1 悪評にもどこ吹く風のメアリー
「な、何ですか?これは、メアリー様!少しはお給金をもらいなさい!」
「なの~」
ネブルク大公が連れて来た帳簿係に怒られた。
寄付金をほとんど貧困事業に使っているからだ。
欲しいもの?棒付きペロペロキャンディーとロバート君の人参くらいだ。
日本だったらルンバにドラム式洗濯機が欲しいが、この世界の物では特にない。
服も聖女服だ。制服は楽だ。
グリケル公爵からは月銀貨30枚頂いている。18歳まで送金してくれるそうだ。
日本円の感覚だったら25から30万円くらいだ。エルフ屋には1日2食付で銀貨4枚、洗濯は自分でやっている時もあればリーザさんにお願いしている時もある。
ロバート君のご飯代もそんなにかからない。蹄鉄の手入れはエルフのおっさんにやってもらっている。
「メアリー殿、少しはお給金を取りなさい。ご自身でされた治療の対価も貧困ギルドに寄付している。
あまりに清貧過ぎると良くない輩も来ます。詐欺師が来ますからご注意を・・・魔道写真を撮らせてはいけません。一緒に写ってメアリー殿の高名を利用する輩も出るからです」
と大公殿下から忠告を受けた。
「はいなの~」
「まあ、メアリー殿なら大丈夫とは思いますがね」
「分かったの~、でもそれが1番危ないの~」
と言われた矢先、裏組織の方々が来られた。
髭ダルマ、傷ダルマ、皆、小太りで迫力がある。
10人ほどやってきた。
「おう、誰に断って商売しているのだい!!親分に挨拶しろや」
「家主様に断って商売しているの~」
「お~、きれいどころの姉ちゃんがいるな」
「「「ヒィ」」」
「メアリー様!」
シスター達が6人と元娼婦のお姉さんルビアさんが私にすがるようにして守ってくれている。ルビアさんは震えながら私の前に出て両手を広げている。
怖くても必死に前に出た気持が分かる。
そうか、教会の後ろ盾がないとこうなるのか。
私はルビアさんの脇をすり抜けて前に出て、おっさん達を諭した。
「ここは貧乏人しかいないの~」
「はん。インチキして寄付金を集めていると分かっているぞ!」
「それは貧困者の自立のためと死に行く者の最後の居場所を守るために使っているの~、浄財なの~」
「良い商売だな。ここからは独り言、最近、ボヤ騒ぎが起きているな~、あ~、インチキ商売を辞めれば俺たちが見回ってもいいかな」
ヤクザの脅しか?
「黙るの~、貧乏人の家に火をつける奴は大罪なの~!メアリーが粒子まで分解するの~!」
ボア~!
何か、私は光に包まれた。
髪もたなびいている。
スーパーメアリーちゃん状態だ。いかん。力を制御しなければ。
私はニコッと笑った。
「悪い事をしたらいけないの~」
「ヒィ」
「な、何だ!」
「何故、笑っている!!答えろ!」
答えろって言われても言葉が出てこない。
あれか、もしかして、この状況『うっさいわね!』か?
