6 真の聖幼女
「婚約者選定の儀のお題を発表する。これが最後である。お二人とも良く頑張られた」
王宮謁見の間にて宰相ゼムリは宣言をする。多くの廷臣が見守り。公爵家と伯爵家の面々も恭しくミリンダ女王の玉座の前に各陣営ごとに横に整列をしている。
「お題は民でも安価に買える治療薬である」
一瞬、ミレーヌは笑みを浮かべた。
今、ミレーヌの治療法はアカデミー、軍部で関心を持たれていた。
「今までの戦績はイザベラ嬢一勝一引き分け、ミレーヌ嬢一敗一引き分けである。
次、イザベラ嬢が勝てば王妃、ミレーヌ嬢が勝てば、イザベラ嬢が王妃にミレーヌ嬢が側妃の布陣である」
「宰相閣下お待ち下さい。発言の許可を求めます」
「ミレーヌ嬢、発言を許可する」
「有難うございます。圧倒的な差で勝ったら、私が王妃・・イザベラ様が側妃でお願いしますわ」
これは、ミリンダ女王も小国の姫出身、才があれば下級貴族、平民までもを取り立てている風潮があるのでミレーヌは勝負に出た。
「まあ、良かろう」
と女王は即決をした。
「「「オオオ」」」
と廷臣達はどよめきを隠せない。
ミレーヌは発言を続ける。
「既に当方はドラゴンバームを開発しましたわ。軍部に採用をお願いしておりますわ。治療院を王都に10ほど開設予定でございます」
イザベラも続けて発言をする。傍らにいるのはメアリーではなくベッキーである。
「当家でもエルフの国から薬草を取り寄せ治療薬を開発しましたわ。ベッキー、お願い」
「はいなのです。これが軟膏なのです。一つは聖魔法を使いその場で切り傷が治るものです。お値段は金貨一枚なのです。もう、一つは2,3日で治る銀貨一枚、もう一つは効果が落ちますが、大銅貨3枚なのです。化膿を防ぐのです」
「ほお、そうか。どちらが民の支持を得るか勝負じゃな」
「陛下、奏上の許可をお願いします」
「グレーヌ伯爵、許可する」
メアリーの実父フランツ、決して馬鹿ではないが・・・
「グリケム公爵家の陣営に不釣り合いな人物がおります。メアリーです。
どうやら、棚からケーキで聖女のギフトを授かったようですが、とても、聖女に相応しくございません。
まず。出生が私生児です。それに・・・、あろうことか。聖魔法をクソに放つという所業を行っております。由々しき事態です。
教義違反を行っております。聖女アマンダ様を通して、貴族当主45家の連名を連ね聖王国に書簡を送って告発をしております」
自分が絶対に正しいと思い込む者は時にブーメランが刺さる。
女王は呆れて諭した。
「ほお、私生児が教義違反なら、その父も責められなければならないな」
「グゥ、それは・・・いささか論理の飛躍かと・・」
「「「「クス、クス、クス」」」
「呆れたわ。私生児の父が子供を私生児と批判するなんて」
「論理通りじゃないか」
しかし、実の所、メアリーは。
「グレーヌ伯爵様、メアリーは自ら家を出ました・・・グスン」
「そうなのです。・・・・グスン、グスン、グスン」
【はあ?】
「まあ、それじゃ、メアリーは何の後ろ盾もない野良聖女ね。聖魔法が使えるだけの冒険者と同じね」
キャハとミレーヌは思わず手を組み喜んだ。
一方、メアリーは、王都郊外の肥料ギルドで馬糞に聖魔法を放っていた。
☆☆☆王都郊外肥料ギルド
「なの~!聖魔法ビームなの~!」
ビビビビビビ!
「「「「「オオオオオオオ!」」」
「初めて聖魔法を見た・・・」
「ステータスオープンなの~」
・・・お、寄生虫殺しのスキルを習得したぜ。
自然肥料には寄生虫がいる。
クソに聖魔法を放つ。聖なるクソ、オミクソでいいか?
