5 第3の治療法出現なの~
偽聖女メェアリーの出現の原因はメアリーの名声が高まった事に由来する。
メアリーの治療院に連日大勢押し寄せてきた。
裏組織フランク一家が警備を担当しているが、メアリー会いたさに病人でない者までもが訪れるようになった。
「「「「メアリー様!」」」
「こら、用のないものは下がれや!」
「治療をお願いしたい」
「何だ。指に擦り傷じゃねえか?ツバつけとけや」
「それがしは、メアリー様のツバをつけて頂きたく」
「はあ、この変態が!」
フランク一家が警備をしてくれているが声がここまで聞こえてくる。
メアリーちゃんは時の人になってしまった。
さあ、どうするか?メアリーちゃんはひっそりと暮らしたい。
今、この治療院&貧困ギルドに残っている患者さんは寄る辺のない高齢者の方々だ。
マナが枯れ。延命で痛み止めの聖魔法をかけている状態の死を迎える方々だ。
シスターたちが、尊厳のある死を迎えられるように本の朗読やお話を聞いてあげたりしている。
「はっ!」
これは、私は気をつけなければ地球の聖女になってしまわないか?
宗教家が善人と言うのは間違いではないが正解ではない。
宗教を布教するのが目的で、その教義が倫理と抵触したら間違いなく宗教を取る。
釈迦だって、妻と子を捨て出家したのだ。宗教はそういった危険性をはらんでいる。
現にローマカトリックは人工中絶を認めない。例えレイプ被害でもだ。
地球の聖女、名声が高まった時に同時代に違和感をもつ人々がいた。
日本ではほとんど報道された形跡はない。
取るに足らない批判から、深刻な批判があった。
私の祖母が大学に公演を聞きに行ったのだ。
祖母は何だか浮かない顔でその時の事を話してくれた。
何でも、聖女様は道ばたで死に行く者を見つけハウスに連れて行き最期を看取ったそうだ。
祖母は『医者は?』と思ったが、
『インドの現実は厳しいのね・・・』
とだけ感想をもらした。
実際、多額の寄付金が集まり医者を雇う事は可能であった。
寄付金の中に投資詐欺で集めたお金もあった。
聖女と一緒に取った写真が広告に使われたのだ。
アメリカの判事は、その寄付金を被害者に返す事も出来ると呼びかけたが、聖女様は無言であった。
これは証言ではなく、実際にあった出来事だ。
証言は・・・少しおぞましい。
「メアリー様、寄付金を納めたいと家族連れで男爵様がいらっしゃいました」
「はいなの~、会うの~」
診療所の庭で会った。
「メアリー様、カカル・キールと申します。男爵位を拝命しております。今日は家族と共に寄付金を持って来ました」
「メアリー様、妻のベティーナでございます。今日はメアリー様と会えて嬉しいですわ」
「初めまして、ラルフだ。貧民救済事業に興味を持っています」
「初めまして、メアリーなの~」
「寄付金を持って参りました・・・お願いがありまして、家族と一緒に魔道写真を撮りたいのですか・・・」
家族連れ?怪しい。はまりすぎている。というか善意の人が来ても変わらない。
「写真はダメなの~、規則なの~」
ネブルク大公のアドバイス通り魔道写真は撮らせない。宣伝に使われたら厄介だ。
「ええ、そこを何とか。中部からワザワザ参りました」
「そうです・・・」
「明日には帰らなくてはならないです・・」
こんな時は。
「ヘルタ、来るの~、王国中部出身の方なの~」
「はい、メアリー様、あら、どこの家門かしら・・」
「い、いや、今日は帰ります」
と逃げるように帰った。金は持って帰りやがった。
ヘルタ、貴族学園でミレーヌの派閥の勧誘から助けた子だ。
ボランティアで来て頂いている。
「あら・・・知らない顔でした」
「有難うなの~」
「・・・私、お役に立ってますでしょうか」
「立ちまくりなの~」
・・・メアリーの読み通りこの家族は詐欺師であった。
「まあ、いい。馬鹿ではないと言う事だ」
「あんた。どうする?」
「次の手だ。ラルフ、顔は覚えただろう?」
「ああ、バッチリだ。親父、もう描いたぜ」
それは、微妙に似ていないメアリーの肖像画であった。
「フフフフ、どうせ、メアリーの顔なんて皆知らない。小さい物で最低金貨一枚だ。額縁に入れた物を金貨10枚で印刷して売るぜ。手描きは天井知らずってね」
・・・・・・・・
パカ!パカ!パカ!
とロバート君と廃兵院からの帰り道。
買食いでもしようかなと思い。
よさげな屋台を探していたら・・・人だかりだ。
ワイ!ワイ!ワイ!
