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2 メアリーは幼女の心を取り戻したの~

 今、私は公爵邸の庭で太極拳をしながら思索にふけっている。


 これから大きな流れがこの世界を襲う。


 神の視点から歴史を見られる我々は過去の人々の行いを愚かだと断じるのはたやすい。


 バブル時代に転生してあの愚行を止められるか?

 現在のネット炎上すら難しいのに、鎮火を待つしか無い。



 ミレーヌの治療法は武器軟膏だ。


 16世紀にホーヘンハイムと言う医者がいた。

 彼は民間の治療法を集め。使える治療法と使えない治療法とを判別をしたが、その中に武器軟膏という奇妙な民間療法があった。


 刀傷には通常の治療法ではなく、斬った方の剣に薬をぬれば効力がある。という奇妙なものだ。


 当時の人もこんな馬鹿な治療法はインチキだと思う人々がいたが、実験をしたら、明らかに通常の治療法よりも効果が認められたそうだ。


 軟膏を塗った武器と患者の間には共感する力が働く。


 論争が続き。

 実験も続けられた。



 しかし、おそらく18世紀には廃れて行く事になる。


 時代が進むにつれ

 銃撃の傷には効かない。

 段々と通常の治療の方の効果が上になっていく。


 オチとしては、時代が進むにつれ軟膏の質が上がって行ったのだ。

 昔は、軟膏にワニの糞や蚊の油など不衛生の物を使っていた。

 だから、何も塗らないで自然治癒力に任せた方が早かったのだ。


 しかし、一見無駄と思える論争も、

 ニュートンが引力を発見したときにその批判は武器軟膏批判派の論調が使われ。引力は耐えられる論であった。

 哲学や占星術、錬金術を排し。自然現象だけで説明出来たのだ。


 この後、西欧文明はイスラーム、東洋文明を押さえ飛躍する。

 見えない力を現実の物として認知する能力が格段に上がったと思う。



 この失敗から学ぶことは多い。

 自然治癒力の高さ。

 論理的思考の落とし穴。

 おかしい物はおかしいと思える直感の大事さ。

 中世の人はそれほど馬鹿ではない。現代でも同じ事が起きている可能性がある。


 現代でも科学で全てを説明出来ていないのだ。だから量子論が生まれたのだ。粒子の世界の物理法則は分からない。

 確率でいいじゃんと言う事だ。アインシュタインは神はサイをふらないと激怒したとか。

 今は「ヒモ理論」か?まあ、良い。




 おっと、ここで気合いと。


「ハ!なの~」


「メアリー様、公爵様が戻られました。他の方々も集まっています」

「ベッキー、有難うなの~」



 公爵邸の講堂に向かう。

 皆が集まっている。お母様も、トムも隣にいやがる。


「実は皆様に報告があるの~!私は転生者なの~」



 まず。私がした事は転生者である事を告白した。

 それも異世界の進んだ文明だ。


「ミレーヌの治療法は武器軟膏なの~!この世界には魔法があるから、信じられる土壌が高いの~、とても危険なの~!」



 私は武器軟膏について話した。


 そして、懇願する。


「ミレーヌを止めるには皆様の協力が必要なの~、皆様をコマのように使うの~」


 どうだ。

 お義父様とお義兄様は即断した。


「分かった。当主として全面協力だ。ディーターはどう思う?」

「はい、話を聞く限り事実だと思います。でも、反証実験をするべきです」


 イザベラお義姉様も仰る。


「分かりましたわ。メアリーちゃんの言う通りに動きますわ」



「「「我ら使用人一同は旦那様が一任したメアリー様に従う所存です」」」」

「「「騎士科学生も同じです」」」



 あれ、転生者はスルーか?今まで黙っていたのに。


「私は転生者なの~、今まで黙ってごめんなさいなの~」


 ペコと頭を下げた。



「フフフ、メアリーちゃ、いえ、メアリー様は孤児院の学校に通っていたとき、他の子と何か違うと思っていたのよ」


 お母様・・・『様』付か、少し寂しい。


 お義父様は総括する。

「あのタイキョクケンというものは幼児の頭から出てこまい。むしろ、その方が納得する。だが、メアリーはメアリーだ」


 トムが・・・


「ええ、メアリー様はメアリー様です。それは変わりありません。リリーから聞いていました。とても賢い子だと」


 とにこやかに言いやがる。



「フン!トムはお母様を幸せにするの!」


「「「ハハハハハハハハハ」」」


 お母様とトムはまだ結婚をしていない。

 イザベラ様に気を使われているのだ。



 それから、私は自分の考えを述べた。


 戦略は真っ向勝負だ。こちらは傷薬に効果のある薬を開発する。


「騎士科学生様には辛い事をお願いするの~」


 反証実験だ。軽い刀傷を作り。50人のうち半数を、ミレーヌの薬ではない市販されている薬で治療する。

 もう、半数は武器軟膏のやり方で治療だ。


 効果が同じだと分かれば、『ドラゴンバーム』は売れまい。


「「「どんと来い」」」

「「「おう!」」」


「ニッキーがアカデミーに届けて正式に実験するの~」

「はい、任せて下さい」



「イザベラお義姉様とベッキーはメアリーと一緒にエルフの国に行くの~!薬草を交易で手に入れるの~」


「分かったわ」

「はいなのです」



 今、エルフの国は半鎖国状態だ。


 文献で調べたが、薬草の産地だ。

 エルフから認められた少数の人が交易を認められている。

 ごくわずかだ。

 それが薬の品質の低下の原因だ。


 王国は度々使者を出しているが追い返されている。


 私は仮説を立てた。エルフは善人しか認めないのではないか?