しかし、魔法は制約もある。
無から有を生み出せないのだ。出来たら創成魔法だ。
聖魔法を植物にかけたら成長する。しかし、地は痩せる。それを土魔法師が土をほぐして窒素を入れる。
土起こしよりも効果がある程度だ。
今はマーリエの領地で肥料を作っている方々に作業をしてもらっている。
荒れ地にまいて、大規模な農園を作るしかないな。
「皆様、宜しくなの~」
「「「はい、聖女様!」」」
私は転生者だ。この世界に居場所はない。
太極拳クラブはヘレンに。魔道科の指導はニッキーに。肥料ギルドはトーマスにお願いしている。
今はエルフ屋の2階で下宿をしている毎日だ。
「ヒン!ヒヒ~~ン」(お嬢、いくかい?)
「ロバート、宜しくなの~」
公爵様からポニーを贈ってもらった。今までは馬車だった。
この世界、聖女の服を着ていれば襲われる事はないけれども。
パカ!パカ!パカ!
おお、ポニーなのに早いな。
私が屋敷を出たのは理由がある。
私のスキルには、
あ、早速、冒険者崩れのチンピラに道を塞がれた。
「おい、そこの聖女の格好をしたガキ!」
「貴族か?金がないから貸してくれよ」
「ヒン?ヒヒヒヒ~ン!」(あん?お前ら後ろ足で蹴るぞ!)
そう、とても危険な能力がある。
「良い子ビームなの~!悪い事はやめるの~」
ビビビビビビ~
「はれ、俺、何て、悪い事をしているのだろう」
「お嬢ちゃん。通りな」
良い子ビームという能力がある。
恐らく魅了だろう。
王都に入り。エルフ屋に向かう途中、建設現場で人が倒れていた。事故か?
「うわ。大変だ。ハンスが石に潰された!回復術士を!」
「馬鹿、高いよ。それに来てくれないよ!」
「胸が潰されている・・・もうダメだ」
何だ。この世界は健康保険が崩壊したアメリカか?
民間の健康保険の会社があるけど、保険料は馬鹿高くて、三割が申請却下になると言う。中流階級でも入院したら破産。健康保険会社のCEOが暗殺されたら犯人がヒーロー扱いされる。
日本でもあったな。『加害者が悪いけれども』と枕詞がつく事件が増えたように思える。
やるせないな。
私は馬から下りて現場に駆けつけた。
「聖女様!何だ。仮装した貴族のガキか」
「遊びじゃないんだ。あっちにいけ」
「黙るの~!」
「ヒヒヒ~ン」(通してやりなよ)
「おい、馬、かみつくな!」
無理矢理通った。
「良い子の診断なの~!」
ピピピピピ~!
「ヒィ、何だ。あの幼女、目が光ったぞ」
「まさか、本物の聖女様!」
肺に骨が刺さっている。右手がちぎれている。
どうしたら良い。ニッキーが言っていたな。魔法はイメージだとか。
無から有を生み出す。欠損部位回復なんて、どうやってやっていたのだろうか?
そう言えば、真空からエネルギーを取り出す実験とかあったな。
胡散臭いけど、実際にあった。
確か量子のもつれ・・・
「良い子の人体図なの~!」
頭の中に人体図が浮かび上がった。
それに、空間と時間は直結している。少し、粒子で空間を凹ませて、エネルギーを取り出して右手を回復する。・・・・肺は、砕けた骨を消してそのエネルギーで骨を生成して正しい骨の配置に同時に出現させる。
これでやるか?
「まず。肺なの~!」
ボア~~~~!
「ヒィ、幼女の体が青く光っている!」
「次は、右腕なの~!」
「おい、ハンスの右腕が・・生えてくる」
「まさか、欠損回復?」
「真の聖女様だ!・・・」
(馬鹿、治療中だ。静かにしろ)
しばらくイメージを送っていたら、怪我人は起きてくれた。
「あれ、あれ、苦しくない・・・手が・・・動く。いや、ある!!」
「じゃあ、行くの~」
「ヒィン」(乗りな)
そのままエルフ屋に帰った。
「らっしゃい、お、メアリーちゃん。忙しくてかなわない!」
「手伝うの~!」
「有難い」
少し考えた。治療はイメージだ。数をこなさなくてはいけない。肥料ギルドやお手伝いの合間を盗んで
貧民街に向かう。
街角で寝ている人達がいる。
それも、病人だ。
「ウウ、アア」
「良い子の診断!」
肺炎か。
ここも汚い。不衛生な街だな。
ボア~!