☆回想
私は中二病だった。
ネットの動画で楽曲、『うっさいわね!』を聞きながらコメントを書き込んだ。
「フウ、この楽曲刺さるわ~。
私の怒りの第1段階、ニコニコ笑う。これはまだ良い・・と、第2段階、ニコニコ笑いながら手を組み・・・」
「星子―!ご飯よー、早く来なさい。シチュー冷めちゃうわよー」
「あー、お母さん。今、良いところなのにー、シチューか仕方ない」
・・・・・・・・・
いかん。笑みはやめよう。TPOだ。
うわ。あの頃の自分を「はたきてえ!頭をバシッ」と
声が一部出た。
「ヒィ、何だ。こいつ!」
「一時退散だ!」
すると、更に不気味がって逃げて行った。失礼だろう。幼女メアリーちゃんは傷ついちゃうぞ。
「「「メアリー様!」」」
「「グスン、グスン」」
「皆、よく頑張ったの~」
皆、怖いのだろう。どうしようか。
と思っていたら、向こうの親分さんがやってきた。
頬に傷がある。中肉中背の迫力ある壮年の男だ。
後方にこの前来たダルマたちがいた。
「フランクと申します。この度はわっしの手下どもが大変無礼な事をしまして・・あのメアリー様だとは知らずに闇聖女の詐欺治療所かと思いました。大工ギルドに人夫を派遣していまして、相談したらギルマスから大変怒られました」
「俺たちが勝手に判断してやりました!」
「馬鹿、余計な事を言わないで謝罪をしないか!」
「「「申し訳ございませんでした!!!」」」
平身低頭だ。「何。闇聖女とは?」
「はい、ご存じだと思いますが、少しばかりの聖魔法を大げさに宣伝して治したと嘘をつく不届き者がいる次第でして・・」
「いいの~、分かってくれたら良いの~」
「それで、わっしらにも浄財をさせて頂きたい」
「ダメなの~、不適切なお金はもらえないの~」
「わっしらは娼婦の警護や賭場カフェを開いています・・・」
「なら、そのお金を娼婦の姐さんたちに使って負担を和らげるの~」
「それと、許されるのなら、娘の治療をして頂きたい。子分たちは詐欺治療に騙されたわっしを不憫に思い暴走しました。メアリー様を畏れ多くも闇聖女と間違えてしまった次第でして、この通りです!」
とすったもんだしたあげくに、親分さんの娘さんの治療をする事になった。
☆☆☆フランク一家
貧民街にしては大きくて立派な屋敷だ。庭まである。塀が高いな。見張所まである。
ロバート君と行った。
「ヒン、ヒヒン?」(お嬢、大丈夫かい?)
「大丈夫なの~、悪意は感じられないの~」
親分さんから説明を受けた。
「対抗組織から、顔に硫酸をかけられまして・・・あれから、グレーヌ伯爵の最新の治療法を試してもダメでした。少しも良くなりません。グスン、グスン」
武器軟膏か・・・
「治るか分からないけど、試してみるの~、治ったらお代を頂くの~」
部屋をチラと見ると、散らかっているな。鏡が壊されている。
「ソマリ、入るぞ。聖女様を連れて来た」
「こないで、また、どうせ、笑うのでしょう!」
「なの?」
「実は・・」
何でも質の悪い治療師は、お嬢様の顔を見て笑う者がいたそうだ。
それも大勢いる治療所でだ。
心に傷を負ったのだろう。
お嬢様はドアを閉じて出てこない。
ドン!
何とか開けてもらい。部屋に入った。
壁にお札?
いや、これは免罪符か。教会に寄付したから罪は許される。
それと、これは、ただの走り書きのお札。
私もエルフ女王からギフトをもらってから何となく分かるようになった。
この聖魔法、強いて言えば、物事に干渉する能力と言えるだろうか。
それがお札から全く感じられない。
「な、何?こんなおチビちゃん。どうせ、貴方も笑うのでしょう!ほら、見なさい!」
「なの~!」
ボア~!
鼻が溶け。顔の右半分に火傷の痕だ。右目は見えないのか。
これは廃兵院で治療したから経験済みだ。
触らないでも出来るくらいにはなった。
少し、宇宙からエネルギーをもらって・・・
「え、え、右目が見える・・・もしかして、鏡、誰か鏡を持って来て~」
「はい、お嬢様!」
「うわ~~~ん。お父様有難う!ごめんなさい。私、皆に当たり散らしたわ!」
「いいんだ。いくらでもこの父に当たってくれ!」
「「「お嬢!」」」
「「お嬢様!」」
感動のシーンだ。わたしゃ、感謝されるのは苦手だ。謝礼は後日もらおう。
屋敷を出る。
そしたら、親分が追いかけてきた。
「真の聖女様、どうか謝礼を!」
「こんなにいらないの~、金貨10枚だけ頂くの~、領収書を書くの~」
「ヒン、ヒヒン、ヒヒン」(俺の背中を台にしていいぜ)
「有難うなの~っとペンと」
「あの、どうか、もっとお礼をさせて下さい」
「なら、お願いがあるの~、この軟膏を傷薬としておいて欲しいの~」
と上中下あるエルフ軟膏を3つ渡した。
「お値段は金貨1、銀貨3,大銅貨3枚なの~」
これで日本円にして、ざっくり13万3千円ぐらいか。
「はい、本当に無欲な聖女様ですね」
「違うの~」
本当はルンバとドラム式洗濯機が欲しい前世があったなんて言えないな~。
あ、家族とクルーザー旅行計画していたのだっけ?
