5 メアリーちゃんの奇行なの~
「まあ、メアリー様、聖女の仮装をされて」
「いくら頭がおかしいからって、頭は女神様の御許に行ったのかしら。プ~クスクス」
「ミレーヌ様に報告よ!」
学園で聖女の正装をしているメアリーにミレーヌ派の令嬢たちが嘲りの言葉を投げかけた。メアリーにはベッキーが付いていない。ベッキーはイザベラの補助に付いた。
エルフの女王と会談出来た貴重な人材である。
メアリーに対して10人で取り囲む周到さである。
あの十倍の勢力で取り囲む戦略である。
しかし、メアリーはニコニコしている。余裕だ。
この幼女、微笑みながら令嬢を諭した。
「キャンバスには、降り注ぐ太陽の光。男女の笑い声、小鳥のさえずりが満ちあふれているの~、
なのに何故、君たちの口からは、誹りの言葉が出るの~?さらに、ゴホン!不細工になるの~」
「あ~ら、メアリー様は一応ですが先生でしょう。生徒に対して暴言は・・・エッ」
「な、何?」
「ミレーヌ様に暴言を吐いたと・・・何ですって!」
一瞬、令嬢たちは固まった。戸惑いを隠せない。
「な、何?何かのワナなの?」
「『ぬっころなの~!』とか言って暴れないの!」
「ヒィ、気味が悪いわ!ミレーヌ様に報告よ」
その時、メアリーの体が青く光った。聖魔法を放出したのだ。
ボア~!
すると、小鳥たちがメアリーの肩に留まった。
「チュチュン!」(おっ、何か良い心地)
「チュチュチュン~」(ここで休みましょう)
「ほら、微笑むと小鳥さんたちも来るの~」
「「「ヒィ」」」
「な、何を企んでいるの!気持悪い!」
「ミレーヌ様に報告よ!聖女を気取っているわ!戦略的撤退よ!」
・・・何だ。せっかく、メアリーちゃんが、優しくしているのに。
やっぱり先生は正しかった。こいつらカレンだ。
☆回想
転生前に通っていたミリタリー・サバイバル教室に生徒がボチボチ集まってきた。
あまりに内容がコアだったので、ご近所さんトラブル解決講座とかをやり始めたのだ。
先生は動画をプロジェクターに映して説明している。
「いいですか。皆さん。私がアメリカにいたときの話です・・・」
仕事仲間のマークの自宅に招かれて、友人たちとくつろいでいました。
これからバーベキューです。
奥様が慌ててマークを呼びに来ました。
「マーク、大変だわ。カレンが来たわ」
「何だって!」
カレンとは何?思いながらマーク夫妻と友人たちと庭に出ました。
そこには
中年の女性と、ガタイの良い男がバーベキューセットを片付けていました。
マークの友達かなと思ったのですが、どうも、おかしいのです。
マークはニコヤカに話しかけました。
「ハーイ、ここは私の家だよ。お間違えじゃないかな?」
「はっ?私は女性よ。妊娠しているのよ!」
「ファッ〇!おい、おい、俺の妻を笑っただろう?」
女性は中年の白人の女性、どうみても、妊娠しているようには見えませんでした。
意味不明な事を言います。
マークは小声で言います。
(ヘイ、ソガ、録画を頼むぜ)
(分かった)
「う~ん。警察に連絡をするよ」
・・・・・・・・
「数十分話して、何とか退散してもらいました」
話を聞くと、その夫婦は全く知らない人で、マークの家のバーベキューセットを白昼堂々と盗みにきたそうです。
それに、勝手に車の充電をされていました。
「ここで、重要なのは、家が知られている事、もしかして、ギャングに所属しいるかもしれない。薬物中毒者かもしれない等々あって。
マークは、穏やかに話し、録画をして警察を呼びました。これが無難なやり方だそうです。後で放火でもされたら大変です。
こんな訳の分からない行動を取る人達は人種や性別にかかわらずに多くいますが、特に白人の中年女性が目立つようで、『カレン』とスラング化していました」
「何か、一周回って日本と近くなりましたね」
「まあ、日本もおかしな人増えたわ」
「そうだわ。近所にいたら・・・住所知られているのよね」
・・・・・・・・・・・・・・
一方、ミレーヌは伯爵邸でメアリーの奇行と報告を受けていた。
☆☆☆グレーヌ伯爵家
「何ですって、メアリーがまるで聖女のように振る舞っていると?」
「はい、小鳥が肩に止りましたわ・・・聖魔法を体から放出をしていますわ」
「アマンダ様すら聖女なのよ。少し聖魔法があるだけですわ。それに小鳥も肩にパンくずをつけていたのだわ!それだけで帰って来たのかしら!何でも良いからメアリーを公開で論破しなさい」
・・・まだ、まだ、ドラゴンバームの勢いは止りませんわ。