「あれ、治った」
「バーガー食べるの~」
「あの、聖女様・・・助けて頂いて申し訳ありませんが仕事がないのです。だから行き倒れました」
あ、そうか・・・
と思ったので。
貧民街に大きな家を借りた。
公爵様からお金を頂いたのだ。それに毎月、養育費を振り込んでくれる。
実父よりも父親らしいじゃないか。
そこに、道ばたで倒れている人を集めて治療。
「グスン、グスン、私は娼婦です。不治の性病にかかって捨てられたのに・・・なのに、聖女様が助けてくれるなんて」
「いいの~」
仕事は、接客が出来そうな人をエルフ屋に派遣、今、大忙しだ。
エルフのおっちゃんは雇ってくれた。
しかし、
「この店舗じゃ限界があるな。これ以上、雇えないよ」
「分かったの~」
大工ギルドに行く。キッチンカーのイメージでリヤカーを作ってもらおう。
しかし、聖女の格好をした幼女だと思われて受付で却下された。
「子供はけーれ!ここは伝統ある大工ギルドだ。遊びじゃないんだぞ!」
「なの~!ギルマスに会わせるの~」
良い子ビームは危険な時以外は使わないと決めた。
どうしようもないな。
と思っていたら。ギルマスがやってきた。
「何の騒ぎだ・・・まさか・・・」
「ギルマス、変な子供が滅茶苦茶な事をいいます」
「馬鹿!三の辻の崩落事故に現れた奇跡の聖女様だ。お前、会報を見ていないからクビだ!」
「エエー!」
「聖女様!お探ししました!」
「あの奇跡の聖女様だ!」
「ウウ、ハンスです。有難うございました」
「なの?」
説明したら、喜んでキッチンリヤカーを作ってくれた。
「「「無料で作らせてもらいます!」」」
「ダメなの~!対価払うの~」
「何て謙虚な聖女様」
ダメだ。何を言っても聖女様だ。あ、聖女の格好をしているから仕方無しだ。
ああ、人が多くなってきた。
「メアリーちゃん。俺、エルフだぜ。人が多すぎで困るぜ!のんびり商売したいな」
そうか、なら、ギルドにするか。
職に困っている人にバーガーの移動式店舗、キッチンリヤカーで販売させる。
既存の市場に申請して出すも良し。
許可をもらって公園で売るも良し。
「なの~、材料はエルフ屋で仕入れるの~!ロイヤリティとして売り上げの1パーセントをギルドに納めるの~!それで皆、幸せになれるの~!」
「「「「「オオオオオーーーーー」」」
「ウウ、ありがたい。職がある。子供達を養える」
ギルドの名前は貧民ギルドにしよう。そうだ。本部は貧民街の治療所にしよう。
人が集まって来た。
中には。
「聖女メアリー様の活動に感動しました!是非、寄付をさせて下さい!」
「はいなの~!」
「聖女メアリー様、是非、当家まで往診をして下さい。治療費は払わせて頂きます」
「はいなの~!」
「グスン、グスン、メアリー様、私はシスターでございます。メアリー様の活動に感動しました。是非、ボランティアとして働かせて下さい」
「はいなの~、でも、お給金は払うの~」
ロバート君に乗って、パカパカと王都を移動すると。
「見ろ。真の聖女、いや、幼女だから、真の聖なる幼女様だ。道を空けろ」
「まあ、急患の所に行くのね」
「ありがたや」
「「「「真の聖幼女だ!」」」
な、何だ。真とつくと途端に怪しくなる。
肥料ギルドにおみくそに聖魔法をかけに行くだけなのに・・・
この時、メアリーの活動は、数ヶ月であったが、王都を劇的に変える事になる。
最後までお読み頂き有難うございました。