4 スーパーメアリーちゃんなの~
☆☆☆エルフ王宮
「どうか、薬草を売って下さい。交易のリストでございます」
「お願いしますのです」
「なの~、お願いなの~」
「断る!」
エルフ女王との会見はおよそ1分で終わった。
巨木に囲まれたエルフの集落、人口は1000人いない。
エルフの女王、フィニス、エルフ古語で終わりを意味する。
年齢100歳、人族では15歳に見える。
まるで集落のこれからを暗示するかのようだ。
エルフの長老は言う。
「陛下は人族嫌いでございます。また、日を改めて下さい」
「はい、お願いしますわ」
三人は宿舎に戻り、メアリーは棒付きペロペロキャンディーをベッキーからもらった。おやつの時間だ。
「メアリー様、1日一本なのです」
「ワーイなの~」
包み紙には、『巧詐は拙誠に及ばない』
と書かれていた。メアリー直筆である。
「ハッ」
メアリーは息を吐き。転生前の記憶がよみがえった。催眠を解く暗示だ。
・・・あたしゃ、中2病だったぜ。催眠を冷ます強烈な記憶だな。
☆回想
教室の窓から空を見ながら、韓非子の言葉「フ、信じるから煩わされる」
とか吟じていた。
「星子~、お昼ご飯にしよー」
「ウ、良いところなのに」
「最近、物思いにふけること多いよね」
「世界の深淵をのぞいている」
うわ。恥ずかしい!過去に戻って自分をはたきたい!
人間不信とも取れる韓非子の言葉で異質な教えがあった。
それが、『巧詐は拙誠に及ばない』・・・・拙き誠が最上と言う。
たとえ話で、王が狩りをした。子鹿を捕らえたが、廷臣は可哀想に思って逃がした。
王は怒り彼を遠ざけたが、後に王子の教育係に任命した。
彼なら、王子を可愛がるだろうと判断したのだ。
突発的な善・・・とでも言うのだろうか?いつも人の心を動かす。
恐らくエルフの言う善もこれではないか?
私が性悪説になりきれないのも人は時に利害を超えて善を行う場合があるからだ。
例えば、第2次世界大戦中。
ユダヤ人を逃がしたドイツ国防軍の軍曹がいた。
初めユダヤ人虐殺はドイツ国内でもあまり知られていなかった。
しかし、虐殺の現場を目撃した軍曹は驚愕し、自分の裁量で動かせるトラックに乗せ。書類を偽造し。ユダヤ人を逃がし続けた。
しかし、彼は数ヶ月後、発覚し、処刑された。
およそ300人近く逃がしたと推定されるが、彼のした行いのおかげでドイツ軍の非人道的な行いが扇状的に広まり更に多くの人達が助かったと推定されている。
戦後、彼の家に訪れるユダヤ人いた。
しかし、彼の行いは当時の軍令違反だった。
死後ではあるが、彼の名誉が回復したのは西暦2000年になってからだ。
善を行っても自分に返ってこない場合が多々あるのだ。それでも行う人が後を絶たないのだ。
私も同じ状況になったら出来るだろうか?
とりあえず集落を偵察だ。
「なの~、遊んで来るの~!」
「メアリー様・・・・」
「大丈夫なの~、この集落には悪人はいないの~」
と言ってもエルフの悪人はいないのだろうな。
人族に対してはどうか分からない。
翌日、面会の許可は下りなかった。
最悪だ。
エルフも一枚岩ではない。人族と交易したい勢力は絶対にある。
その勢力を扇動してクーデターか?
いや、それは誠実ではない。
王宮は大きかった。人族との交易品もあった。
かつての大帝国の名残だな。
お義姉様とベッキーは王宮の前で陛下が出てくるのを待つ戦略をとった。
「陛下、どうか会わせて下さい!」
「お願いしますのです」
それが1番良いと思う方法だ。
私は遊びに出た。エルフの子供達に出会った。
「遊んで欲しーの」
「あ、人族の子だ」
「どーする」
こいつら子供に見えて50歳位なのだな。
「まあ、いいか客人だから遊ぼう」
「やだ、人族は性悪と聞くわ」
親の意見も割れているな。
「メンコ持って来たの~」
「何だそれ?」
「こうやって遊ぶの~」
「何が面白いのか?」
「じゃあ、凧なの~!」
「お、これ、戦で使うやつじゃねえ?」
私はアイテムを使い何とか子供達と打ち解けるようになった。
「ワーイなの~」
「おお、メンコもやってみると面白な」
☆☆☆エルフ王宮
「何ですか?外が騒がしい。気が乱れています」
「陛下、子供達が人族の遊びに興じております」
「見てきます」
外に出たら、昨日の人族の女が二人いた。
「陛下、お願いします。子供達のためです」
「そうなのです。お互いにメリットあるのです」
「フン・・・やっぱり視察はやめるわ」
「はい、陛下」
「どうかお考えを・・」
イザベラとベッキーは王宮の前で待つ。
それは3日間続いた。
二人は交代で食事、用便をすませたが。
夜もいるようになった。
その噂はエルフの子供達の間にも広まった。
「メアリー、人族の女が王宮に張り付いている・・・」
「無駄なのに」
「そうなの・・・お義姉様とベッキーなの。シュン」
後、数日か。
「かくれんぼしたいの~」
「「「分かった」」」
それから、更にお義姉様達が王宮の前で出待ちをして3日経過した。この国に来て7日目だ。滞在許可は10日。
それをやり過ごせば女王の勝ちだ。
一方、フィニスは王宮の奥で紅茶を飲んでいた。
人族との贈り物の交換で得たものだ。