アカデミーから賞賛をされまくっていますわ。
人が多く集まったけど、責任感のある者はいないわね。
「キャハハハハ、ハニー待て~!」
「ダーリン、捕まえてごらんなさい」
この二人は論外だわ。会合そっちのけ庭で追いかけっこしているわ。
そう言えば、ベッキーを思い出す。
ランドリーメイドのベッキーにドレスのシミを取りなさいと命じた事がある。
彼女は、ワザワザ、シミ抜きの方法を自分で調べて・・・使用人仲間に聞きまくったわね。
今にしてはそんな人材が欲しいわ。
「まあ、いいわ。予定通りエルフとの交易との反対運動を起しますわ。イザベラ様の手柄にはしませんわ。エルフ屋に行きますわ!ヘンリー、人は集まっているわね」
「はい、ご指示通り。声の大きな者を集めました」
「宜しいわ」
私達はエルフ屋に行った。
エルフは傲慢だわ。
反対運動を起せば・・・
と思ったらメアリーと学園の騎士達がいた。裏切り者ね。ドラゴンバームの利権には関わらせないわ。
人が集まっているわね。
「らっしゃい。らっしゃい。新発売の『ふらいふぃっしゅばーがー』だよ。魚を油で揚げた物だよをパンに挟みました」
「美味しいの~!」
「「「いらっしゃいませ」」」
「どうか、試食して下さい。美味しいですよ!」
「はーい。エルフのリーザです!すんご~く美味しいですわ」
何?エルフの女が民族衣装を着て販売をしているわ。あの足に長い靴下だわ。
まるで男どもに人気の舞台女優か踊り子ね。
「「「「ウワー!美人だ」」」
「「「綺麗ね-」」」」
「この『ばーが』いつものサンマサンドと違う」
女どもにも人気がある。
一時撤退ね。
「お~い。エルフは傲慢だ!激マズサンドを販売しているぞ!エルフとの交易は反対だ!」
私の派閥の貴族の貴公子が声を上げたわ!
馬鹿ね。今は不味い。世論の勢いは向こうにある。
王宮で奏上するべき案件なのに、それすら判断出来ないのかしら。
「馬鹿、お止めなさい!帰るわよ!」
屋敷に戻ってから説教よ。
「ヘンリー、どうして、調べなかったの!エルフは傲慢どころか。『らっしゃい』と客引きまでしているじゃない!」
「エッ、私は言われた通りにやりましたが・・・」
「もう、いいわ。帰って」
欲しい。ベッキーなら、馬鹿正直に調べて、違うと報告するはずだわ。
「あの奇行の意味が分からないわ。でも、メアリーよ。メアリーさえ何とかすればこの勝負は勝ちよ・・・」
「待て~、ハニー!」
「はあ、はあ、はあ、捕まえてごらんなさい。ダーリン・・」
全く、この二人はいつまで追いかけっこをしているのかしら!3時間は追いかけっこしていますわ。
「キャサリン様、ダミアン様、もう、お帰りなさい!」
「「は~い」」
全く、さっさと閨を共にすれば良いのに!
でも、ダミアン様の実家はお金持ちだから無碍には出来ないわ。
次の日、この二人はメアリーの前でも追いかけっこをしていた。
「待て、ハニー!」
「キャア、ダーリン・・」
・・・何だ。この二人、速度上がってないか?
「こら、ハニー、ミレーヌ様の所に行くよ~派閥の会合サボっちゃだめだよ!」
「でも、ミレーヌ様はメアリー様の事ばかり話しているわぁ~、つまらないわ」
「メアリー様に焦点を絞るのさ。待て~」
「キャア~捕まえてご覧なさい!」
あれ、騎士科学生並に早くないか?
あっという間に庭園の隅まで行ったぞ。
まあ、良い。今日も重要な情報を教えてくれた。
昨日はエルフ屋だっけ。エルフ屋にはお礼に小魚を油で揚げる方法を教えてあげた。
この調理法はこの世界でもあるが、あまり普及はしていない。
そうか、私は囮になろう。
薬の開発は進んでいる。
何故なら、私のスキルで製造方法が分かるからだ。まるで異世界転生みたいだな。
ってかそうだった。スパダリはいないがな。
製造ラインも大公殿下が用立ててくれた。
問題は他のギルドや関係機関との調整だ。
コンセプトは効果の高い治療薬から平民が買える物まで揃える。
切り傷に高級ポーションは不要。
さて、誰でも作れるように薬の製法を書き留めておきますか。
聖魔法は野良聖女でも作れる低級な物で十分だ。
私は転生者だ。全くの部外者だ。
お義姉様の婚約者が内定したら私は表から消えますか。
物干し売りか。エルフ屋で売り子でもやるか。
この時のメアリーは、まるで、これから起きる事態を悟っていたかのようにお姉さん顔だったと後にメアリー関係者は皆口を揃える。
最後までお読み頂き有難うございました。