「さあ、さあ、買った!買った!今をときめくメェアリー様の肖像画だ。飾っとけば病気にならないよー!金貨一枚だ!」
「「「買う!買う!買う!」」」
「功徳になるぞ!一部、メアリー様の診療所に寄付される仕組みってわけだ!」
あ、あれはいつぞやの偽男爵!とその家族だ。
「ロバート君、降りるの~」
「ヒヒ~ン」(はいよ)
私は抗議した。本物のメアリーちゃんが抗議すれば皆分かってくれる!と思ったが。
「これは詐欺師なの~!私がメアリーなの~!売るのやめるの~!」
しかし、違った。
「まあ、何?この子、メェアリー様に憧れて仮装しているのね」
「最近、増えたな」
「それに肖像画と微妙に似ていない」
「はっ!」
そう言えば、ロバに乗って聖女の仮装をしている子とかいると聞いた事がある。
さすがに聖女服は着ない。ローブで顔を隠すのが流行だ。
何でだ。前世では夫にしかモテなかった。健児は、もう、それはそれは・・・ってそれはいい。
「やめるの~、買ったら地獄行きなの~!」
「まあ、仮装した子供ね」
「それは言い過ぎだぜ!」
「けしからん子じゃ、よりによってメェアリー様を騙るとは」
「「「出て行け!」」」
「お尻ペンペンするわ!」
「ヒィ」
「ヒヒン、ヒヒヒ~~ン」(ヤバいぜ。とりあえず逃げよう)
トホホだ。
私をネタに詐欺を行っている。
皆、メェアリーとメアリーを混同している。
メアリーの貧困者ギルドや、エルフのおっさんも抗議してくれたが、全く、相手にしてくれない。
王宮に頼るか。でも、政教分離だ。これは、お互いにメリットがあるはずなのに。
あったな。ナンミョー先生が作った政党・・・おかげで新興宗教がやりたい放題だ。
欧州なら伝統的に災害があったら教会が避難所になったりするから免税、無税特権なのに・・・って今はそれを言っている場合ではないのだ。
とキャンディーストアのおっちゃんに愚痴をこぼした。
診療所に隣に越してきたのだ。
「ミルクお代わりなの~、ロバート君、人参のお代わりいる?」
「ヒヒヒヒン」(お嬢、買食い控えた方が)
「はい、お馬さんには人参ね」
「ヒン、ヒヒヒヒン」(まあ、頂くぜ)
正義は必ず勝つとは限らない。悪貨は良貨を駆逐する場合があるのだ。
あ、そうだ。
「おっちゃん。足を治してあげるの~!」
「ええ・・」
ピカッ!
これは、矢尻の破片?神経が損なわれている。
「おっちゃん。どこかに掴まっているの」
「おい、まあ、そうするが・・・」
「良い子の治療なの~」
ビビビビビ~!
「あれ、足が、何か変だ」
「おっちゃんは長い事足を引きずっていたの。筋肉が対応するようになっているの~!治療院から足場杖を持ってきてあげるから使うの~」
「いや、メアリー様、それ、もっと厳かに、ペロペロキャンディーをー片手にやったら、全然有難くないと思うぜ」
「ご意見ありがとうなの~」
・・・・・・・・・
さすがに、見逃せなくなったので、衛兵隊に連絡したら、
「当方でも、手をこまねいている。指導をしたが、聖女メェアリーで聖女メアリーとは別人と主張している。教会の管轄では?」
「なの~!」
皆もいきり立つ。
フランク一家が抗議してくれたが。
「おい、これは偽者じゃけえ!売るのやめろや!」
「みなさ~ん。裏組織が抗議しています。つまり、本物と言う事です!」
「「そうだ!そうだ!」」
逆効果だった。
「メアリー様、面目ねえ」
「フランクのおじしゃんいいの~、善意でやってくれて有難うなの~」
「ワシ、不器用で」
「いいの~、いつも警備助かっているの~」
畜生メー!とネットミームと化しているあのおじさんみたいに怒りたいが・・・
更に、深刻な事態を招いた。
メェアリー教団が出来上がってしまったのだ。
☆☆☆メェアリー教団
「「「なのなのなのなのなの~!」」」
「みなさ~ん。この肖像画に向かって『なのなのなの~』と唱えれば病気が治り金持ちになります。さあ、体験談の発表です」
「はい、王都東地区のルダです。メェアリー様の肖像画に向かって『なのなの~』と唱えていたら、靴の中に銀貨がありましたー」
・・・・・・・・・・
メェアリー教団が出来上がってしまった。まるでナンミョー先生の教団か?奴は生きているのか?
現代日本の新宗教や新興宗教でも病気が治るとか言って勧誘したり高額な壺を売ったりしていたな。
この世界でもそうなるであろう。
さあ、どうするか?
偽聖女メェアリーはまるでAIで作ったキャラクターのように本物は実在しない。
厄介な敵にメアリーは途方にくれるが。
解決方法はあった。
「メアリー様、いったいどうしますか?まるで、雲を相手にしているようです」
「・・・・方法はあるけど、最後の手段なの~」
本物の悪貨は偽者の悪貨を駆逐する。
さすがに、メアリーはこの方法を躊躇した。
最後までお読み頂き有難うございました。