「紅茶はこんなに美味い。砂糖も上質だわ。国を開いたら欲望で滅亡するわね」
「そうとも限りません」
「いえ、仰る通り」
それに、本も面白い。
かつて、エルフはこの大陸の半分を所有していた。
しかし、人族により追いやられた歴史がある。
私は子供の頃に、人族の奴隷商に捕まった事がある。
☆☆☆回想
「嬢ちゃん、逃げな」
「ヒィ、何故?」
「何だかな。理由はない。人族を代表して謝る地位にもない。しかし、これは・・・何か嫌だ」
この男は何の取り柄もない兵士だった。
私の魔道封じの腕輪を取ってくれた。
ワナ?そうでは無かった。
私は魔力で体を覆った。
ボア~
この男を殺そうとしたのだ。
「ハハ、そうなるよな。いいぜ」
「クゥ、殺すのは大魔道師や騎士だ!」
私は逃げた。人族は単体ではたいした事はないが、集団になれば厄介だ。
しかも、千年前のエルフの文明に近づいている。
今は無き植物紙、印刷・・・交易を実施し。南方のお茶や砂糖まで手に入る便利な生活。
里が汚染されるわ・・・・・
メアリーが来て8日が経過した。
イザベラとベッキーは沐浴もせずに24時間、懇願するようになった。
「お、女王陛下・・・お願い・・・します。子供達が・・・助かります」
「ゴホ、ゴホ、お願いするのです・・・」
何故じゃ。人族はすぐに死ぬ。
私はどうしたら良いか。
その時、間延びした幼女の声が女王の耳に入った。
「陛下、なんで魔族はエルフの里を攻撃しないの~」
「決まっているわ。それは、私がいるから・・・」
「違うの~、エルフの国の南には人族の大国ワエキラエがあって、魔族と国境を接することを嫌うの~、魔族も同じなの~」
「そんなこと・・・」
「陛下が魔王と匹敵しても人数が圧倒的に少ないの~!」
「ワエキラエ王国はエルフの国を攻撃されたら、魔族をフルボッコするって言っていたの~」
「貴様は誰だ!」
女王はやっと声の主を見た。
メアリーだった。
棒付きキャンディーをペロペロしていた。
ペロペロ~
「何故、人族の子が入っている!」
「いわば、人族がいるからエルフの国は存続しているの~!エルフは人族の友好種族として生きるしかないの~」
「貴様!」
その時、メアリーを呼ぶ声がした。エルフの子供の声だ。
「ヒィ、メアリー、この部屋入っちゃダメだよ!」
「早く来て!」
「はいなの~!」
そうか、もう、この王宮を維持する事も出来ない。
秘密の抜け穴があってそこから子供達が入って来たのね。
「爺、正装をします。準備させなさい」
「御意、決断されましたね」
「ええ、私の名前は『終わり』よ。停滞は終わりって意味よ」
少なくても王宮の前にいる者は誠実だ。
あのこざかしい子供は危険だわ。
・・・・・・・
「人族の者よ。友誼を結ぶ話会いをしましょう。まず沐浴をして着替えて来るが良い」
「「はい!」」
後で実務者同士が話し合う事にして、イザベラお義姉様は魔法袋に格納してきた交易品のサンプルを贈り物として渡した。
宴会を開いてもらって、エルフの実情が分かった。
高級品が魚なのだ。だから下町のエルフのおっさんは魚屋を始めたのだ。
森の恵みだけで生きるには限界がある。
狩りも調整として行っているから肉は限定的だ。
森なので農耕も限界がある。
だから、私は長老達に縄文時代の三内丸山遺跡の話をした。
「果物がなる木をまとめて植えるの~!」
三内丸山遺跡では栗の木をまとめて植えていたとの説があった。
現代人が考える農耕とは別物だ。
「ほお、それは大丈夫なのですか?」
「分からないの~、でも、人族の里では森のほとんどは人の手が入っているの~!」
「それは興味深い。視察団を派遣したいですな」
そして、最終日。出立の日。
エルフの女王に直々に言われた。
「エルフは義理堅い。贈り物をもらった。故に返礼をしたい。それに薬草を精製するには聖魔法が必要ぞ。大聖女のスキルを与える」
「陛下、それは有難いですわ。帰国してから聖女を派遣しますわ」
「フフフフ、そうはいかない。今、ここでだ」
「まあ、それは・・・有難いですが、人物の選定を王国に打診しますわ」
「いや、余はメアリーが気に入った。今、授ける!森の精霊よ。かの者に大地と意思を通じる役目を任じよ!」
ピカッ!
「え、なんなの~」
私の体が光った。
力がみなぎる。これ、スーパーメアリーちゃんか?私、怒ってないが、髪が逆立つ感じがある。
髪は金髪になるのだよな。って、金髪だ。
「アハハハハハ、メアリーよ。これでお前は一生、聖女として生きなければいけなくなった!こざかしい知恵を捨てて誠実に生きなければ皆は納得しないぞ!」
女王は悪人を善人として強制的に生きさせる罰と考えていた。
「まあ、メアリーちゃんは良い子ですのに・・」
「そーなのです」
「なの~!」
一方、メアリーは震えて嫌がった。
「なの~!大変なの。ベッキーに隠れて買食い出来なくなるの~」
それは、嫌がると女王は喜ぶと思ったからだ。
「アハハハハハー!お前はこれから大聖女として生きよ」
「ウワ~ン。メアリーはこれから良い子になるしかないの~大変なの~!」
「ア~ハハハ!」
「なの~~~~!」
女王の高笑いと幼女の悲鳴が森を木霊した。
最後までお読み頂き有難うございました。




