だ。市場の上空をワイバーンが三体飛んでいる。真ん中の一体がゴンドラを吊している。
その中に、幼女とエルフの魔道師?エルフ、信用はある。何て奴だ。エルフの権威を利用しやがって、汚いな。実力で勝負しろよ!
【なの~!聖魔法なの~!私がメアリーなの~!】
パラパラ~と青い光の粒子が落ちてきた。
市場にいた者は次々に叫び出した。
「おおー!肩こりが治った!」
「キャアー、肌がツルツルになったわ!」
「髪が、髪が生えてきたのじゃー!」
メアリーは聖魔法をかけながら笑みを浮かべた。腹黒い笑みだ。
・・・フフフフ、これぞ、メアリーインフレ作戦、資本主義アタックだ。
何か、中小企業のアイデアを大企業が乗っ取る様に似て嫌だったが。
相手は詐欺師だから良いだろう。
SNSなら、公式の声明か?
しかし、この作戦、嫌だな。メアリーが大人気になってしまう。もう、ひっそり暮らす事が出来なくなるのかも知れない。
【さて、皆様、提供は治療魔法ギルドでございます。さらに、下をご覧下さい。ポニー隊の登場です!悪を見抜く聖なるポニー!ロバート君が隊長です!】
その空からの声で、子馬の群れが、迷うことなく、ワシの・・・売り場に突進してくる!
【ヒン!ヒヒ~~~~ン】(あれだ!兄弟姉妹達!)
「「「「ヒヒ~ン!」」」」(突撃!)
「や、やめろ~!馬は紙を食べないだろ!」
「嘘、なんで、ここに一直線!」
「商売の邪魔をするな。衛兵隊!」
市場の者は、聖魔法の奇跡に目を奪われて、この一家に構う余裕はなかった。
そして、メアリーは王国の主要都市を回り。
王国から新たな勲章を授かる事になった。
☆☆☆王宮
「メアリー殿、良い子勲章を授ける!」
「はいなの~」
うわ。熊さんの形の勲章だ・・・お、これは可愛いな。
幼女勲章をもらったから、これで二つだ。
「さあ、メアリー様、良い子パレードですぞ!」
と宰相に促されて、オープン馬車に乗った。王都を回る。
「「「「メアリー様!」」」
「まさか、良い子勲章をもらう子が詐欺をするわけはないな~」
偽メアリー騒動は落ち着きを取り戻した。
「「「「メアリー様!」」」
しかし、
群衆の中に、グレーヌ伯爵夫妻がいた。
「メアリー、ワシだ。お父さんだよ!」
メアリーに駆け寄り警備の兵に取り押さえられたが、メアリーは。
「良いの~、話だけは聞くの~」
と近くに寄らせた。
「メアリー!我が子よ。戻って来てくれ。ドラゴンの糞を買い取ってくれた。また、助けてくれ!公爵家を出たのだろう?ワシの子に戻りたいからだよな!」
「そうよ。リリーの子だけど、特別に可愛がってあげるわ」
口々に自分勝手な事を言うが、メアリーの心中は複雑であった。
・・・こいつが、現世の父か。そう言えば、こいつが、お母様を騙さなければ私は生まれなかった。伯爵夫人も浮気されたのだから、そりゃ、私に意地悪をする気もわからなくない。
原罪か?わたしゃ、罪の子か?キリストか?いや、違うなメアリーちゃんだ。気分が沈むな。
どうする。放っておいても、お母様に何かをする力もないはずだ。
しかし、次の言葉で。
「そうだ。ミレーヌは廃嫡した。メアリーが総領娘だ」
「そうよ。伯爵家を富ませて!」
メアリーは久しぶりに怒った。
「・・・兵隊さん!やっぱりいいの~、王国のパレードを妨害した罪で捕まえるの~」
「「「はい!」」」
「そんな!」
「メアリー、どうして!」
このパレードは王国の年代記に公式に記された。
一組の夫婦が乱入したとだけある。
その後、メアリーは。
汚水槽を浄化するバクテリアの捜索を土魔道師たちに依頼した。
メアリーが死んでも続く都市の下水システムを作ろうとしたのだ。
これは、メアリーの義兄、グリケル公爵家の次期当主、土魔道のスキルのあるディーターが担う事を快諾した。
一方、メアリーは10歳になった。
その誕生日に、グリケル公爵家の結婚式を執り行う事になる。
メアリーの実母リリーとトムの結婚式だ。
「病めるときも健やかなる時も、トムはお母様を幸せにするの~!お母様を泣かせたら、チン蹴り100回を誓うかなの~!」
「まあ、メアリー様、いえ、メアリーちゃん。無体な事を言ってはいけないわ」
「いいえ!その覚悟です!」
「「「「アハハハハハハ」」」
「さあ、メアリー、今日はメアリーの誕生日でもある。皆で祝おう!」
「「「はい!」」」
「なの~!」
使用人の結婚式ではあるが、公爵夫妻、イザベラ、ベッキー、学生、多くの者が集まったと云う。
メアリーの改革は一言で言えば、道に落ちている馬糞の処理だ。都市衛生に尽きるが。
後に王国は幼児の死亡率が下がり。結果として人的資源に恵まれることになる。
まるで、蝶蝶が羽ばたいたら、竜巻が起きたようだとも評する人もいた。
最後までお読み頂き有難うございました。