 善とは何だろう。定義が難しい。


 だが、イザベラお義姉様とベッキーは難なく行けるだろう。

 問題は私だ。



 とりあえずエルフをみておくか。


 お義姉様とベッキーとで見に行く。

 王都には大使館みたいに機能しているエルフ屋という魚屋さんがある。

 平民時代に行った事がある。




 ☆☆☆王都下町魚屋エルフ屋


「らっしゃい!らっしゃい!」


 エルフのおっさんが客の呼び込みをしている。


 ここはエルフ屋と呼ばれている。

 エルフは長寿種だ。長年同じ人がいるので目印になっている。

『あのエルフ屋の角を曲がって・・』とか道案内になっている。


 改めてみると身長は180センチくらいだ。耳が尖っている。

 鼻が長い。

 肌は白い。ナーロッパの白人よりも白人っぽいな。


 今は愛想が良いが、機嫌を損ねたらどんな顔になるのだろう。


 あ、明らかに貴族の使者がやってきた。



「これ、亭主、エルフの国と連絡が取れるのだろう。今をときめくグレーヌ伯爵が会いたいと言っている。魚屋の一月分の収益を差し上げるから屋敷まで参上せよとの事だ」


 上から目線で言いやがる。


 すると、エルフの亭主は途端に不機嫌になった。


 顔にシワが出来て、目が鋭くなった。


「あん?それ、俺にいってんの?金が欲しければ魚屋をやっていないよ」


 何だろう。この迫力はオーガとゴブリンの中間か?これから魔法が出るのか?


「ウ、後悔するぞ!ミレーヌ様が王妃になられたらここに住めなくなるぞ!」


「あ、そう、なられたら考えるわ!おら、リーザ、水を掛けろ」

「あいよー」


 バシャン!



 使者は去った。


 私達は入れ違いで声を掛ける。


「おじちゃん!サンマサンドイッチ下さいなの~、三人分なの~」


「はいよ~、お、メイドの子だね。新規のお客様?お久!」


 パチン!


「エイ!なの~」


 ハイタッチした。


 いきなり本題を出さない。


 お義姉様とベッキーにサンマサンドイッチを分ける。


 うん、激マズだ。サンマの肉がパンに絡まって、サンマのおいしさが打ち消されている。

 しかし、昔は少ないお小遣いでお腹いっぱいになりたいから、よくここに通った。



「う、ゴホン」


 やはりお義姉様には厳しかったようだ。


「お姉さん。水飲みな、そんながっついたらダメだぜ」

「有難うございます」


 ベッキーちゃんは貧農の出だ。だから味に関係なくタンパク質を取れたら取る体質なんだろうな。

 私もそうだった。



「味はどうだい?」

「激マズなの~、お魚をパンに挟むシリーズはやめた方がいいの」


「そうか・・・うん。人族には合わないか・・」

 ここで本題を切り出そう。


「おじちゃん。実はエルフの国に行きたいの~!」


 さあ、どうでるか?


「ああ、いいぜ。連絡しちゃる」


 意外とあっさりいった。


 しかし。


「でもな。王に会うのは良いが、交渉出来るかどうかは別問題だぜ」


「いいの~」


「陛下は善人しか認めないぜ」


「善って何なの~」


「俺もわからねえ。だけどな・・・・」


 エルフのおっちゃんは話してくれた。



 ・・・昔、エルフは迫害されたのだよ。そりゃ、エルフは傲慢な部族もいるが、人族にとっちゃ区別はつかないだろう?

 それに美男美女だらけだから奴隷として狩られた時代があったのだよ。


 そん時に、咄嗟に助けてくれる人族を善として認めていたな。


 しかし、商売で助けようとするのは嫌う性質がある。

 エルフは商売下手だしな。


 贈り物の交換として少数の人族が取引をしている状態だ。

 結果、少数の高純度のポーションしか市場に出回っていないのが現状だ。



「有難うなの~、私はメアリー・グリケルなの~」

「私はメアリーの義姉、イザベラ・グリケルでございます」

「私はベッキーなのです」


「おう、エタリーゲル・フォン・フリゲートだ。家内はリーザ・フォン・フリゲートだ」


「こんにちわ」


「こんにちわなの~」

「よろしくお願い申し上げます」

「こんにちはなのです」



 エルフは商売が苦手で嫌うか。薬草の交易、いきなり雲行きが怪しくなった。


 いろいろ取り決めをして。 

 屋敷に戻ったら、とりあえず。



「ベッキーにお願いなの~、お姉さんスキル発揮するの~、メアリーと遊ぶの~」

「はい、分かりました」



 皆が、それぞれ準備しているときに、私はベッキーと遊び。

 幼女の純粋な心を取り戻すぜ。

 あの時代は楽しかったな。



「メアリー様、木に登ってはダメなのです!」

「ごめんなしゃいなの~」


「フフフフ、おままごとをするのです」

「はいなの~」


 あ~楽しい。前世で最後におままごとをしたのはいつだったか。



 そして、一週間後。


 王国に申請していたエルフの国行きのワイバーンが屋敷に到着した。


「グガ!グルルルルルル~」



「なの~、ワイバーンさんお願いしますの~、お義姉様とベッキーとでエルフの国に行くの~楽しいの~」


「メアリーちゃん。そんなにはしゃがないの」

「メアリー様、ハンカチを持ちましたか?」

「持っているの~」


 すっかり幼女の心を取り戻したメアリーがいた。




最後までお読み頂き有難うございました。

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― 新着の感想 ―
歴史と雑学好きなので、今回の軟膏の話は大変興味深いです。
私はてっきり、〇〇〇チンキかと浅はかに思っておりました。 武器軟膏とか、よくご存知ですね
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