結構強欲だ。
「親分さんの家族を想う気持こそ尊いの~」
「ウウウウ、グスン、グスン」
腕を目にあて泣き出した。
あたしの今世の実父はヒドかった。愛人を作ってほったらかし。
私はニコッと笑ってロバート君に乗って去った。
しかし、何故、皆『真の』とつけるのだろうか?
この国にも聖女はいるだろうに・・・
一方、女神教会には公式の聖女、アマンダがいた。
メアリーのウナギ登りの評判にいらだちを隠せない。
皆、無意識に偽物の聖女だと分かっているのだ。
☆☆☆ワエキラエ王国女神教会本部
「王都市民がメアリーこそが真の聖女とうそぶいております」
「メアリー?どっかで会ったような・・・あの学園にいたガキか?」
「アマンダ様、如何されますか?」
・・・そうね。聖女は私よ。
「いつものように潰しなさい。そうね・・・裏組織に依頼よ」
「はい」
・・・・・・・・・・
それから、メアリーの診療所に罵声を浴びせる者たちが現れたが。
「お~い。ここの治療院は生き血を抜くぞ!」
「聖女と言っても教会から公認を受けていないぞ!」
しかし。診療所の周りからゴロツキが現れた。
罵声を浴びせた者達を囲み、
「あん?何だって、コラ!」
「おう、おう、俺たちフランク一家だ!」
「何だって、あの武闘派の、何でぇ!」
「「「逃げろ!」」」
秒で追い払われた。
☆☆☆女神教会
「何故、あの一派がついているの!」
「如何されますか?」
「なら、外堀よ!ビラをまきなさい!」
☆☆☆王都市場
「皆、良く聞け。今、評判のメアリーという野良聖女は、何と、アマンダ様に土下座をしたそうだ!詳しくはこのビラを見てくれ!」
「え、教義違反を咎められてメアリーがアマンダに土下座をした?」
「やっぱり、怪しいと思っていたんだよな」
「馬鹿、私は見たのよ!メアリー様こそ本物よ!」
「そうだ。体が青く光っていた。これほど強い聖魔法は見たこと無い!」
民は半信半疑であったが。女神教会に宰相ゼブリが直々に訪れる事態になった。
☆☆☆女神教会
「え、ゼブリ殿、何ですって、王国からの寄付を半分にするですって!」
「アマンダ様、何やらビラを多量に作るほど余裕があるようですな。それにドレスは今月何着目ですか」
「教義違反を咎めているのですわ!」
「ほお、このゼブリ初耳です。教義違反を咎められるのは聖王国の法王猊下だと聞きましたが」
「クソに聖魔法をかけていますわ!」
「それは教典の第何章に違反しますか?」
クッ、教典なんて読んでいないわよ。
「それに侍従が多すぎます。随分とイケメン揃いですな」
仕方なく、ビラでの真実の告発をやめたわ。
そしたら、寄付金は3分の1にしやがった。
このやり方はミリンダ!
相手がすがってきたら更に追い打ちをかける。
しまったわ。
でも、逆らったら、更に待遇が悪くなるわ。
教会税はさすがに手をつけられない・・・
その頃、市井では。
☆☆☆市場掲示板
「おい!こんどの懸賞金は何だ!」
「何、何、平民の貴族学園特待生、13歳から16歳までの平民。上位3名、親に資産がない子弟が対象、・・・学費どころか、生活費も支給する!テスト範囲は~」
「豪商じゃなくてもいけるじゃん!」
「でも、何故今だ?少し、早くないか?再来年からだろ?」
民は別の話題で持ちきりになった。
最後までお読み頂き有難うございました。